北海道医師会

新型コロナウイルスに関する情報

新型コロナと生きる―コロナ脳からの脱却―

2021年05月01日

新型コロナと生きる―コロナ脳からの脱却―

情報広報部副部長 山科 賢児

 新型コロナによる累計死者数は4月17日に世界全体で300万人を超えた。瞬く間にパンデミックとなり、今なお各国で感染の終息の兆しが見えない新型コロナ感染症。2019年12月中国の武漢から原因不明の感染症発生の一報が入った。当初人々は対岸の火事視し、世界をこれほど震撼させる感染症になるとは誰も想像しなかった。
 2020年2月横浜に寄港した豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号の船内での集団感染の封じ込めの混乱は、これからただならぬ事態が起こるという危機感と恐怖心を日本の国民に植え付けた。3月にコメディアンの志村けん氏が急逝すると日本中に衝撃が走り、メディアは「新型コロナは怖い」と不安を掻き立て、人々の心に新型コロナへの先入観が取り憑いた。4月には緊急事態宣言が出され、人々は自主的にマスクを着用し三密(密閉・密集・密接)を避け、街には見たことのない廃墟のような光景が一時広がり、今も続く我慢と忍耐の自粛生活が始まった。
 買い物以外は外出せず、孫や友人に一年以上会っていない高齢者、入院患者に一度も面会もできていない家族、実家に帰省できない都会の若者、入学以来オンライン授業ばかりの大学生など、 あり得ない事態が続いている。感染の蔓延防止のために旅行や会食も控える要請が繰り返し出され、人々のフラストレーションはそろそろ限界に近づいている。 新型コロナの臨床や研究に携わっている医師や研究者の中でも新型コロナの病原性や公衆衛生上の感染対策への考え方は千差万別である。 「普通の風邪と同じ」 「少しタチの悪い風邪かな」 「風邪なんかじゃない、適切な医療をしなければ死を招く重篤な感染症」 等々。診察した新型コロナ感染者も臨床症状や治療は「ただの風邪」ではない。ただ重症化もするが日本の死亡者は年間9000人程度で他国に比べ驚くほど少ない。昨年の新型コロナの致死率は死亡者/感染者で約1・8%、人口ベースでは約0・003% (36万人に1人)にすぎない。子供と若者に至ってはほとんど死亡リスクがないと言っていい。
 緊急事態宣言の効果を否定するわけではないが、海外ではあれほど厳しいロックダウンを行ったのにも関わらず十分な効果がなかった現実があるのに、飲食店の営業時間を数時間短縮するだけで新型コロナの流行を食い止められるのだろうか。ロックダウンや行動自粛は感染者数のピークを抑制できるかもしれないが、解除すれば感染者は再び増えるのを繰り返し、結局感染者の数は変わらない。感染対策は医療のひっ迫や社会的不安を一時的に解消ができたが、街の経済の火を消してしまった。
 政治は感覚的な施策を行い、メディアからは偏った情報が飛び交い、そのために人々は一貫性のない要請や不確実な情報に翻弄されている。新型コロナの変異株についても、連日メディアは強い感染力で感染者が増加している報道をするが、致死率に関しては今のところ高いという明確なエビデンスはない。新型コロナにとって人間は大切な宿主。宿主の死は自らの死を意味する。スペイン風邪のような例外はあるが、感染力は強くなったとしても宿主を全滅させないように弱毒化するのがウイルスの適応戦略である。
 感染が流行して1年以上が経ち、自粛生活にもう耐えられず普通の生活に戻りたいと社会の空気は変わってきている。 「コロナ脳」と表現される過剰な新型コロナへの恐れと対応はそろそろ再考する時期であろう。恐ろしいウイルスと始めは考えられていた新型コロナは、日本では諸外国に比べ極端に感染者が少ないだけでなく、インフルエンザとその関連死よりも死亡数は下回る。このままでは人々の心に深く大きな傷を作り、国の経済に取り返しのつかない甚大な被害をもたらすのが目に見えている。
 行政やメディアそれに医療従事者もバランスのとれた情報を発信し、必要以上の行動変容を求めたり、不安に駆り立てないよう考え直す時が来ている。ウイルスを抹殺はできない。どの疾患もそうであるように、新型コロナ感染で死亡ゼロもあり得ない。感染が急拡大した時、被害をいかにして最小限に食い止める戦略を立てるのが賢明であり、十分な感染対策で高齢者や弱者を守り、心と体の免疫力を保つのが感染を克服し生きるのに最良の戦術となる。ウイルスの撲滅は自然界に対して過ぎる行為と言える。自然の摂理に従い感染症と共存・共生を目指し、新型コロナが風邪のようなありふれた病気の一つとなる日を、万全の備えと平常心で待つのはいかがであろうか。

(令和3年5月1日 北海道医報 第1232号)

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