北海道医師会

新型コロナウイルスに関する情報

令和2年度救急医療対策部会全体会議(特別企画)

2021年04月01日

報告 令和2年度救急医療対策部会 全体会議(特別企画)

常任理事・救急医療部長 青木 秀俊

 令和3年1月24日(日)、札幌グランドホテルにて、救急医療対策部会全体会議(特別企画)をハイブリッド(現地会場+Web)により開催した。
 今年度は、新型コロナウイルス感染拡大状況下のため、例年と内容を変更し、「救急医療における新型コロナウイルスの対応」をメインテーマとして基調講演とシンポジウムを行った。また、当日は北海道医師会勤務医部会全体会議として、勤務医部会員の方々もWebで聴講された。今回、新型コロナウイルスに関する貴重な講演やシンポジストからの発表があったので、概要を以下のとおり報告する。

基調講演 「新型コロナウイルス感染症とその周辺 -これまでとこれからを見据えて-」

一般社団法人 Sapporo Medical Academy 代表理事 /札幌市危機管理対策室参与 岸田 直樹

 新型コロナウイルスの特徴としては、「格差」があること。医療従事者同士でも、感染症専門医でも認識に格差がある。地域の格差も大きく、北海道内においては感染者が出ている地域と出ていない地域では全然違う。札幌は日本でも4番目の人口を有しているが、人口密度都道府県ランキングでは最下位である。札幌と東京の実効再生産数の比較では、札幌は東京の14日遅れで感染の波が来ていることがわかる。札幌は東京のとなり街、もっと言うとススキノは東京のとなり街という状態である。新型コロナウイルスだけに注目することは得策ではない。問題の多くは2020年以前からある社会課題がコロナで浮き彫りになっており、まずは2030年を目指したビジョンを考えながら対策を検討していくことが必要である。
 流行をより表すものとして、感染した日、発症した日、確定した日、公表日があるが、もっとも流行を表すのは「感染した日」である。しかし、よく使われるデータとしては「公表日ベース」であるが、それは稚拙なデータ分析であることを理解してもらいたい。さらに、クラスター発生も大きく影響を受けることから、発症日ベース、かつ、初発・孤発患者のみのデータが極めて流行を表したものになる。
 各国の動きとして、世界では1日約700万人の新規患者と1万数千人の死亡者が出ている。ヨーロッパの状況について、昨年秋に少し減らせた国(イギリス、ポルトガルなど)は再増加し、半分程度まで減らせている国(オランダなど)は同じぐらいの波が出ている。1/3以下まで減らせている国(フランスなど)は、波が大きくなっておらず、大きく減らせた国は波が大きくならないことがわかる。札幌では、第3波で、76%ダウンに抑えられたので、年末年始は26%アップで留まった。
 次の波のタイミングについて、昨年「サイエンス」はコロナ収束が2022~2024年までと予測された記事を掲載した。札幌はハンマー&ダンスで、予測通りになっている。札幌の第2は4月17日頃、第3波は11月11日頃であることから、次の波は2月23日頃(約3ヵ月に1回)に来ると予測される。遅くとも感染日が2月23日になるため、確定日はその9日後の3月4日となり、年度末波が来る。同じぐらいの波になるかどうかは、これからどこまで感染を抑えられるかによる。年度末で人の動きがあるが、その前に送別会シーズン(2月末頃から)で微増していき、年度末の人の動きが加わる。
 変異株については、通常2週間に1回ぐらいで変異していくが、南アフリカの変異株は今まで変異してきたところと全く別のところで、突然20を超える変異があった。変異株次第で今後の予測が変わっていくと考えている。
 札幌において、波を小さくする方策として力を入れていることは、ススキノの勉強会である。ススキノの感染者を夜の3密(密室、秘密、密着)対策でいかに小さくしていくか。さらに、実際直面する大きな問題としては、すすきの駅や新千歳空港の人流が約30~40%減しているものの、札幌駅の人流が約17%減であまり減っていないことにある。働き方について、20%テレワークという提案をしているが、ここがカギを握っているのではないかと考えている。
 今後の予測について、アメリカの大学研究チームから、新型コロナウイルスは普通の風邪コロナに10年後に溶け込むのではないかという論文が出された。コロナをきっかけに、これからの医療をコロナだけに拘らず、さらに洗練させて進化をしていく必要がある。
 人口動態変化として、日本は2100年に向けて人口が半減する国である。出生数はどんどん減り、少子高齢化、人口減少はどんどん加速していく。団塊の世代、生涯未婚率の上昇、一人暮らし高齢者の増加に加え、医療費増加の問題もある。これからの日本を予測する未来の人口動態変化でどのくらい産業構造の需要供給バランスが崩れるのか「超高齢国日本における不均衡予測」を算出したところ、特に生産年齢人口が減るため、1,000万人ぐらいの人の動きを変えていかなくてはいけない。産業ごとの不均衡で比べると、全てにおいて労働力が不足するが、特に医療の需要・供給の不均衡が大きく、医療こそが大きな変化を求められている。国は2035年に向けて「健康先進国」を目指すと言っているが、これを踏まえて見ていくことが大切である。
 コロナに限らず、さまざまな場面での行動変容が急ピッチで求められている。このような話をすると、「わかった」と言われるが、わかっただけではなく、変わらなければならない。「わかる」の1文字を入れ替えると「かわる」となる。「わかる」ということは、「かわる」ことである。さらに、多くの方から「いまさら」と言われるが、「いまから」に変えてもらいたい。
 これからの医療は、右肩上がりの成長という足し算ではなく、引き算の時代に医療が突入している。コロナを含めて周辺を見据えた話し合いをすることが大切である。

