活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

女子医学生、研修医をサポートする会「道医報1099号」

女子医学生と医師との懇談会(続)
常任理事 藤井 美穂

平成22年3月、日本医師会男女共同参画委員会では、女性医師支援活動に関する曰医会長諮問への答申書を作成いたしました。女性医師支援事業の軸は年ごとに推移してきており、出産-育児期間の休職からの復職支援事業から、キャリア形成を中断することなく勤務し続けられる就労環境整備提言へ、さらに勤務環境整備は単に女性医師のみならず男性医師も含めた医師全体のワークライフバランス確保の解決がひいては女性医師問題の解決になるという認識をベースに進んできています。
女性医師の働き方には単純なキャリアパスはないように思います。医師を続けたいという意思がある限り、個別的、多様な働き方が選べる法的、社会的支援を構築することが必要です。
3月号に引き続き、北海道医師会が共催する「女子医学生と医師との懇談会」について報告いたします。本会は医学部牛の30%を占める女子学生と、メンターである女性医師の懇談会で、平成18年から日本医師会が助成し支援しています。道内では3医学部学生を対象とし開催されていますが、男子医学生も参加し双方向性の熱心なフォーラムとなっています。3月号では札幌医大で開催された「第4回女性医師と医学生のおしゃべりフォーラム」の内容を報告いたしましたが、本号においては平成21年11月19日、旭川市医師会女性医師部会主催の「第6回医学部学生と女性医師の語る夕べ」(旭川医大、参加者32名)、平成21年12月11日、北海道女性医師の会主催「女性医師の今、そしてこれからを考える」(北大、参加者22名)を、講演いただきました先生の原稿を通し、報告いたします「旭川医大開催(平成21年11月19日)旭川医大内科学講座・病態代謝内科学分野講師:安孫子亜津子先生、吉田病院副院長:長谷部千登美先生、旭川医大復職文援研修担当特任助教:岸部麻里先生」「北大開催(平成21年12月11日)市立旭川病院耳鼻咽喉科診療部長:安藤敬子先生、札幌医大解剖学第2講座:永石歓和先生」。
合計3回の開催にあたり、企画・運営を担当いただいた方々、講師各位、参加された皆様に紙上より厚く御礼申し上げます。


女性医師として働き続けるために
旭川医科大学医学部 内科学講座病態代謝内科学分野 講師
安孫子 亜津子
平成21年秋の「女子学生と語る夕べ」で、私のこれまでの経緯をお話しする機会をいただいた。私が今こうして内科医としての仕事を続けていられることをあらためて考えてみた。けっして仕事も家庭も上手く両立できているわけではない。いつもこれで良いのだろうかと迷い葛藤する日々の連続である。これはどんな女性医師でも、いえ男性医師でもこの仕事をする者として当然与えられる悩みなのではないのだろうか?私は平成4年に旭川医大を卒業して、糖尿病内科医の道を選んだ。最初は漠然と糖尿病という疾患がおもしろそうだったことと、内科医として幅広く患者さんに関わっていくことに魅力を感じ選択した。実際にこれまでにたくさんの糖尿病患者さん達と出会い、その生活の一部に介入していく中で、たくさんの人生そのものを私自身も学ぶことができた。糖尿病は一見簡単な病気と思われがちであるが、実は一人一人の病態は異なり、教科書知識では説明ができないこともたびたびである。だからこそ何年たっても新たな発見の連続であり興味は尽きない。最近は、一般の方への糖尿病や生活習慣病の講演などもさせていただき、一人でも多くの人に健康に関する知識を知ってもらいたいという使命感で啓発活動をしている。卒後9年目にボストン留学中に子どもに恵まれ、いろいろな制約が増えながらも、新鮮な経験ができている。予期せぬ出来事に遇することもあるが、対応力を鍛えられ、乗り越えるたびに親子で強くなっていると思う。もちろん家族や医局のサポートがなければ、今まで仕事を続けることはできなかったであろう。本当に私の周りのたくさんの人たちに「感謝!」の毎日である。
いつも後輩の女子学生さんたちに話すことは、将来のことを心配して悩むのは当然であるが、その時々で自分が一番やりたいこと、一番大切だと思うことを選択していくことが重要ではないかということである。自分自身が信念を持つて決めたことであれば、後悔はせず、仮に失敗したとしてもそこから立ち直る力を養うことができると信じている。私たち女性医師は一人の努力だけでは、成し遂げることができない仕事もある。周囲との関係を大切にしながら、自分のできることをできる限りやってみることが、医師という仕事を継続する上で大切なのではないかと考えている。

