活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

日医関係

第10回男女共同参画フォーラム

日本医師会大講堂[平成26年7月26日(土)午前10時]


常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂

 第10回男女共同参画フォーラムが、去る7月26日(土)に日医会館大講堂で日本医師会主催により開催された。
 北海道からは、小職と伊藤常任理事、札幌市医師会、小樽市医師会、旭川市医師会および北海道東京事務所行政課からの合計9名が出席した。
 今年のメインテーマは「医療界における男女共同参画のさらなる推進に向けて〜10年で医療界における男女共同参画は進んだのか〜」とし、横倉義武日医会長による基調講演「日本医師会の男女共同参画10年の歩み」が行われた。
 その内容は、10年前の平成16年4月に新医師臨床研修制度がスタートし、我が国の医師不足・医師偏在の顕在化と女性医師の就労環境、就労継続などの問題が広く認知され、日医では10月に日医女性会員懇談会を設置し女性医師に関わる問題や男女共同参画について論議されることになった。
 医師国家試験合格者における女性の割合は、平成26年度で31.8%、平成12年より連続して3割を上回っており、全体の医師数に占める割合も年々大きくなっているにも関わらず、日医加入率は42.1%しかなく、日医会員に占める割合は14.7%でしかない。また、20歳代の日医会員比率は、8.1%で、若い医師にとって日医は遠い存在となっており、医療界が直面する様々な課題を解決し、日本の医療を守るためには、日医が力を持ち続ける必要があり、組織力の低下を防ぐことが最重要課題の一つであると考えている。
 医療のあるべき姿の実現のため「組織を強化」、「地域医療を支える」、「将来の医療を考える」の3つの方針を掲げている。団塊世代が後期高齢者となる2025年を見据えた地域包括ケアを推進し、地域の実情に応じた地域医療ビジョンの策定により、切れ目のない医療を提供するため、新たな基金を活用して国民にとって必要とする医療が過不足なく受けられる社会を目指す。そのためには、国からのトップダウンではなく、地域の行政と医師会が主体となって地域の実情を反映されなければならない。
 日医の男女共同参画への具体的な取組みは、1.法律の整備、2.就業継続・再研修支援、3.出産・育児支援、4.意識改革、5.指導的立場、意志決定機関への女性の参画で、成果目標を「女性1割運動」とし、平成26年度までに役員の女性割合を1割にするとした。都道府県医師会では、女性役員が5.5%、郡市区等医師会では平均0.7人で、国民に一番近い地域の医師会の活動への参画を積極的に働きかける必要がある。
 この10年を振り返ると、平成16、17年ころから女性医師の問題、男女共同参画の意識が高まっていることは、保坂シゲリ先生の頑張りと素晴らしい活動の賜物であり、これを、次の世代にバトンタッチしていただきたい。女性医師支援は、本来、出産・乳児期の育児について重点的に行われるべきだが、指導的分野に女性の意思が反映されることも困難なうえ家事・育児・介護は女性の役割という考えがまだ強く、今後も女性医師に対する特別な配慮・支援は必要である。日医の女性医師の理事枠拡大は、「2020.30」の実現に向けて確かな一歩を踏み出したと言える。女性登用について、まずは、地域医師会活動への参画することから積極的に働きかけていき、ひいては医師会の組織強化に繋がることを願い、ますます実行できる日医になりたいと考えている。
 その後、(1)日医男女共同参画委員会、(2)日医女性医師支援センター事業についての報告があり、引き続き座談会があり、3名の演者からそれぞれの立場で話題提供があった。

座談会「医療界における男女共同参画の推進に向けて
東大名誉教授・政策研究大学院大学教授 黒川 清
自治医科大学学長 永井 良三
前男女共同参画委員会委員 津田 喬子
座長:元男女共同参画委員会委員長 保坂 シゲリ
    日本医師会常任理事 笠井 英夫


 最初に、津田喬子前男女共同参画委員会委員から、男女共同参画がなぜ大切か、そしてこれからの方向性について話があった。平成11年の男女共同参画社会基本法が施行されるまでには、女子差別撤廃条約・男女雇用機会均等法・男女共同参画室の設置など、多くの手順がふまれた。単に女性の活躍の場を増やすだけではなく、政策や方針の決定・企画に加わるという女性の参加姿勢を明確にするものであった。その後、課題解決の推進のため、平成22年に第3次男女共同参画基本計画が打ち出され、改めて「2020.30」が掲げられた。男性社会である医療界では、今でも女性が政策や方針の決定・企画に参加できているとは言えない。未だ、男女共同参画社会形成の道なかばである。女性の活躍推進のための要件として、機会均等、事実上の格差解消への積極的な取り組み、男女共同参画、仕事と生活の両立、多様性尊重の5つが重要と考える。これからは、平等に働ける環境の整備・女性医師のキャリア意識の保持・男性医師の意識の改革など、これまでの男女共同ではなく、家庭も職場においても男女平等の意識が必要である。

