活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

日本医師会共催:医学生、研修医等をサポートするための会「医学生・研修医と語る会」_「崩壊している地域医療の現状〜もしも自分が厚生労働大臣なら、北海道知事なら…」

常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂

北海道医師会では、医学生・研修医が意見交換を通じて、男女共同参画やワークライフバランスについて、性別を問わず、若い時期から明確に理解してもらうことを目的に「医学生・研修医と語る会」を開催しており、本年度は11月16日(金)に北海道医師会の理事会室で開催した。
 当日は、医学生8名と研修医4名が参加し、研修医と医学生によるピア・エデュケーション形式で「崩壊している地域医療の現状」をテーマに討論していただいた。参加者から砂川市立病院の研修医佐藤謙伍さんとIFMSA-Japan(北海道大学3年)柴田美音さんの2名に進行を務めてもらい、討論が始まった。
 なお、この会には一般参加者と長瀬道医会長、畑副会長、女性医師等支援相談窓口のコーディネーターがオブザーバーとして参加した。

話題提供「崩壊している地域医療の現状」 
 討論開始の前に、討論のきっかけとなるように北海道の地域医療に関する問題点を(1)「これが今の医療提供の現実」(2)「医療者の家庭生活のあり方を考えよう」の2つに絞りデータを提示した。
(1)医学部の定員増加の結果、全国的に医師数は増加し、平成8年に比べ人口10万対医師数は36名増加している。北海道も同様、2年ごとに人口10万対約5名ずつ増えている。しかし、地域格差が著明で、人口10万対あたりの全国平均医師数を超えているのは札幌圏、旭川周辺地区のみで、他地域は平均以下、最低圏域の根室、宗谷圏では札幌、旭川の3分の1以下である。道外の地域格差と比べ問題が大きいのは、北海道が極めて広域であり、たとえば札幌-稚内の距離は本州で見ると東京-山形よりも遠く、地域住民が医療を受けるために他県のように簡単にはアクセスできないのが現実である。 

(2)医師国家試験合格者の約3割が女性で、医師数も確実に増加している。北海道の女性医師比率は全国で2番目に低いが、最高比率の東京都ではすでに27%が女性医師である。

 生涯未婚率は年々高くなっている。女性医師は結婚相手に仕事への理解、家事育児の協力など負担の軽減を求める傾向にある。厚労省がおこなった平成24年度研修医アンケートによると、男性研修医も条件が合えば育児休暇を取得したいと思う方が半数近くいる。女性医師がキャリアを中断せず、また地域医療に参画していくためには家庭の協力が必要である。

