日本医師会共催:医学生、研修医等をサポートするための会「医学生・研修医と語る会」
「医師のワークライフバランス〜医師全体の協働のために〜」
常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂
北海道医師会では、医学生・研修医が意見交換を通じて、男女共同参画やワークライフバランスについて、性別を問わず、若い時期から明確に理解してもらうことを目的に「医学生・研修医と語る会」を開催しており、平成27年度第2回目は2月29日(月)に当会理事会室で開催した。
当日は、医学生・研修医7名と医師11名の参加があった。
最初に、北大病院内科二Olga Amengual先生と堀田哲也先生から話題提供をしていただいた後、参加者全員でフリートークを行った。
なお、この会には北海道医師会から深澤副会長、北野常任理事、女性医師等支援相談窓口のコーディネーターと小職が参加した。
◇
話題提供
「Women physicians in Europe : career-family balance」
北大病院内科二 助教 Olga Amengual 先生
今日は大きく分けて「ヨーロッパの女性医師について」と「指導的立場と女性医師について」をテーマに話していきたい。
ヨーロッパにおいて、2014年の女性医師割合は40%を超えており、専門医より一般かかりつけ医になる傾向が強く、特に外科や整形外科の女性医師が極端に少ない。スペインでも、女性医師の増加は目ざましく、医学生の74%が女性というデータも出ている。
私の姉は、レジデント時代に一人目、勤務医となって二人目、その2年後に三人目を出産し、産休以外休むことなく仕事を続け、3ヶ月の産休後、週ごとのシフト制で夜勤なしのフルタイム勤務で復帰した。シフトは、1週目の月〜日は8時〜15時、2週目は完全に休み、3週目は3時〜22時、4週目は休みのスケジュールである。姉の夫は、月〜金は8時〜15時まで働き、月に3、4回の夜勤をこなしながら、完全に家事や育児をシェアし、お互いに仕事と家庭のバランスを取っている。家では男女は平等で、助け合うことが大切で、スペインでは男性の育児休暇取得も当然のこととされている。まずは、家事と育児のシェアについて、学生の時から男性にも教育していくことが重要であり、病院は、院内保育所の設置、女性医師やその周りの医師へのサポートを進めていかなければならない。
次に、指導的立場と女性医師について、仕事と育児を上手く両立している人に成功の秘訣を尋ねると、女性は大抵「周りの助けがあったから」「たまたま上手く行っただけ」と謙遜し、「私が頑張ったから」「私が素晴らしいから」と答える人はいない。女性は特に自分の成功を過小評価する傾向にあり、自分の成功は外因によるものだと考える。女性が仕事と育児を両立させ、指導的地位に立つためには、女性自身が勤務条件等について交渉し意思表示を行っていくこと、目に見える形で自分をアピールしていくことが必要で、自分のキャリアのゴールを自分で決めつけずに、柔軟性を持って、決してあきらめないでほしい。苦しい時は、これまでの過程を思い出してほしい。そうすればきっと踏ん張れるはずである。成功への道は、一直線であるはずがない。
あなたのゴールに向けてあきらめないで頑張ってください。
話題提供
「女性医師等支援:大学医局の取り組み」
北大病院内科二 堀田 哲也 先生
北大病院内科二では、以前から女性医師等支援に積極的に取り組んでおり、教授は北大病院の女性医師等支援室の室長を担っている。
医師国家試験合格者のうち、約3割が女性というこの時代で、女性医師数は年々増えている。女性医師の休職・離職の理由としては出産が一番多く、次いで子育てとなっている。産休の取得状況については、取得しなかった者が20.9%もおり、その内の45%が「産休を取得しづらくて休職・退職した」と答えている。
産休・育休の問題点は、産前産後休業取得が不徹底であることであり、代替医師制度の整備などにより、休業取得を徹底させる必要がある。女性医師が仕事を続けられる環境を整えるためには、託児所や保育園の整備、代替のための医師確保、当直免除など、課題は多い。
北大病院では、女性医師のワーク・ライフ・バランスを支援する女性医師等支援事業を行っている。具体的には、仕事と家庭の両立ができる働きやすい職場環境の整備を目的に、相談窓口や院内病後児保育の運営、復職研修プログラムの作成などを行っている。内科二には子育て中の女性医師が7名、その内6名が就学前の子どもを育てている。最近5年間の入局者48名中15名が女性医師である。子どもがいる場合は個々の希望に応じた勤務体制を可能とし、就学前の子どもがいる場合は、当直と夜間当番は免除し、病棟は主治医制ではなくチーム制を採用している。後期研修は、原則2年間は地方病院勤務であるが、配偶者と同じ病院もしくは同じ地域になるよう配慮している。さらに、男性医師の育児への理解を深めるため、出産時は男性医師にも1週間の休暇制度を設けている。大学病院は、地方病院に比べマンパワーが豊富であるため、個々の希望に応じた柔軟な対応が可能で、キャリア形成や育児との両立には有利であると言える。地方病院でも、マンパワーさえ充実させることができれば、働きやすい環境を整えることができるのではないか。