 次に、永井良三自治医科大学学長から、大学と学会の取り組みについて報告があった。大学や学会の男女共同参画への取り組みはまだまだ鈍いが、徐々に良い方向に向かっている。当学では「女性医師支援センター」を「医師・研究者キャリア支援センター」に名称を変更し、女性医師が抱える問題は男性医師の抱える問題とし、さらに広い視野での活動を試みている。学会の活動については、女性医師が多い循環器学会では、全ての支部の地方会で託児所が設置されており、女性循環器医の出産・子育て後の復職・復帰研修が定期的に行われている。最近では、学術集会の座長が女性であることも多くなり、指導的立場に女性が立つことも変化の一つで、医師会と学会との連携が今後も必要になってくると感じている。

 最後に、黒川清東京大学名誉教授・政策研究大学院大学教授から、ジェンダー・エンパワーメントについて説明があった。国連では毎年指標が計られているが、人間開発指数というのは、国民に対して教育の機会が均等に与えられているかを示す数で、日本は世界で9位であるが、ジェンダー・エンパワーメント指数は41位である。日本は世界と比べても、女性に男性と同じような権利も与えられているが、社会全体として利用されておらず男尊女卑が未だに根強く残っている。これは、女性の問題ではなく男性の問題である。世界では、女性の発言力が強くなってきており、日本は今の社会制度のまま女性の活用をしない限り、経済成長は期待できない。これからは女性の力が必要になる時代であるので、まずは、大学の教授や組織のトップに女性を登用してみる勇気がほしい。

 その後、具体的に日医に求めるものについて座談会が行われ、「学会で発言力のある方を都道府県医師会の役員に登用し、日本医師会と同じ意識を持って共に動いていくということが、一番効果をもたらす。」「男女5割ずつでも良いくらいなのに実際は2割から3割で、医学部に入学する女性数が少ない。」「日医は思い切った政策を打ち出して、もっとアピールする必要がある。」「男性が女性を信じて仕事を任せてみることが大事で、オファーをもらった女性は勇気を出して、恐れずにチャレンジしてほしいし、日医にはそのきっかけを作り、機会を与えてほしい。」「一人一人のチャレンジが日本社会の活性化に繋がる。日本にとって女性の活躍を無駄にすることは大きな損失で、理想を言っているだけでは何も変わらないので、組織の長に対して様々な働きかけをしていかなければならない。」「それぞれの分科会で会長や理事に女性を登用すべきであり、各学会で女性枠を作り、理事を増やして基盤となる体制づくりが必要である」などの発言があった。


 午後からは、シンポジウムがあり、5名の演者からそれぞれの立場で講演があった。


シンポジウム
座長:前男女共同参画委員会 川上委員・藤井委員
(1)女性が輝く社会に向けて
前内閣府男女共同参画局長 佐 村 知子


 男女共同参画基本法の制定にちなんで、毎年6月の第4週を男女共同参画週間としている。今年の標語は「家事場のパパヂカラ」である。
 安倍総理は、今年の世界経済フォーラムにて、未だに活用されていない資源の最たるものは、女性の力であるとスピーチした。なぜ、女性の活躍が重要かというと、労働力人口の増加・優秀な人材の確保・新たな財やサービスの創造に大きく関わってくるからである。近年は、女性の労働力率が高い方が出生率も高くなる傾向にある。諸外国の研究者に占める女性割合は、ロシアやスペインでは40%前後であるのに対し、日本は14%と世界と比べると非常に低い。平成25年6月には、日本再興戦略として企業に対するインセンティブ付与・女性のライフステージに対応した活躍支援・男女が共に仕事と子育て等を両立できる環境の整備を推進することを閣議決定し、政府の取り組みとして、全上場企業において積極的に役員・管理職に女性を登用し、役員の一人は女性を登用することを経団連に要請した。
 その他にも、待機児童解消加速化プラン、育児休業給付の充実、女性の活躍「見える化」サイトの開設などに取り組んでいる。