シンポジウム -新型コロナウイルス感染症への対応と課題- 「感染症指定医療機関の入院調整について」

市立旭川病院 副院長 柿木 康孝

 旭川市では、昨年11月、12月は医療機関などでクラスターが発生し、ホットスポットとなっていた。
 旭川市における5基幹病院でCOVID-19対応連携を協議し、レベル1~4を設定して対応することを考えていたが、想定を大幅に超える患者が発生した。医療機関や5基幹病院の中でのクラスターは想定外であった。
 慢性期病院の患者を急性期病院が受け入れるのは一定の限度がある。市中感染が増え、スタッフの家族等で感染が広がると、人員確保の問題も出てくる。結局は自分たちに返ってくるということを今一度再認識し、自分事として地域で対応する必要がある。

「旭川・上川圏域COVID-19災害対策班の活動について」

JMAT北海道統括責任者/森山メモリアル病院内科部長 丹野 克俊

 旭川市では11月に入りクラスターが多数発生したことから、11月27日より旭川・上川圏域COVID-19災害対策班支援を開始した。対策班の構成としては、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部地域支援班を中心として、日本災害医学会推薦人員、国立感染症研究所のクラスター対策班、地元医療機関や旭川市保健所、北海道保健福祉部等であった。
 支援班の活動場所としては、保健所内支援本部、病院、クラスター発生施設等であり、保健所内支援本部活動やクラスター施設内現地指揮所運営などを行った。
 クラスター施設内現地指揮所では、指揮系統の明確化や感染制御(ゾーニング)、人的資源の把握と確保などの対応を行った。人的資源の把握では、患者/看護師比などを用いて現状把握を行い、外部支援組織との仲介などを行った。支援に入った施設では、感染制御が奏功し、2週間程度で収束方向へ進んでいった。
 所感としては、北海道JMATなどを中心としてクラスター発生病院に対する道内サポートシステムが必要と感じた。クラスター対応経験のない郡市医師会において、サポートを必要とする病院が発生した場合、道JMAT医師等と事務局員で当該施設に赴き、クラスター施設内現地指揮所における調整活動を数日間行い、事態の収束に貢献する。このような対応が可能になるような実務研修を行う必要があると考えている。

「札幌市のコロナ陽性患者対応について」

札幌医科大学医学部救急医学講座 講師 上村 修二

 行政と医療に求められていることは、医療、安心、隔離である。4月17日から5月15日までは札幌医療圏の入院調整を手伝い、以降は一旦札幌市保健所に引き継いでいたものの、第3波に入り11月9日から再度入院調整として人員を派遣している。
 まず始めたところは安心の部分であり、経過観察(ハイリスク、高齢者)の方を入院から宿泊療養へ切り替え、緊急入院できる病床の確保を行った。
 第3波ではっきりしたことは、多くの陽性患者が発生すると安心も隔離もできないので、医療に集中することが必要だということである。
 医療については、本来、外来対応となる咳や発熱等症状の方は入院ではなく宿泊療養や自宅療養に変更した。札幌では入院でも当日入院と翌日入院に分けた。これは医療機関での負荷を軽減する目的で導入した。第3波からは自宅療養(主に自己都合)が増えたため、夜間緊急搬送体制を担保することが非常に大切となった。
 第4波が来た場合、宿泊療養施設に全員が入ることは難しいため、原則隔離が必要な場合のみ宿泊療養になると考えられ、それに伴いオンライン診療や自宅から急変時に対応できる病院が必要となる。
 今後は全医療機関での対応が必要となり、医療機関にとっては陽性患者の受け入れだけではなく、外来支援などいかに多くの医療機関を巻き込んでいくかが重要な鍵となる。指定感染症解除の話題もあるが、実際には医療と隔離をどうするかの議論がなされてからではないかと考えている。

