活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

日医関係

第8回男女共同参画フォーラム

平成24年7月28日(土)午後1時
富山第一ホテル 3階「白鳳の間」



常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂

   第8回男女共同参画フォーラムが、去る7月28日(土)に富山第一ホテルで日本医師会主催、富山県医師会担当で開催された。
 当会からは、畑副会長、藤井・岡部両常任理事と小樽市医師会から1名、旭川市医師会から3名および北海道の地域医師確保推進室から2名が出席した。
 今年のメインテーマを「変わる〜男女共同参画が啓くワークライフバランス」とし、横倉日医会長、岩城勝英富山県医師会長のあいさつの後、渥美由喜氏(厚生労働省政策評価に関する有識者会議委員/東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長)による基調講演「医療機関におけるワークライフバランス」が行われた。
 その内容は、医療機関は人命を扱うため、一般企業とは異なり、プライベートを犠牲にして職務を優先しなければならないという業界特性があるが、24時間、365日対応しなければいけないのは報道機関も同じで、NHKは記者職の4割が女性であり、その優秀な女性をなんとかつなぎとめて活躍してほしいと本気で取り組んでいる。医療機関のようにプライベートを犠牲にしなければならないワークライフバランスがとりづらい業界でこそ真剣に取り組まないと、優秀な人材は来ず地盤沈下しかねないと危機感を覚えている。
 政府は先月「働くなでしこ大作戦」を発表した。あらゆる組織で女性管理職割合などの公表を義務付けようとする取り組みである。5月には経済界としては初めて、経済同友会が女性役員割合を1%から30%に引き上げようという提言をしており、官民挙げて女性の活躍に追い風が吹いている。
 ワークライフバランスは人的にゆとりがあるところでなければできないというイメージがあるが、人口減少社会のため今後50年で3分の2に人口は減少する。これからは、需要と供給の関係から働き手が職場を選ぶ時代になり、魅力ある職場に人材は集まるようになり、業界挙げて魅力ある職場づくりに取り組む必要がある。
 女性の活躍には3段階ある。第1段階は職場に既婚女性や子供のいる女性が増え、第2段階では、管理職に女性は多くなり、第3段階で仕事と家庭を担う両立支援を重視し、誰でも働きやすい環境を整えるようになっていく。「ワークライフのワークは質の高い生活やゆとりある人生・趣味があって、その土台があるからいい仕事ができるようになる。」ということが重要なポイントであり、決して切り離すことはできない。
 従業員には4パターンがあり、ワークライフバランスはイキイキ社員を増やすことにつながる。ワークライフバランスには3つの要素がある。1.業務をオープンにする。2.たえず業務改善に取り組む。3.お互い様と相手の時間への敬意を持つことによって思いやりの輪が広がっていく。
   職場満足度が高い病院は患者満足度も高く、そういう病院は非常に伸びている。組織として成功しており、会社だと必ず業績も上がる。ワークライフバランスや多様性の取り組みをトップが考えてもなかなか下に浸透しない職場は、ピラミッドの途中に粘土層があるからだと言われている。粘土層がある職場は研究機関・大学・医療機関などが多く、活躍する女性の話を聞くと「上司に恵まれました」とよく言われる。粘土層にも2つのタイプがあり、紙粘土と硬粘土。紙粘土は水に溶けるのに対し、硬粘土はこちこちにこう着しているものを指す。
 ダイバー・シティ、ワークライフバランスなどへの対応に遅れると、不祥事が発生しやすくなる。企業リスクへの対応という面から考えても、ワークライフバランスやダイバー・シティ、女性の活躍を積極的に取り入れている企業の方が不祥事を回避でき、女性が活躍する企業では、女性の視点で商品やサービスを考え付加価値をつけることができ業務プロセスの効率化を行うことができる。ワークライフバランスはイノベーションの源泉であり、集中して仕事に取り組み、そしてそれから解放される、オンオフの切り替えがひらめきの源泉になる。
 人口減少社会では、仕事の進め方を絶えず見直していかないと、1人あたりの業務量はどんどん増えていき、ワークライフバランス以前に仕事の進め方の見直しは絶対に行わなければいけない。制約を受けながら仕事をしている人には、いろいろな知恵がいっぱいあり、その知恵を活かしながら職場を変えていくことによって、人が減っていく中でもこれまでよりも質の高い業務を追求していくことがこれからの考え方である、と結ばれた。
 その後、(1)日医男女共同参画委員会、(2)日医女性医師支援センター事業−についての報告があり、引き続きパネルディスカッションでは、4名の演者からそれぞれの立場での講演があった。
 最初に、「男性が変わる〜医師夫婦二人三脚のコツ〜」と題して、埼玉医科大学脳神経外科藤牧高光教授から、脳外科医師の夫と小児科医師であり免疫学者でもある妻と3人の子どもを育てながら、約30年間共働きを継続してきた半生(反省?)の話があり、女性医師だからこそできることがあり、男性医師だからこそできることがあり、お互いを認め合いお互いのよさを活かすことがめざす世界であり、それが掛け算となり、多様性が世界を広げ、医療を豊かにし発展させるとした講演であった。

