活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

医師の就労環境づくりを支援する事業周知のための臨床研修指定病院訪問(その1)


常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂


 本事業は、女性医師等支援相談窓口事業をできるだけ多くの医師に知ってもらうことと、これから医療の現場に飛び込んでいく若い医師たちとの懇談を目的とし、さらに仕事と家庭の両立ができる職場環境整備と医師の健康的な就労環境づくりに必要な支援事業を紹介するため、平成24年度に開始しました。


 管理職、指導医、勤務医ならびに研修医の先生と話をすることができ、北海道の地域医療に関する現状や、各病院の取り組みをお聞きすることができ、男性・女性に関係なく、また、医師だけではなく看護師や事務職員も責任を持って働くことができる職場環境づくりが進んでいることを実感いたしました。


 平成27年度は6つの病院を訪問しましたので、各病院の様子は、訪問したコーディネーターからそれぞれ報告します。


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釧路赤十字病院
[平成27年7月9日(木)]
  コーディネーター 足立 柳理


 釧路市の3公立病院の最後に残った釧路赤十字病院の訪問が行われました。日赤からは二瓶院長、山口、近江両副院長、青柳部長、佐藤副部長、橋本研修医が出席。釧路市医師会からは、堀口副会長が、北海道医師会からは長瀬会長、深澤副会長、藤井常任理事、道東地区の私が出席致しました。

 はじめに、長瀬会長からこの事業の趣旨説明と、各病院で行われている取り組みや情報提供をいただき、その後、二瓶院長から「女性医師が今後さらに増えていくと思う。子育てと仕事の両立は、まわりの協力なくしては成り立たない。当院としてできることは協力していきたい。この機会にいろいろな意見を聞かせてほしい」とのご挨拶がありました。意見交換会での内容を要約しますと「日赤病院は、道東地域における周産期およびお産における中核周産期センターであり、日本産婦人科学会から総合周産期センターでは20名以上、地域中核周産期センターでは10名以上の医師を配置するようにとの通知があったが、実際には北海道においては産婦人科の医師の絶対数が足りないので、これを満たすことは不可能といわざるを得ないとの説明があり、大学の垣根をこえての派遣には様々な問題がある」との意見がありました。

 実際に子育てをしている医師からのご意見では「院内保育に関して、院内保育の施設があるものの、年齢制限があり、民間保育所をたよるしかない」との実情が報告され、子供を抱えて勤務する女性医師の働く環境が整えられていない現状がわかりました。 

 一方、病院側からは「看護師も含めて定員数や、年齢に関して、今後検討していきたい」という前向きな意見をいただきました。また、実際に勤務している医師からは、「すべての女性医師が同じ状況の仕事環境でないため、それぞれの職場環境を統一するのが難しいことや、子育て中の女性医師は三人で一人分の働きしかない」という考えをお持ちの医師もいるとの事で、「女性医師を支援するためには、その分の医師の数が必要になること、また、独身や子供のいない女性医師への負担が多くなる等、勤務している職場での医師同士の反目もあるのでは」などの意見も出されました。病院側からは北海道医師会に対して、「周囲の理解についての実態を調査し、改善策を講じてほしい」との要望も出され、短時間でしたが大変内容のある会議となりました。

 大学を卒業後に都会を志向する医師の多い現実の中で、向後 地方で働く勤務医の数は年々減少してくるでしょうし、その上、地域での専門科の集約化も行われてきておりますので、女性医師単独で研修の為に赴任する場合は問題ないと思いますが、結婚をして子供さんを連れてご主人とともに赴任してくる場合には出身大学が違えばなかなかその中に入って勤務し、ましてやフレックスタイムで働くことは大変難しいといわざるを得ません。その現実を直視して医師会も病院も双方が協力しながらこの問題を改善していく必要があると考えさせられました。


 
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日鋼記念病院
[平成27年7月17日(金)]
  コーディネーター 濱松 千秋