フリートーク
テーマ「医師のワークライフバランス〜医師全体の協働のために〜」
日医のジュニアドクターズネットワークの副代表をされている研修医の三島先生の進行で、ミーティング形式でフリートークを行った。
○男子学生(北海道大学5年)
Olga 先生の話の中で、医学生の74%が女性とあったが、スペインまたはヨーロッパの流行・傾向について詳しく教えてほしい。
○Olga 先生
ヨーロッパでは、医師の地位は日本のように高くない。ヨーロッパと日本とではステータスに違いがあると感じる。医師であっても多くの人から責められるため、常に争いが起きる。男性は争いを嫌い、患者とのかかわりをできるだけ避けようとするため、女性の柔らかい対応が必要で、ここに女性医師の存在意義があると思っている。
○三島先生
私がオランダに留学したときも女性医師が多かった。男性医師と張り合うのではなく、女性のメリットを理解して活かしているという印象を受けた。
○女子学生(北海道大学5年)
女性医師のキャリア継続のためには、どのような意識を持っていることが大切か。
○Olga先生
世界のどこの国であっても女性も努力しなければならない。努力なしに成功はない。また、女性医師のキャリア継続のためには、周りの理解を得るための教育が大切になる。将来に向けてサポートしてあげられる環境を女性だけでなく、男性も加わって整えることが一番重要である。
○Shadia 先生(手稲渓仁会病院)
Olga 先生は、夫の助けや職場の協力など、素晴らしい環境にいると思うが、最初からそのような夫や職場を探していたのか。
○Olga先生
現在のように、仕事と家庭を両立できるとは全く考えていなかった。こうして上手くできているのは、職場の理解と夫婦二人の努力が実ったものだと思っている。
○女子学生(札幌医科大学5年)
私の周りにも女性医師が多く、産休育休後は戻りづらいと聞く。復帰の際にハードルを感じていたか。
○Olga先生
仕事に復帰するときは、子どもを保育園に預けることに対して罪悪感があった。しかし、夫が励ましてくれたことで楽になった。キャリアについては、子どもがいることで常に夫には先を行かれ、後輩にも追い抜かれてしまうと危機感を持っていたが、いつの日からかキャリアアップがスローペースでも損をすることはない、自分の気持ちを強く持つことが大切だと思えるようになった。子どもが足枷になるなんて思わないでほしい。
○男子学生(IFMSA-Japan・札医大3年)
女性医師のキャリア継続も大切なことだが、子どもの幸せを一番に考えなければならないことを忘れてはいけない。私は、子育て中の医師が同僚にいたら、子どもと一緒にいる貴重な時間を確保できるよう協力してあげたいと思う。
○女子学生(IFMSA-Japan・札医大2年)
今日の話を聞いて、育児と仕事の両立には周りのサポートが不可欠であると改めて感じた。私は将来、自分の信念を強く持ち、意見をしっかり伝えられる医師になりたいと思う。専門医取得のためには出産のタイミングはいつが良いか。
○堀田先生
最近、専門医志向の研修医や学生が多いと感じている。専門医取得はゴールではなく、むしろスタートである。専門医取得後が大事だとわかってもらいたい。つまり、専門医取得はあくまでも通過点なので、出産のタイミングを気にする必要はないと思う。
○山本先生(北海道大野病院)
放射線科は3割が女性医師であり、他の診療科に比べて特に専門医取得がスタートラインである。放射線科については、専門医を取得してから産休育休をとるよりも、専門医取得前の半人前のうちに出産してしまう方が良いかもしれない。
○藤井常任理事
Olga 先生の姉のように、一週間働いて一週間休むというシフト制の勤務形態は、女性のみ可能なのか、育児中の医師のみ可能なのか。
○Olga先生
女性や育児中の医師のみといった限定ではなく、すべての医師が利用可能である。
○Shadia先生
先進国と言われているアメリカだが、女性に対する支援は乏しく、有給の産休制度はない。男女で給料に差があるなど女性に厳しい国である。
○寺本先生(札幌医科大学)
当院では、出産による離職率は低い。カンファレンスは朝に行い、チーム制を導入しているなど、育児中の医師が働きやすいよう配慮されている。
○清水先生(北海道大学病院)
育児中の医師をサポートするためには、少なからず周りの医師が負担を負わなければならない。その負担を一人で抱え込むのではなく、チームみんなで分散することが大切だと思う。
○堀田先生
医師同士で不公平感が生まれてしまうのが一番の問題だと思っている。サポートを受けた側の医師は、同僚や後輩が同じ立場になったときに今度はサポートをする側に回るというフィードバックがあれば、良い循環を継続できると考えている。サポートを受ける医師だけでなく、サポートをする側の医師にも気を配る必要がある。
○Olga先生
私はまず、リウマチ医になるという目標を決め、その過程の中で研究を極めたいと思うようになった。北大に来て、学生と向き合うようになってからは指導医としての力をつけたいと思った。このようにゴールは同じでも、過程では様々なことにチャレンジして、多くのことを吸収すべきである。