   次に、「働き方が変わる」と題して、2人の子どもを育てながら富山赤十字病院内科の常勤医師として働く小川加奈子医師から、働き方を変えて仕事を継続するには、周囲つまり勤務先の上司、同僚、病院、家族、社会全体の理解、許容、協力がなければ成り立たず、理解を得たいと思っている。そして、自分が若い世代へのロールモデルとなれるようにしたいと考えているという講演であった。
 続いて、「意識が変わる」と題して、富山大学医学部小児科准教授で同大学附属病院の市田蕗子診療教授から、2007年10月に富山大学附属病院内にオープンした院内保育所と、2009年に開始したベビーシッタープーリングシステムの紹介があり、育児中の女性医師支援は、勤務する全ての医療関係者の勤務支援につながり、環境を整備することで、富山大学附属病院ではほとんどが完全復帰するようになり、ほぼ全員が、出産後4〜12ヵ月で職場に復帰し後輩のロールモデルになっているという講演であった。
 また、日本循環器学会の男女共同参画委員会のアンケートの結果から女性循環器医師が、仕事と子育てを両立し仕事を続けていける体制作りと雇用形態の多様化の推進、専門医更新の産前・産後の保留制度など日本循環器学会が進めていかなければならない課題は多いとし、日本小児科学会女性医師の職域での環境改善プロジェクト委員会で行った、全国小児科医師現状調査の報告があった。
最後に「組織が変わる」と題して、日本医師会男女共同参画委員会委員で、大阪厚生年金病院の清野佳紀名誉院長から、同病院のワークライフバランス改善への取り組みの短時間正社員制度や保育所設営などの環境整備の紹介があり、子育て支援の制度を開始したら職員が退職をしなくなったと報告があり、開業医とお互いのワークライフバランスを大切にして取り組んでいる同病院のチーム医療の紹介があった。そして、職員を大事にする病院であることが何よりも大事なことであるとした。
 その後、総合討論があり「第8回男女共同参画フォーラム宣言」を採択した。盛会裡に終了し、次回の担当県の山口県医師会長に引継いだ。参加者は、男性154名、女性205名の計359名であった。


「北海道医師会女性医師等支援相談窓口」コーディネーターの感想記
小樽市医師会理事 澤田香織
(北海道医師会女性医師等支援相談窓口コーディネーター)
  この男女共同参画フォーラムへの参加は、平成21年札幌、22年鹿児島、23年秋田、24年富山と4回目となります。  「医師の働き方を変える」、「男女共同参画のための意識改革」、「育てる〜意識改革から実践へ」、「変わる〜男女共同参画が啓くワークライフバランス」とテーマも、より広がりのある発展形の内容となってきております。毎回とても楽しみに参加してまいりました。女性医師支援に留まらず、男性も含む医師全体としてとらえ、さらに医療システムへの提言、国民を巻き込むという提言へ とメッセージを発信しており、その力強さに感動しております。
 このフォーラムは、全国医師会からたくさんの女性医医師はもちろん、参加者約350名の半数は男性というまさに男女共同参画にふさわしい構成となりました。 毎回お会いする、日本医師会コーディネーター事業に関わる先生からたくさんのご助言をいただくことができ、とても勇気づけられました。これから北海道でも始まるコーディネーターとしての役割に活かせるよう努力いたします。全国の女性医師の先生方にお会いできるのもとても楽しみなことです。
 富山県医師会は理事16名中4名が女性という、全国平均5.3%(平成24年7月現在)に比べトップをいく医師会です。その先生方の会の運営にも感動いたしました。シンポジストに対する最後の質問は、「医師を志した動機」と「今現在医師でよかったかどうか」でした。すべての医師が初心を忘れることなく、決して医師であることをあきらめないでキャリアを積んでほしいというメッセージだと感じました。デザートの1品まで心配りをされたという素晴しい会の運営に心から感謝申し上げます。
 前日本医師会理事で、いままでこのフォーラムを主導されてきた保坂シゲリ先生とホテルのフロアでお会いできましたとき、先生は「私は、意見を言えるシステムをつくっただけ。そしてこれからそのシステムを守っていくことが重要」とおっしゃっておりました。 すべてに共通する言葉と心に深く刻みました。