テーマ「もしも自分が厚生労働大臣なら、北海道知事なら…」
■地域医療について 
○研修医:砂川市立病院では、結婚・出産後育児をしながら働く先生は、午前中の外来のみを担当しており、入院が入れば研修医に任せるという働き方をしている。女性医師としてキャリアを積んでいくには非常に良い働き方だと思う。研修医にとっても責任ある仕事を任されるので経験を積むことができる。
▽医学生(5年):出産して育児をしながらでも働くことができる環境はすばらしいが、ある程度の医師の人数がいて余裕があるからこそできる働き方だと思う。地域医療での実現は難しい。
▽医学生(5年):まだ家庭をもっていないので女性医師の大変さは正直イメージでしかわからない。
▽医学生(4年):出産等で職場を離れていた先生のために研修を用意するなど、復職しやすいような体制を作っていかなければならない。
▽医学生(4年):復職のための研修は絶対にあったほうが良いが、病院単位で行うと地域格差が生まれてしまうので国として行うべきだと思う。
▽医学生(3年):研修医の先生方に教えてほしい。実際に働いていると、自分のレベルアップのために勉強する時間はあるのか。
○研修医:各科を回っていると自分のために使える時間はほとんどない。時間を見つけて上手く利用するようにしている。
○研修医:私は沖縄出身だが、沖縄では病院間での交流や研修医同士での交流が多い。北海道では、病院を越えた交流の場が少ないように感じる。広域がゆえに難しいと思うが、他施設の方々と関われる機会を増やすべきだと思う。
▽医学生(2年):他大学の学生と交流を持つことによって柔軟な発想を得られる。今年の夏に稚内市立病院に研修に行き、医師の少なさを実感した。先ほどの砂川市立病院の午前外来のみの働き方を聞いて、女性医師の中では実際どれくらいの数で産休を利用しているのか疑問に思った。育休を取りたいという方の割合は藤井先生の説明の中にあったが、実際に利用している数が少ないのであれば、結局は医師の絶対数が足りないのかと思う。
○研修医:藤井先生のグラフを見ると医師の数は確実に増えている。今後も増えていくことが予想されるが、地域医療に携わる医師がどれだけいるのかが重要だと思う。大学での地域枠も制約が少なく、結局は大学医局の人員補充が目的のように思える。私が厚生労働大臣だったら、地域医療では内科は絶対に必要なので、大学では地域枠という形ではなく「総合内科枠」という形で学生の募集をしたいと思う。
▽医学生(5年):札幌医大で地域医療を見学した際、へき地で医師の数を補っているのは自治医大出身の先生がほとんどという印象を持った。誰もが地域で診療することには抵抗があると思うが、誰かがやらなければならないので、平等に地域に派遣されるシステムがあるとよい。例えば、医師国家試験の成績によって振り分けていくのはどうか。
○参加者:(製鉄記念室蘭病院長
 はっきりいうと地方の医療は地獄。医師の人数が少ないので当直の数が多い。医師不足の中で女性医師の助けは絶対に必要だが、地方だと妊娠等で休むとそれをカバーできる体制ではない。中核病院を作って医師の数を調整しない限り、地域医療の再生は難しいと思う。また医師不足の原因には、開業する医師が多いことも関係する。地域で研修を受け勤務医となり、経験を積んでから開業するといったステップを踏んでいくことで、医師の偏りは解消されるのではないか。その為にも、地方の病院は、研修医が行きたいと思うような病院を作らなければならない。医師をどのように集めるかがポイントとなる。
○研修医:地域枠で入学した学生が多い年代では、地域医療に従事したいと思う学生が多いのか。
▽医学生(2年):私も北海道枠でAO入試を利用して入学したが、同学年の約半分が地域枠やAO入試で入学している。周りは、将来は北海道で働きたいと思っている学生が多い。
○研修医:もし、あなたが30〜40代の年齢のときに地方に行くことになればどうか。
▽医学生(2年):悩みますが、今は行きたいと思う。
▽医学生(3年):どうすれば学生が地方に行きたい、地域医療に携わりたいと思うだろうか。
▽医学生(3年):学生は1度地方に行ってしまうと戻って来られるのか、本当に力がつけられるかが1番不安に思っていると思う。地方に行く目的・期間・都市部と地方での学びの違いなどを明確にすることで学生の地方への思いを変えられるのではないか。
○研修医:地域医療の崩壊は日本だけではなく、世界中で見受けられ、先進国と言われる国では都会志向が強く、地方に行きたがらない傾向にある。
▽医学生(2年):現実的なことを考えるならば、給料に差を設けるのはどうか。都会の病院より地域の病院で研修を受ける方が、給料が高いと聞いたことがある。医師を集める手段の一つとしてあっても良いと思う。
▽医学生(3年):私はIFMSA-Japanに所属しており、各国の医療について話す機会があった。カナダでは国が一括して医師を雇う形をとっており、決まった期間を決めてへき地へ派遣していると聞いた。
▽医学生(4年):初期研修はどうしても大きい病院になってしまうので、地域で研修先として考えられる病院は少ない。私は、経験を積むためにも地域で研修を受けたいが、地域の診療所では全科を回ることも困難だと思うので、地域の中小病院で研修を受けられたらと思っている。学生の内に、実際に地域医療に携わっている先生からの指導を受け、地域医療のやりがいや魅力を感じることができれば地方に残ると思う。
○研修医:現在、周りに中小病院が多くある砂川市立病院で研修を受けているが、周りの病院からは専門医がいないなどの理由で次々と急患が回されて来る状況である。様々な経験を積んで力をつけていきたいので、症例や患者の少ない中小病院では研修を受けたいとは思わない。
○研修医:研修先に手稲渓仁会病院を選んだ理由は、尊敬する先生がいたからで、場所や病院の状況等は全く考えずに指導医だけで決めた。指導医を充実させることも医師を集めるには有効だと思う。
▽医学生(3年):やはり指導医の存在は大きいか。
○研修医:砂川市立病院を研修先に選んだ理由は、比較的なんでもやらせてもらえるからである。指導医は自分たちの仕事が少しでも楽になるようにという思いで教えてくれている。その分辛いこともあるが、いい経験ができると思う。
○研修医:地域の中核病院の医師を増やし、そこから1ヵ月交代で地方に派遣するという政策はどうか。地方の住民は医師がすぐ交代し不満には思うだろうが、短期間であれば医師も派遣に応じると思う。 
▽医学生(3年):旭川医科大学には、「地域医療を語る会」というゼミがあり、実際に地域に赴いて病院実習をしたことがある。この経験で、地域医療の大変さや医師の思いを、身をもって感じることができたので、短い期間でも派遣する価値は十分にあると思う。
▽医学生(5年):地域の病院で実習をしている時は、高齢者が多く、慢性的な疾患は長期間・定期的に患者さんを診ることが大事だと感じた。もし1ヵ月で地域の良さややりがいを感じることができ、地域で働くきっかけになるのであれば、短期間での派遣も良いと思う。
○研修医:医師として1度は現場に行って地域医療に目を向けることは絶対に必要だと思う。短い期間で強制的に行かせる方法はいい案だと思う。
▽医学生(4年):1ヵ月間強制的に派遣されるのは、地域医療に関わるいい機会だが、学生の内から地域医療に関わる機会がもっとあれば意識する学生も多くなるはず。地域医療の現場を見学できる授業があるといい。
▽医学生(2年):地域医療を意識させるためにも授業で現場に行くことができれば1番いい。実際の現場を見ずに地域で頑張りたいと思うのは難しい。