「救急医療機関での発熱患者の受入れについて」

手稲渓仁会病院 副院長・救命救急センター長 奈良 理

 札幌市における救急搬送は年々増加し、特に高齢者の割合が増加している。
 第1波と第2波のデータを見ると、当院では総搬入件数は減少した(特に外因性疾患が減少した)。発熱を主訴とする搬送件数は増加したが、小児は少なくなっており、高齢者の受入れ件数が多くなった。
 第1波と第2波における発熱を有する救急患者対応の問題点としては、発熱があるだけでいかなる主訴でも門前払いとなっていたことがある(新型コロナの知識、PPE、迅速検査体制等の不足)。
 第3波以降における発熱を有する救急患者の問題点としては、第1波と第2波の問題点は改善しつつあるが感染者数が膨大となり、受け入れ困難が増加している(医療スタッフの増員や専従化の限界、患者ごとの診療時間延長等による救急外来の回転率の低下など)。
 11月18日には当院でも集団感染が発生した。対応方針としては、救急医療とCOVID-19の受け入れを継続しながらクラスターを収束させることとし、全て行動調査表で記録することとした。これにより、作成は大変であるが、疫学調査が容易になることと中リスク以上の接触者を出さないことにつながった。以降、12月16日に再燃したが、1月18日に終息に至った。
 医療機関において、発熱を有する患者の対応を避けて通れず、避けたとしても逆に防御が弱くなり、コロナの侵入を許すことにつながる。Withコロナを意識して対応するしか現状では道はないと考える。

「離島からのドクターヘリ搬送患者が新型コロナウイルス陽性であった経験」

函館新都市病院 名誉院長 浅井 康文

 11月末に離島の医療機関からの要請で脳梗塞疑い患者を当院へドクターヘリで搬送後、COVID-19陽性が判明した事例を報告する。道南ドクターヘリでは、搭乗スタッフ全員がPPEを着用しており、患者もサージカルマスクをしていたことから、濃厚接触者とはならなかった。
 当院では、入院後1週間に患者と接触した職員や入院患者全員にPCR検査を実施したが、全て陰性であった。しかし、濃厚接触者のうち、2週間の就業制限が課された職員が多く、大きな影響を受けた。
 今回の事案を教訓として、情報共有体制の確立を図った他、当院でPCR検査装置を購入した。
 道南ドクターヘリでは、全出動においてPPEの装着等の感染対策を徹底していたことから、COVID-19濃厚接触者を出さずに済んだことにより、運航体制に影響を与えることはなかった。

「北海道新型コロナウイルス感染症対策本部指揮室の対応について」

北海道保健福祉部健康安全局地域保健課医療参事 兼地域医療推進局地域医療課医療参事 人見 嘉哲

 第1波、第2波は高齢者を中心に新型コロナウイルス陽性患者が発生していたが、6月頃を境に若年者の陽性患者が増えていった。道内のクラスターは10月、11月、12月に多数発生し、札幌市内は医療機関、その他の地域では社会福祉施設が多かった。
 これまでコロナ患者の推計を行っていたが、若年層から拡大した陽性者の第3波は想定を超えていた。北海道は他地域に比べ、高齢者が多いことから死亡者が多くなっている。医療関係者の引き続きの協力をお願いしたい。

 その後の全体討論では、指揮命令系統、コロナ患者の広域搬送、自衛隊派遣の成果などについて、意見交換がなされた。
 今回の全体会議において出された新型コロナウイルスの対応等に係る貴重なご意見については、現在当会で策定作業を進めている「北海道医師会災害時医療救護活動マニュアル」に反映していく所存である。新型コロナウイルス感染症患者が本道で初めて確認されて以来1年を経過したが、依然として感染蔓延が続く中、ようやく医療従事者から優先にワクチン接種が開始されている。今後行われる一般住民への接種にあたっては、ワクチン接種後合併症のアナフィラキシー反応などにも備える必要がある。それには各圏域での接種医療機関と救急医療機関との連携体制が不可欠となるので、引き続き関係各位のご協力をお願いしたい。
 最後に、日常の救急医療体制を維持・確保するために、最前線で日々ご尽力されている皆さまに対して、この場をお借りして改めて感謝の意を表し、報告とする。

(令和3年4月1日 北海道医報 第1231号)

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