 後日フォーラムの内容は、日医ニュースで紹介されますので是非ご覧になってくださいませ。

「北海道医師会女性医師等支援相談窓口」コーディネーターの感想記
旭川市医師会理事 坂田葉子
(北海道医師会女性医師等支援相談窓口コーディネーター)
 私は、福岡での第4回目のフォーラムに初めて参加させていただいて以来、今回で5回目の参加となります。初めて参加したころは、女性の就業における特有の問題としてワークライフバランスが取り上げられていましたが、この数年、少しずつ男性の考え方が変わり、女性のワークライフバランスを考えることは男性のワークライフバランスを考えることにもつながるということを意識した内容に変わってきたように思います。今回のフォーラムでの基調講演「医療機関におけるワークライフバランス」、それぞれの立場から「変わる」というキーワードで話された4人のパネリストの先生の講演は、とても面白いものでした。
 渥美由喜氏の基調講演は、私にとって面白いと同時に、非常に衝撃的なものでした。欧米では、ワークライフバランスやダイバーシティの取り組みという段階を経て、すでにその効果を分析・評価する時代に入っているという実例を交えたお話や、取り組みが遅れているといわれている日本においても、すでに「ワークライフバランスやダイバーシティを阻害する各種課題に対して、その企業のニーズに合わせたコンサルティングを行う組織」が存在し、国や多くの企業・医療機関が彼らの力を必要としているという現実にややカルチャーショックに近いものを感じたほどです。何せ、この講演を聞くまで、ダイバーシティという言葉さえ知らなかった私です。私の住む「地方」では、いまだに女性の就労問題を女性だけの問題、女性のわがままととらえている先生が多いというのが現状です。このギャップに驚くとともに、この情報を「地方」に帰ってうまく伝えられない自分に、もどかしさを感じています。
 基調講演の後、4人のパネリストの先生方の講演を伺いました。「男性が変わる」のタイトルでお話をいただいた藤巻先生は、脳外科医と小児科医/免疫学者のご夫婦です。3人のお子さんを育てながら、夫婦二人三脚のワークライフバランスを実践し、ともに医師として、研究者として歩み続ける姿には、自分と夫にも少しダブル部分があり、必死だった昔を思い出し、懐かしくなりました。先生の作った4人分のお弁当には、脱帽です。「働き方が変わる」のタイトルでお話をいただいた小川先生は、子育て真っ最中の内科医です。育児休暇を取得された後に変則勤務で復帰されています。女性医師の中には、産休・育児休暇、当直免除等を当然の権利と思っている方もいらっしゃいますが、周囲への感謝は忘れてはいけないことだと思います。先生のお話の中には、常に上司・同僚・後輩そして夫への感謝の気持ちがあふれており、とても好感が持てました。「意識が変わる」の市田先生、「組織が変わる」の清野先生からは、女性の就業環境の改善は男性を含むすべての職員の就業環境を改善し、職員のモチベーションの向上が収益にもつながるという実際的なお話をお聞きしましたが、やはり医師の絶対数が少ない地方の病院では、思い切った改革は難しいかもしれません。
 『仕事と育児・介護を含む家庭生活は二者択一するものではない。メリハリのある仕事は生活の余裕につながり、質の高い生活が質の高い仕事につながる。ワークの土台がライフであり、これらは互いに相乗効果をもたらすものである』、『ワークライフバランスに取り組むと、自分の時間を大切に思うだけではなく、「相手の時間」への敬意を持つようになる。そして職場に「思いやり」が広がっていく』という渥美氏は言いました。まさにこれは、理想です。理想が現実に変わるとき、男女共同参画という言葉は、必要なくなるのでしょうが、まずは、今後日本医師会男女共同参画がどのような方向性を持って進むのか、来年のフォーラムがどのようなテーマになるのか楽しみです。

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