(2)大学医学部における10年間の歩みと今後に向けた課題
前文部科学省文部科学審議官 坂 東 久美子


 大学医学部の入学定員の推移は、昭和57年に医師過剰の懸念から医学部定員の抑制が閣議決定され、定員は横ばいまたは若干の減少傾向にあったのが、平成20年に地域の医師確保の必要性から偏在解消策と組み合わせた医学部定員増(地域枠)が開始され、平成26年までの7年間で1,444人の増加となっている。医学部入学者数に占める女性の割合は、平成になってからはほぼ横ばいで、医療施設に従事する全医師数に占める女性医師の割合は年々増加傾向にある。女性医師の医師就業率は、医学部卒業後、年がたつにつれて減少傾向をたどり、卒業後11年(概ね36歳)で76%の最低になったあと、再び就業率が回復していく。医学部教員に占める女性の割合は近年増加傾向にあり、平成25年時点で13%、大学・文部科学省では、女性医師の活躍支援として、医学生に対するキャリア教育、育児支援、柔軟な勤務環境整備、復職支援、大学全体の意識改革・両立環境整備・女性登用促進、医師の過重労働対策に取り組んでいる。
 東京女子医科大学では、復職を希望する女性医師より要望をヒアリングし、個々人に合わせたオーダーメイドの研修プランを策定する女性医師再教育復職プロジェクトやeラーニングを活用した学習支援プログラムが用意されており、旭川医科大学の二輪草センターでは、医師・看護師の資格を持ちながら休業中または休業予定で復職を希望する者が登録する潜在人材登録制度や、5段階の復職支援教育プログラムが用意されている。

(3)臨床研修医におけるキャリアパスと出産・育児等のライフイベントとの両立について〜臨床研修制度の見直しを踏まえて
山口県健康福祉部健康増進課長 國 光 文 乃


 近年、若手女性医師の増加や男女共同参画の推進、医師のキャリアパスと出産育児等のライフイベントとの両立が益々重要視されている。女性医師の就業率は卒業後11年、概ね36歳の76%で最低となったあと、再び就業率が回復しているが、減少前に比べると復職が進んでいない。厚生労働省が行った平成25年臨床研修修了者アンケート調査結果によると、臨床研修医に子育てをしながら勤務を続ける上で必要なものは「職場の理解・雰囲気」24.1%、「短時間勤務制度」19.2%、「当直や時間外勤務の免除」13%、「勤務先に託児施設がある」10.1%、「配偶者や家族の支援」10.1%であった。
 政府は、男女共同参画のさらなる推進に向けて、女性医師支援に関して提言を行う女性医師による懇談会を設置するとともに、女性医師が働き続けやすい環境を整備するため、関係者の意識向上、復職支援、勤務環境改善、育児支援等の取り組みを一体的に推進している。その中で、臨床研修医制度の見直しが昨年度行われ、臨床研修中に出産育児等のライフイベントが生じた場合への対応がしやすくなるよう、研修の中断や再開に関する制度設計の柔軟化、研修への円滑な復帰に向けた病院側のキャリア形成の配慮などが盛り込まれた。
 また、男女を問わずキャリアを継続し自己研鑽を続けることができるよう、各病院において研修医が自らのキャリアパスを主体的に考える機会を促すとともに、出産育児等の支援体制の強化に向け職場の理解の向上が必要であり、今後も引き続き、キャリアパスとライフイベントとの両立が図られるよう、研修病院・医師会・大学・行政など関係者の更なる連携と取り組みの推進が望まれる。

(4)男女共同参画の視点からみた専門医制度改革
日本医師会常任理事 小 森   貴


 専門医制度については、長年にわたり医療関係者の間で議論が交わされてきた経緯があり、今回、厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討委員会」の報告書がベースとなって、一般社団法人日本専門医機構が発足するところにまできている。新たな専門医制度の具体的な設計は今後決まっていくことになるが、プロフェッショナルオートノミ−を基盤として設計されるべきであり、多様な医師を養成するニーズに応えられるよう、専門医の養成の課程において、例えば、研修の目標や内容を維持した上で、養成プログラムの期間の延長により研究志向の医師を養成する内容を盛り込むことも必要である。男女を問わず、出産・育児・介護等と専門医の取得・更新とが両立できる仕組みとするとともに、養成プログラム・研修施設の基準等についても、キャリア形成に配慮することが望ましい。新制度の設計にあたっては医師会との協力や連携が必須で、医師会としても女性医師が参画しやすい幅広い視点をもった制度設計を心掛け、国民医療に資するような専門医制度にしていきたいと考える。