女性医師のキャリアアップをめざして
─夢は語られてこそ実現する─
吉田病院副院長
長谷部 千登美
2009年11月19日に、旭川市医師会女性医師部会の年間行事である医学生との懇談会が開催されました。今回は特に、女性医師のキャリアアップという課題に向けて語り合おうという主旨で、『望まれる女性医師のキャリアアップ』というタイトルで、少しお話をさせていただきました。その大部分は、徳島大学医学部外科の島田教授が日本肝臓学会の男女共同参画委員会で講演された時のスライドをお借りしたものです。
島田教授の教室は消化器外科を専門とされていますが、入局者の減少が大きな問題で、今後は女性医師の活躍が強く期待されるという状況にあります。一方女性医師に対するアンケート調査から、体力的にきつい、妊娠・出産による中断が不安など、キャリアアップを阻むような回答が多かったとのことです。女性医師が感じる不安材料としてよく言われることですが、そのようなハンディキャップに対して、さまざまな工夫をされて取り組んでおられるそうです。
この外科教室での取り組みとして、手術の体力的キツさに対しては鏡視下手術の導入や長時間手術の際の役割分担などの工夫、休業時のハンデに対してはごく短時間の出勤による研修、e-ラーニングなどを活用した自習制度などを導入されてきました。そして、学会発表や論文発表の積極的すすめにより、女性医師のキャリアアップを支援されているとのことです。そして、男女に関わらず皆が楽しく仕事ができるような雰囲気作りも大事にしてこられたそうです。
女性であるために妊娠・出産などの際に休業せざるを得ないことがあるとはいえ、可能な限り努力する姿勢、夢をもって歩む意識作りが、女性のキャリアアップに重要な課題といえるのではないでしようか。そして、ともに仕事をする男性医師も、女性が安心して働くことができる環境を作ることは男性の労働環境改善につながることを十分に認識して、女性医師の立場を理解協力してもらうことが重要になります。
女性・男性ともに意識改革をすすめて、互いに協力し合える体制作りを目指すことが大変重要であるとの結論です。最後に「夢は語られてこそ実現する」という言葉を強調していただきました。学会の会期中に行われた島田先生のこのご講演を聴き、女性医師に対してこのように愛情あふれるエールを送っていただいたことに大変感激すると同時に、夢を語りその実現に向けて努力する姿勢を忘れずに、さらにこのような意識をこれから医学を目指す方たちにも伝えていかなければいけないと、強く心にきざまれました。夢を語り、その実現に向けて歩んでいく女性医師が今後もっともっと増えることを期待したいと思います。

二輪草センターにおける
旭医大生の活動について
旭川医科大学復職支援研修担当 特任助教
岸部 麻里
昨年11月19日、「第6回医学部学生と女性医師の語る夕べ」が、旭川医大で開催されました。学生16名と医師16名の参加があり、“キャリアアップ”をテーマに講演や懇談会で活発な意見交換がなされました。詳細は、すでに旭川市医師会報に掲載されております。 
今回は、二輪草センターの活動と学生との交流について、いくつかご紹介させていただきたいと思います『二輪草センターでは、学童保育の一環として夏休みと冬休み中の3日間、職員のお子さんを預かるキッズスクールを開催しています。私も、2人の子どもを参加させていますが、工作や職場見学などの楽しいイベントはもちろんのこと、特に素晴らしいと感じるのは、医学栄と看護学生のボランティアが子ども達の面倒をみてくれることです。子ども達も、学生のお兄さんやお姉さんと遊べるのを、毎回とても楽しみにしています。ボランティアの学生のなかには、将来小児科医を目指す者もおり、頼もしく感じています。
またセンターでは、働きやすい職場を目指して各科でどのような取り組みが行われているか、学生に広く知ってもらう機会として合同入局説明会を開催しています。昨年は、医学生の代表が働きやすい職場についての考えを発表、教授陣とのパネルディスカッションが行われました。教授の考えが直接聞けるとあって、多くの学生が参加し、会場は大盛況でした。学生代表として発表してくれたのは医学科5年の女子学生ですが、彼女の将来を見据えたしつかりとした考えに感銘を受けました。
そして、本学では昨年12月に病後児保育室が開設されました。名称は、公募により医学科4年の男子学生が考案してくれた“のんの"と決まりました。名称の由来を尋ねたところ、「地域医療を担う旭川医大の特色が表現されるように、地域に根差した文化であるアイヌ語から花を意味する言葉を選んだ」と教えてくれました。病後児保育室を利用する子ども達に、それぞれの花を咲かせてほしいという思いも込められているそうです。さらに、職員による育児・介護についての体験談セミナーには、多くの学生が自主的に参加してくれています。このような活動を通して、学生の頃から高い志をもって、積極的に職場支援について考え、そして行動する後輩達の姿に感心するとともに、自分自身も頑張っていこうと励まされます。彼らが、医師として働くときに、その素晴らしい力が十分に発揮できるようサポートしていきたいと考えております。

