北海道医師会

新型コロナウイルスに関する情報

新型コロナウイルスによる院内感染を経験して

2021年05月01日

新型コロナウイルスによる院内感染を経験して

医療法人資生会千歳病院/医療法人同仁会千歳第一病院
理事長 佐藤 正俊


 はじめに、新型コロナウイルスによる当院の院内感染を通じて、多くの患者様、そのご家族、また地域の皆様に多大なるご不安・ご迷惑をおかけいたしましたこと心よりお詫び申し上げます。
 私ども千歳第一病院は一般病床42床(2F)、地域包括ケア病床40床(3F)の計82床の一般病院で在籍職員は、常勤医師6名、看護師53名、他コメディカルを含め103名です。
 この度の国内での、新型コロナウイルスの感染陽性者の状況ですが、今までに第3波のピークを迎え、令和3年3月時点では、第4波の到来について危惧されています。私どもは、令和2年4月から5月にかけての第1波の時期に第1回目のクラスターが、現在の第3波、令和2年の12月に第2回目のクラスターが発生しました(図1)。
 新型コロナウイルスによる年齢階級別死亡数は圧倒的に、60歳台以降の方々が多く、特に80歳台の方々については、致死率は23%と、高率となっております(図2)。重症化のリスクは、まずは65歳以上の高齢者であり、その他、悪性腫瘍・呼吸器疾患等となっております。
 私ども、千歳第一病院の新型コロナウイルスの感染によってクラスター化した時期は、第1回目は4月7日~5月9日にかけて、職員20名・患者25名の計45名。
 第2回目のクラスターは12月8日~ 12月14日の期間に、職員6名・患者4名計10名となりました(図3)。その経緯を報告いたします。
 令和2年3月29日休日当番病院として、グループホームから発熱を主訴に、患者様が入院されました。誤嚥性肺炎と診断し、入院治療を開始しましたが、この時期、新型コロナウイルスの感染者は道内においても発症しておりましたが、我々のすぐ間近に新型コロナウイルスの感染者を身近に感じることができず、早期に検査に至らなかったと今になって反省しております。
 4月6日になりまして、症状改善しないため、新型コロナウイルスの感染を疑い、検査いたしました。翌4月7日に新型コロナウイルスの陽性報告を受けまして直ちに、保健所へ通報、また早急に個室対応、主に、インフルエンザに準じた対応を早期に進めました。この報告と同時に、保健所による事情聴取が始まりました。保健所職員訪問と同時に、私ども職員も濃厚接触者はもちろんのこと、院内・病棟内全員の検査がされるものと思っておりましたが、そういうこともなく戻られました。
 そして、この患者様につきましては、転院を勧めますがご家族は延命を望まないために、私どもの病院で看取ることとなります。
 私どもとしては、この4月7日の時点では保健所の指示のもと速やかに検査が行われ、患者様も保健所の指示のもと転院されるものと思っておりましたが、そういう状況ではなく、翌4月8日にはこの患者様はお亡くなりになります。
 この翌日になりましても、検査の指示がありませんので、我々職員も自分たちが新型コロナウイルスに感染しているのではないかという不安、そして、このまま帰宅しては家族にうつしてしまうのではないかという、不安がずっとありましたので、希望者全員に胸部CTの検査を行いました。その結果、事務職員1人と看護助手1人の計2名に肺炎の所見がありましたが、この2人は濃厚接触には当たりません。
 翌9日になりましても、検査の指示がありません。発症がわかってから3日後の10日に保健所から濃厚接触者と指定された43名に、検査指示が出されます。胸部CT検査によって、2名の肺炎所見のある職員に関しては、この時に事務職員に発熱がありましたので、保健所にお願いをして1名追加の検査の許可をいただきました。翌11日、濃厚接触者といわれる43名の全員がPCR検査陰性との報告を受けました。
 ところが発症から6日経った、4月13日、濃厚接触者に該当しない事務職員が陽性であることがわかりました。この時点で、2つの全く違ったルートから新型コロナウイルスが院内に侵入したということがわかります。翌14日には、CTスクリーニングで肺炎の所見のある看護助手と3階病棟地域包括ケア病棟の患者様1名に発熱がありましたので、PCR検査を実施しました。その2日後に3階の看護助手の陽性が判明し、また同じく3階の患者様も陽性と判明しました。
 3階の看護助手は、先ほどの濃厚接触者ではありません。この職員は、3月に道外に帰省していましたので、この時、院内に侵入した新型コロナウイルスのルートは、3箇所あるという事が判明します。また3階の患者様は延命を望まないということで、翌17日にお亡くなりになります。
 この時期から次々と発熱者が出ましたので、ほぼ毎日のように検体を出しては翌日、もしくは翌々日に結果が出るという状況でございます。まさしくここからが病棟の混乱した状況がピークに達します。私たちにも感染しているのではないかという不安があるにもかかわらず、なかなか検査が進まない、またその結果が遅れてくる、また、患者様の転院先も決まらない、十分な身を守る為の感染を予防する消耗品も不足している状況が続きます(図4)。
 情報の不足ということでは、最初に搬送されてきた患者様のグループホームがクラスター化したことが後ほど判明します。
 医療者として、何もできないという無力感の中で、必死に使命感だけによって勤務する状況が続きます。4月16日から4月30日にかけまして多くの方の御看取りを含めて、我々もたくさんの辛い思いをしながら、4月の後半になりますと、患者様の転院先がもうないと、北海道担当職員から報告を受け、北海道庁から感染班が訪問しますが、この時期、千歳市内の他の医療機関や、基幹病院でもある市立千歳市民病院でも院内感染者が発生し、通常業務を行うことができず、地域医療が崩壊状況であり、新型コロナウイルスの患者様を受け入れる病院になってもらえないかと提案がありました。