(5)10年で医療界における男女共同参画は進んだのか〜病院管理部門における女性医師数の変遷から見えるもの
前男女共同参画委員会委員長 小笠原 真 澄


 日医男女共同参画委員会は、当初「女性会員懇談会」として平成16年に立ち上げられた。平成18年に「男女共同参画委員会」と改組名称変更し、以後日医の会内委員会として活動を続けており、その一つが「男女共同参画フォーラム」の開催で、平成17年7月に当会館において「第1回男女共同参画フォーラム」を企画・運営してから、今回で第10回を迎えることとなった。
 10回目を迎えるにあたって、本委員会ではこの10年で医療界における男女共同参画は進んだのかを検証する視点から、病院の管理部門における女性医師数の変遷を調査し、同時期に男女共同参画についての男性医師の意識調査も行った。調査対象は全国の臨床研修病院1,068病院で、回収率は女性医師管理者調査が36%、男性医師の意識調査が32.5%であった。病院において、管理職に占める女性医師の割合は、社会一般の調査結果と乖離するものではなく、男性医師の育児休業取得率は、社会全体の調査結果と同等もしくはわずかながら高い傾向にあるが、日本は社会一般の数字自体が他国と比べて異常に低い。大学病院における女性医師の管理職割合の低さ、男性研修医の育児休業取得希望が約5割弱ながら、実際は2.6%しか取得していないこと、10年間で増加した臨床研修病院勤務医の約45%は女性医師であったことから、働き方の見直しが必要で、女性医師が勤務を継続していくための育児支援体制、就労形態の多様化、離職後の復職支援、環境整備を更に充実させることが求められている。医師の能力は多様性に富み、男女を問わず、希望する勤務形態も違っている。
 医療界はダイバーシティが価値を生む領域であり、「2020.30」の目標達成のため、女性医師の登用に向けて、さらに取り組みを加速させる必要がある。日医においては、女性理事枠の創設にとどまることなく、医療界さらには一般社会の範となるような対応策の実現を期待したい。

 その後、総合討論があり「第10回男女共同参画フォーラム宣言」を採択し、次期担当県の徳島県医師会川嶋会長より挨拶があり、盛会裡に終了した。
 参加者は、男性72名、女性167名の計239名であった。
 本フォーラムに、出席した伊藤利道道医常任理事の、感想記を以下に掲載する。


第10回男女共同参画フォーラムに参加して
常任理事・医療関連事業副部長  伊藤 利道


 今回のフォーラムのメインテーマは医療界における男女共同参画のさらなる推進に向けて〜10年で医療界における男女共同参画は進んだのか〜というものである。男女共同参画委員会の意見は、(はっきりとは述べられていないが)「少しは進んだが、まだまだそのスピードは遅い」というものだと想像する。男女共同参画がなかなか進まないのは、平成24・25年度の男女参画委員会答申にもあるように、「男性の圧倒的優位で諸事業を推進してきたわが国の社会風土や、それも当然とする社会通念には、女性の視点を反映させようとの意識が依然として希薄であり、男性の意識改革がまず必須である。」からである。
 座談会で登場した黒川清教授も、「自信のない男たちが作り、自分たちの組織を守っているのが、今の日本の社会。『ダメな男と、がんばる女性』のせめぎ合いが続いているのが日本」と、日本社会の在り方が問題であると指摘した。
 しかし、「社会通念を変える」のは、あまりにも壮大な目論見であり、せいぜい「社会通念が変わる」のを「少し早める」ことしか出来ない。その意味では、この委員会の種々の活動は、とても素晴らしいものだと思った。特に、女性医師支援センターは女性医師にとって実際に役立つ活動をしている。道医の女性医師等支援相談窓口も藤井部長の指導のもと、全国的にも注目される実績を出し続けている。
 また、男女共同参画委員会では、本年2月「男女共同参画についての男性医師の意識調査報告書」をまとめた。これは全国の臨床研修病院1,068施設にアンケートを出し、6,946名の回答をまとめたものである。その中で、労働時間をみると「12時間以上15時間未満」が全体の62.4%であり、回答者の9割以上が「仕事の比重が多く、家事や育児に関われない」と答えている。男性医師が忙しすぎて、ワークライフバランスがとれていないわけである。
 本報告書では、自由記載欄があり、日医のホームページで閲覧することができる。その中に、「男女共同参画の最大の障害は、男性の働き方にあると思います。まず、それを見直さない限り、先には進まないと感じています。育児中は可能な限り家に帰り、自由になる時間はほとんど子どものために振り分けました。乳児期の入浴、離乳食、沐浴はもちろん、休みごとの外遊び、家族での旅行など。自分自身の時間は全くといって良いくらい取れませんでしたが、他の物に代えられぬ充実した時間であったと思います」との意見があった。このような男性医師が多くなれば、かなり女性医師の負担が軽減するのだが。
 さて、フォーラムの後、懇親会に出席した。他の会と違い、女性が多いので華やかであった。ただ、若い女性医師が少ないような気がした。男女共同参画委員会は今後も当分の間、活動するわけであるから、これからは若い女性医師の方も委員になれる仕組みがあればいいかなと思いながら、会場を後にした。
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