私の六十余年
市立旭川病院 耳鼻いんこう科診療部長 旭川市医師会女性医師部会 部会長
安藤 敬子
卒後の40年間のほとんどを勤務医として過ごしました。私が医学部へ入ったのは、女が仕事を続けるためには資格が必要、それには医師か弁護士しかない、という単純(不純?)な理由からでした。耳鼻科を選んだのは手術がしたかったからです。

結婚後も妊娠する気配がなかったので、それならばとスイスへ留学しましたが、予期せぬことにはスイスで出産となってしまいました。帰国の数ヵ月後にはフルタイムで復職したので、当直も夜間呼び出しもと超多忙な日々でした。仕事を続けられた理由は、院内に別時間託児所があったこと、病院の敷地内に医師住宅があったこと、子どもが病気の時は電話一本でいつでも看てくれるお手伝いさんを雇えたこと、です。子どもがー人だったので仕事を続けられましたが、もし2人だったらリタイアしていたでしょう。子どもが家を離れてからは自分の自由時間を持てましたが、今度は親の介護をする年齢になっており、結局、自由に時間を使えたのは10年間だったことになります。これは、仕事と家庭の両立に奮闘している有職女性としての標準的なパターンかと思います。
最近、若い女性医師(男性も?)の意識が二極化しているように感じられます。それぞれに個別の事情があり、2つに大別するのは不適当ですが、家族や周囲の援助を最大限に生かしてキャリアアップを目指すグループと、ワークライフ・バランスを重視するグループの2つで、後者が増えているように思えます。医師に限らず女性が仕事を継続するためには、ワークライフ・パランスは大切です。医師の場合は3年間医療から離れるとその後の復帰は非常に難しくなり、そのままりタイアとなるケースが多いと聞きます。彼女達が仕事を続けられるような環境を整えることこそが医師不足解消の即効薬ではないでしょうか。育児休暇を取らなくても仕事と両立できる制度、仕車量を減らしながらゆっくりとキャリアアップできるような制度が必要です。同時に女性医師の側も、医師を育てるためには多の税金が投入されていることを自覚しなければなりません。「女子学生との懇談会」では、絶対に仕事を続けてほしい、一旦辞めると復帰するには多大なエネルギーが必要になるなど、自分の経験からお話ししましたが、本当は働き続けた医師よりはリタイアした医師の話こそが、今後の支援策を考える上で有益だと考えています。
懇談会で、ある女性医師がふと漏らした「最近は男女とも保守的になっているのではないか?」という言葉にハッとして、今も気になっております。


医業と母業
〜いかにモチベーションを維持するか〜
さっぽろ医科大学医学部解剖学第二講座
永石 歓和
昨年12月に北大で開催された医学部学生との意見交換会に、「留学中に出産・育児を経験した医師」の一人ということでお誘いをいただきました。
私は平成9年に札幌医大を卒業後、同大学内科学第一講座に入局しました。市立釧路総合病院で内科一般を、札幌厚生病院で消化器科の勉強をさせて頂き、厚生病院で学んだ多数の難治性炎症性腸疾患症例の経験が、その後の基礎研究のテーマにつながりました。大学院在籍中は、市中病院勤務をしながらのmidnight researcherで、どこか中途半端な研究生活に自身納得がいかずにいましたが、2005年7月から約2年半にわたり、米国ハーバード大学、Brigham and Women's Hospitalに留学する幸運な機会を得ました。腸管粘膜免疫の研究をし、ラボワークも異国の生活も満喫していたところで結婚、その後同業の主人は先に帰国し、私は研究継続のため単身ポストンに残り、出産も経験しました。4週間の産休の後仕事復帰しましたが、保育所利用までの間は日本から母を呼び、ベビーシッターを頼んでの綱渡り生活でした。
2007年秋に帰国、やはり臨床医でありたいという思いが強く、以後消化器内科医として勤務しました。育児は保育所と実家を利用し、バランスをとることで気力が充実して仕事ができたと思います。2009年4月からは、開学初の女性教授の藤宮峯子教授のご指導のもと、明るくパワフルで発展的なラボで、メリハリを持って研究・教育・臨床に従事させていただいています。育児経験があり、時間的制約を理解していただける一方、仕事人としての責任感とモチベーションの高さを人一倍保ち続ける厳しさも日々教えられています。女性医師の働き方がクローズアップされ、インフラ整備や法的保護は手厚くなりつつありますが、女性医師がいかに活躍できるかは、われわれ自身のモチベーションの維持が根本にあるように思います。母業と医業の両立は精神的に厳しく、一方を選択するのは解決の一助かもしれませんが、医師である以上何らかの形で医療に貢献できる立場に留まりたいという、強い気持ちを持ち続けることが大切であるように感じています。また、特別な優遇が難しくても精神的に応援していただける環境が増えていくことが、母業兼業の女性医師の活躍の場を広げることにつながるのではないかと考えています。今後とも諸先生方のご指導をよろしくおい申し上げます。
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