非常に疲弊している職員を前にそのことを伝えることが難しく、まずは、院長に相談したところ、院長・事務長は、我々に残された道はこれしかないとの意見を受け、職員に話すための準備を始めることとなります。第1回目のクラスター発生当時、サージカルマスク等の物資が不足した中で、職員も次々と感染し、現場から離脱していき、残された職員も過酷な勤務、感染への不安と恐怖・精神的ストレスは想像を絶するものでありましたし、周囲からの偏見や差別もありましたので、精神的ダメージを含めて非常に辛い時期でもございました。
 周囲からの差別と申しますのは、職員の子供さんの保育園の登園を拒否されたり、病院近くで突然見知らぬ人から、コロナをうつすなと罵声を浴びせられたり、職員の配偶者が出勤停止となったりしました。
このクラスターの間に勤務している職員の対応としては、宿泊先の確保で千歳市に要望したところ、千歳市から迅速にホテルの宿泊費の経費負担の確約をいただき、早急に手配いたしました(後に北海道から新型コロナウイルスに対応する医療従事者の宿泊に係る補助金:令和2年度新型コロナウイルス感染症医療従事者宿泊支援事業補助金の交付が決定し、その補助金により宿泊場所を確保)。宿泊者の夕食に関しては栄養課にて提供し、不足している職員に関しては、関連病院から看護師・看護助手の応援を行ってもらいました。3階病棟では、陽性者13名、陰性者13名の、計26名の入院患者の対応を、当初は26名いた病棟スタッフが、看護師5名、看護助手2名の合計7名で、夜勤-明け業務が、3~4日続き、1日12時間勤務の2交代の非常に厳しい勤務状況が続きます(図5)。4月27日からは北海道庁からの感染班の支援が始まり、病棟勤務の見直しや、ゾーニング等の指導、クラスターの原因検索、感染防止対策への提案を受けます。ゾーニングの感染対策の工事業者が病棟に入れなかったので、コメディカル職員が、フルPPEで慣れない作業を、限られた資材の中で行っていた状況です(図6)。
 北海道庁からのコロナ病棟への転換要請に対して5月の連休前に、情報をまとめ、連休明けから職員に対して、講習の内容・研修等を含めて、説明会を行います。道庁からの説明、法人からの金銭的な危険手当、補償等の説明があります。こういった精神的に追い込まれた苦しい状況の中での、コロナ病棟をつくるということに、強い批判、反対等の意見があり、この時期に職員の離脱が相次ぎました。
 しかしながら、私たちがこの地域にあって、自分たちのできうる医療の在り方は、新型コロナウイルス感染者の受け入れをすることによって、地域医療の機能を守り、他の地域医療機関が通常業務ができるようサポートすることであり、我々がその責務を負うしかないと、法人としてこの決定を通知しました。この新型コロナウイルスのクラスター化や、コロナ病棟をつくるという決定から、職員が計30名程退職となりました。
 5月下旬より3階病棟をコロナ病棟に転換し、6月からは、外来を再開しました。コロナの感染者の受け入れは令和2年5月から現在まで200名以上、発熱外来にて検査対象者は1,000件を超えております。
 今までの経過の中で、小樽、北広島、苫小牧や他地域の患者様も受け入れてきました。
 新型コロナウイルスの感染は、いつ、どこで、誰がどのような形で感染するか分からない、いつ院内に侵入するか予測がつかない中で、12月に再びクラスターが発生いたします。この時は、以前の経験があり、落ち着いて感染対策を行っておりましたので、1週間ほどで終息いたしました。不幸にも、職員が感染いたしましたが、その家族への感染拡大は1例もなく、基本的な感染予防対策がしっかりと行われていたことがいかに大切であるかの証明でもあります。
 新型コロナウイルスに対する、ワクチン接種がまだ十分に進まない中で、早期発見のための検査が重要ですが、行政検査ということもあり、検査がなかなか進まない、結果も遅れてくる、他からの情報が入ってこないなど、混乱した状態が長く続きましたが、現在は少しずつ解消されているとはいえ、未だに全ての不安を解消するには至っておりません。
 新型コロナウイルスの感染はいつでも誰でも、どこでも、どこの病院や施設でもあり得るということ、感染してしまったら、クラスター化する危険が非常に高いということ、入院・入所されている多くの高齢者は重症化しやすいということ、感染がひとたび起こりますと、初動の対応がとても重要だということを痛感いたしました。保健所への通報、患者の隔離、動線確認、標準予防策の徹底は勿論でございますが、感染発生した場合、現場は想像以上に混乱いたします。すなわち、想像以上に物事が進まず、時間がかかります。その間に感染が広がるということを覚悟しなければなりません。この混乱や時間がかかるということに対しては、応援を待つということではなく、自分たちが速やかに自立した行動をとるということが重要です。初動時の混乱を防ぐためにも、感染発生を想定した感染対策に対するマニュアルを作成し、事前に訓練を行うべきであります。また、この未知なる感染症に対する不安や恐怖心は想像以上に大きく、感染に関連したすべての人に対して、精神的なフォローを忘れてはならないと思います。
 私達は不幸にして、2回のクラスターを経験いたしました。非常に辛い思いもいたしました。
 現在では、職員は地域から求められている医療サービスに応える責任とそれに対する自負を持つようになり、精神的に強くなり、この新型コロナウイルスの感染者の受け入れを通じて、充実した勤務に励んでおります。
 どうか恐れることなく、基本的な感染予防対策を徹底し、地域の新型コロナウイルスに対する医療者間の連携体制が整いますよう心より祈願いたします。

図1

図2

図3

図4


図5

図6

(令和3年5月1日 北海道医報 第1232号)

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