■医療者の家庭のあり方 
▽医学生(2年):先日、「医師のあり方」というテーマの授業を受けた。3ヵ月ぶりの休みが取れて子供と遊ぶ予定だったが急患が出てしまい、自分なら患者か家族かどちらを選択するかという内容の授業だった。答えは出なかったが、この考えには個人差があった。私は家庭を持っていないので、答えはまだ出せない。
▽医学生(5年):家庭のこととなるとどうしても女性が注目されるが、男性も同じだと思う。実際に家庭を持ちながら働いている先生方に教えてほしい。仕事と家庭の両立はやはり難しいか。
○オブザーバー(相談窓口コーディネーター) 
  女性の先生は医師と結婚することが多いが、両方医師だと大変。私の場合は産休も育休も十分には取れなかった。患者さんと家庭のどっちを優先させるかという話があったが間違いなく患者さんを優先する。医師になった以上その決意はもっている。 
○オブザーバー(相談窓口コーディネーター) 
本来であれば患者か家庭かという選択はあってはならないもの。それでもやはり患者さんを優先する。家族の予定は常に未定だった。家族は患者さんを優先させることには理解してくれていた。子供には小さい頃から辛い思いをさせたが、本当は休みの日はゆっくりできるような病院側の体制作りが必要。 
○オブザーバー(相談窓口コーディネーター) 
最近は専門医志向の医師が多く、診察の仕方まで変わってきている。医師は症状を診るだけでなく、患者さんを一人の人間としてみることも大事だということを忘れないでほしい。 

今後地域医療を支える研修医、医学生たちの意見を聞かせてもらう貴重な時間となった。彼ら自身に進行をまかせ、2つのテーマについて話してもらったが、地域医療の再生への具体的な意見、不安のない方法で地域医療に参画するための戦略が、次々と噴出してきた。地域医療を支えるものは、義務的な体制ではなく、やはり後輩を教育する情熱とそこにかける若い力という王道であることを改めて感じた。 
明日の医療を担う彼らの意見を吸い上げ、実現可能な問題については実行し、行政に提言していくことが北海道医師会の役割であり、今後も、研修医、医学生たちとの意見交換を密にしていきたい。地域医療という重い問題にも臆することなく、果敢に誠実な意見を戦わせる彼らの能力に正直驚いた。
医療問題へのEarly exposureをすすめ、今後も太いパイプをもっていきたい。



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