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コロナ禍における周産期医療~一次医療機関に勤務する産科医の立場から

2021年04月01日

シリーズ ウィズコロナ
コロナ禍における周産期医療~一次医療機関に勤務する産科医の立場から

医療法人社団弘和会 森産科婦人科病院 上田 寛人

 日本の出生数は平成28年(2016)に97万7,000人となり、初めて100万人の大台を下回ったのもつかの間、そのわずか3年後、令和元年(2019)には86万5,000人とあっという間に90万人をも下回りました。日本総合研究所によると令和2年(2020)の出生数は84万7,000人と推計されており、令和元年(2019)の大幅減からは一旦歯止めがかかったようにみえますが、昨年のCOVID-19パンデミックの影響が表れてくるであろう令和3年(2021)は一気に80万人を下回る可能性があることが予測されています。

 厚生労働省によると令和2年(2020)1月~10月の妊娠届は令和元年(2019)の同期間と比較すると5.1%の減少となっており、令和元年(2019)1月~12月の妊娠届は平成30年(2018)の同期間と比較すると3.3%の減少であったことからみても、昨年の婚姻数のさらなる減少傾向は明らかとなっています(図)。長引く経済活動の停滞による労働環境の悪化は、非正規労働者の雇用から既に大きな影響が表れてきており、コロナ禍による少子化の加速が危惧されます。

 生殖可能年齢の女性人口が既に大幅減となっていることから、残念ながらコロナ禍以前より少子化の流れ自体は既定路線となっています。コロナ禍による少子化の加速をできる限り抑制するための政策が求められており、経済支援を含め、若い世代が安心して結婚、出産、子育てができる社会環境を構築することが不可欠と思われます。政府は児童手当の特例給付の廃止を検討しているようですが、このような時勢にあって少子化対策と矛盾した政策は見直すべきではないでしょうか(待機児童問題の解決を図る財源は別なところから確保するべきだと思います)。医師会としても、少子化対策について具体的な提言をしていく必要があると考えます。

 私の勤務地である旭川市では、昨年11月末から市内医療機関2施設においてメガクラスターが発生し、一時は連日報道番組のトップニュースに登場する事態となりました。そのうち1施設は当地域の総合周産期センターを担っており、一時的に道北地区は周産期医療崩壊の危機に直面しましたが、域内の産科医療施設間での緊密な連携により、大きな混乱を来すことなくクラスターの収束まで持ちこたえることができました。

 勤務先の森産科婦人科病院は、旭川市および近隣市町村の周産期医療における一次医療を主に担当しており、令和2年(2020)の年間分娩者数は970人でした。旭川市内の産婦人科施設で分娩取り扱いを中止した施設があったことや、クラスター発生にともなう転院患者の受け入れなどがあったため、結果的に分娩数は令和元年(2019)と比較して微増(ほぼ横ばい)となりました。そのためコロナによる分娩数の減少といっても今のところ実感はないのですが、見慣れた産科での風景はこの1年で大きく変わったように思います。まず当院では妊婦健診での家族同伴が禁止となりました。エコーのモニターに映った胎児4Dエコーを見て妊婦さん以上に興奮する夫や、逆にいかにも興味なさそうに連れてこられた感満載の夫、にぎやかな子供たちの姿が見られなくなりました。産科医としての業務内容は大きく変わりないので、外来の流れとしてはスムーズになった気もしますが、何だか寂しいものです。そのほかにも家族同席でのお祝い膳の中止(現在は部屋食で本人のみに提供)、アロマサービスの中止、両親学級など各種教室の中止がどんどん決まっていきました(写真1~3)。そして昨年12月からはついに分娩時の家族立ち合いも一切禁止となりました。妊婦さんにとって信頼する家族の精神的サポートはとても心強いものであり、実際に立ち合い出産を希望される方は多くいらっしゃいます。また、我々医療者にとっても重要な局面(例えば分娩停止や胎児機能不全などで緊急帝王切開を決めなければならない場合や、分娩時出血多量で輸血を要する場面など)での情報伝達において助けられることも多いのですが、本人が決断できない、または意思疎通そのものが困難な場面での家族協力が得られなくなってしまいました。状況が許せば電話でのインフォームドコンセントや、テレビ電話を利用したオンライン立ち合い出産を試みるケースもありますが、現場の緊迫感が十分伝わらないことがある上に、プライバシーや安全性の問題もあり全てのケースで行うことはできないのが現状です。

 産科を専門としてから、日常としてきた環境がこうもあっさり変わってしまうものかと愕然とするとともに、今後コロナ禍が収束したとしても全てが以前と同じには戻らないような気もしています。一産科医としてできることは微力ですが、今できることとして、院内感染防止の取り組みを徹底するとともに、このような状況の妊婦さんの不安にできる限り寄り添うことができるよう、スタッフと一丸となって取り組んでいきたいと思っています。

 

写真1 キッズスペースと絵本スペースを併設した当院ロビー写真1 キッズスペースと絵本スペースを併設した当院ロビー

写真2 お祝い膳(現在は部屋食にて本人にのみ提供) 写真2 お祝い膳(現在は部屋食にて本人にのみ提供)

 写真3 当院エステフロアにおけるアロマテラピー 写真3 当院エステフロアにおけるアロマテラピー

(令和3年4月1日 北海道医報 第1231号)

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