北海道医師会

新型コロナウイルスに関する情報

コロナ禍における外国人医療の諸問題について

2021年05月01日

コロナ禍における外国人医療の諸問題について

日本医師会常任理事 松本 吉郎
北海道医師会常任理事 伊藤 利道
(日本医師会外国人医療対策委員会委員)

 2016年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」の中で、政府は2030年までに訪日外国人を6,000万人に増やす目標を掲げていたが、今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、約3,200万人もの訪日外国人数は、2020年2月以降から激減し、いまではビジネストラックの再入国など一部の外国人に制限をしており、回復のめどは立っていない。他方、在留外国人は、2020年6月時点で約290万人であり、コロナ禍以前からほぼ変わらない状況である(図1・2参照)。
 在留外国人における在留資格別構成比は、永住者が約80万人(27.8%)、技能実習が約40万人(13.9%)、特別永住者が約30万人(10.7%)、技術・人文知識・国際業務が約29万人(10.0%)である。また、国籍・地域別でみると、中国が78万人(27.3%)、韓国が43万人(15.1%)、ベトナムが42万人(14.6%)、フィリピンが28万人(9.8%)であり、アジア圏が全体の75%超であった。そのうち、居住地別構成比は、東京都が約56万人(19.7%)、愛知県が約27万人(9.6%)、大阪府が25万人(8.8%)、神奈川県が23万人(8.2%)、埼玉県が19万人(6.8%)であり、大都市や重工業地域に多い印象である(図3・4・5参照)。
 コロナ禍における外国人医療対策は、前述のとおり在留外国人が主としたものとなるが、厚生労働省では、以前より外国人患者受入れのための医療機関向け支援策として、「外国人対応マニュアル」や「ワンストップ窓口」、「多言語対応」などの各種補助事業・委託事業(図6・7参照)を行ってきたが、十分な支援とは言えない状況である。各地域の外国人コミュニティでクラスターが発生している状況の中、外国人からの問合せとして、「PCR検査を受けたいが何処に行けばよいか分からない」、「帰国の際に母国で陰性証明を求められるが、何処に行けば発行してもらえるか」等を耳にする。地域によってPCR検査体制が異なることや、言語・コミュニケーション不足により、医療機関・自治体はその対応に苦慮している。特に、言語・コミュニケーション不足の問題については、文化・国籍を問わずフリーアクセスの日本において、必要不可欠なインフラであり、言語・コミュニケーション不足が起因して、医療費の未収金問題や医事紛争等の訴訟リスクへ発展するケースもある。
 日本医師会では、言語・コミュニケーション不足の解消に向けた取組の一環として、昨年4月より、日医医賠責保険の付帯サービスとして会員向けに医療通訳サービス(電話医療通訳・機械翻訳)を創設した。現在では、希少言語を含む18言語に対応している。本付帯サービスは、新型コロナウイルス感染症対応に限らず、全ての事例において活用することができる。日常診療において、外国人患者の友人や家族が通訳者として立ち会うケースもあるが、誤訳の問題については、原則患者側の責任であるものの、実際に誤訳の事実を医療機関が証明することは難しいのも事実である。また、前述のとおり、医療費の未収金問題や医事紛争等の訴訟リスクを回避するためにも、しかるべき医療通訳事業者を介した通訳が望ましいと思われる。本付帯サービスが、言語・コミュニケーション不足解消の一助になることを切に願う(図8)。
 最後に、新型コロナウイルス感染拡大防止策については、日本人のみならず、外国人にも目を向けたきめ細かい対応が求められる。地域において質の高い医療を提供し、言葉や文化の壁を乗り越えるためには、個別医療機関の自助努力のみならず、国・自治体・医師会等の支援・連携が極めて重要である。コロナ収束後、政府は再び「観光大国ニッポン」に向けた取組へ舵を切ると思われる。以前のように、訪日・在留外国人が往来する将来を見据え、今のうちからできる準備を着実に進めていくことが大切ではないかと思う。

(図1)2020年 月別訪日外国人推移 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋(図1)2020年 月別訪日外国人推移 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋

(図2)在留外国人数の推移 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋(図2)在留外国人数の推移 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋

(図3)在留外国人の構成比(在留資格別) 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋(図3)在留外国人の構成比(在留資格別) 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋

(図4)在留外国人の構成比(国籍・地域別) 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋(図4)在留外国人の構成比(国籍・地域別) 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋


(図5)在留外国人の構成比(都道府県別) 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋(図5)在留外国人の構成比(都道府県別) 日本医師会記者会見資料(令和3年3月3日)抜粋

(図6)新型コロナウイルス感染症の外国人患者に係る医療提供体制構築の主要支援策等(厚生労働省提供資料)(図6)新型コロナウイルス感染症の外国人患者に係る医療提供体制構築の主要支援策等(厚生労働省提供資料)

(図7)新型コロナウイルス感染症の外国人患者に係る医療提供体制構築の主要支援策等(厚生労働省提供資料)(図7)新型コロナウイルス感染症の外国人患者に係る医療提供体制構築の主要支援策等(厚生労働省提供資料)

(図8)日本医師会医師賠償責任保険医療通訳サービス(図8)日本医師会医師賠償責任保険医療通訳サービス


(参考資料)
■日本医師会:「平成30年・令和元年度外国人医療対策委員会報告書」
■日本医師会:「日本医師会医師賠償責任保険医療通訳サービス」
■厚生労働省:「平成30年度「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」の結果」
■厚生労働省:「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」
■厚生労働省:「新型コロナウイルス感染症の外国人患者に係る医療提供体制構築の主要支援策等」
■厚生労働省:「外国人向け多言語説明資料一覧」

(令和3年5月1日 北海道医報 第1232号)

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