 柳谷院長、榎並副院長、横山消化器センター長、兼古科長と24歳から27歳の10名の研修医が参加し、伊藤常任理事の司会で意見交換を行った。

 研修医10名の内、既婚は25歳の男性研修医1名で、他は未婚だった。希望する科目は、整形外科、乳腺外科、北大の第一外科、産婦人科、小児外科と5名が外科系志望、他は、小児科、消化器内科、循環器科、内科と5名がメジャー科志望だった。親が医師の研修医は4名だった。また、現在の研修については、特に忙しいと感じる研修医は居なかった。

 仕事と子育ての両立については、親や祖父母が医師で仕事と子育てを両立しているのを見ていると述べた研修医は2名だった。

 勤務医の仕事環境について、榎並副院長は自分が研修医だった時は5年目くらいで月に1、2回週末に休みがとれたと話された。横山センター長は、若い医師には結婚等でキャリアを中断させないようにしてほしいとの意見があった。これに対し、深澤副会長から、最近は医師の比率で女性医師が増えているため、勤務医の仕事環境について、病院の対応が重要であると発言があった。

 日鋼記念病院の研修医は全て20歳代で、研修医10名中既婚は1名の状態で、研修のスキルアップが第一優先と感じているように見受けた。また、30歳代の女性医師が在職との事だったが今回は面会出来なかったが、30歳代の医師が結婚・子育てで最も関与する年代と思われ、可能であれば、30歳から40歳代の医師との面会の機会を設ける必要が大事なのではないかと感じた病院訪問であった。

 

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釧路孝仁会記念病院
[平成27年7月22日(水)]
  コーディネーター 足立 柳理


 釧路孝仁会記念病院からは斉藤孝次理事長、斉藤礼衣部長、山本不整脈診療部長、吉山、小川各研修医、北海道医師会からは長瀬会長、伊藤常任理事、私、足立が出席致しました。

 伊藤常任理事の司会進行で開会され、長瀬会長から、「現場の女性医師の生の声を聴き、医師会事業の今後の参考にさせていただきたいので忌憚のない意見をきかせていただきたい」との挨拶がありました。
   
 斉藤理事長からは、「北海道医師会では日頃から女性医師の新しい環境づくりのため大変力をいれておられ、当院にも女性医師がおり、よりよい環境づくりのために毎日施行錯誤をしているが、今後のために環境づくり等の取り組みを伺いたい」との挨拶がありました。簡単な自己紹介の後、意見交換を行いました。この病院では齋藤礼衣先生、山本先生ともに産前産後のお休みが明けた後もすぐに職場復帰をはたされており、子供さんの預かりや病児の際の病院の対応はどのようにしているのか私も大変興味がありました。よくよくお話しをお聞きすると孝仁会には24時間体制の託児所があり、看護師のみならず、医師の児童も引き受けていること、また、かなり保育料が安くて経済的にも恵まれており、看護師は女性も男性看護師も託児所の利用が許可されており、病児であっても対応してくれること、そして緊急の預かりにおいても食事を出してくれるサービスがきちんとしている事など、大変進んだ職場環境の整備ができている事が分かりました。この託児所は、いままでいろいろな研修指定病院を訪問しましたが、こんなに条件が整備さ れている託児所はないと思いました。特にこの保育所は道とも契約しており、釧路管内の病児対応もしてくれる契約をしています。このような環境での勤務は大変恵まれていると感じました。また、二人の研修医の先生にはやはり、結婚問題も気になるようでありました。女性医師は出会いの場が限られているため、なかなか結婚ができないという意見もあり、日本の中で、婚活事業をしている医師会があるという話もありました。

 地方都市に研修医や女性医師をつなぎとめるためには、環境の整備はもちろんですが、その病院の特色や魅力をアピールすることの重要性を痛感しました。今回で釧路市における臨床研修指定病院の訪問はすべて終了しました。各病院ともに医局からの人事でかなりの数の医師が減少し、総合病院でありながら、常勤医で全科を賄うことができず、診療科の欠如や出張医で補なわなければならない現実が ありました。女性医師という問題以前に、男性医師もかなり疲弊している状態で、これから、新しい専門医制度に変わるといいますが、これでは、地方都市で専門医制度のための研修もできないのではないかと危惧します。地方都市の現実を訴えなければ、一段と地方の医療過疎がすすむのではないかと思う訪問でありました。


→(その2)につづく

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