活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

第12回男女共同参画フォーラム

ホテル東日本宇都宮[平成28年7月30日(土)13時]

常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂



 第12回男女共同参画フォーラムが、去る7月30日(土)に栃木県医師会の担当により開催された。北海道からは、小職と札幌市医師会、小樽市医師会、旭川市医師会および北海道東京事務所行政課から合計8名が出席した。



 今年のメインテーマは「男女共同参画が医療界にもたらすメリットとそのエビデンス」とし、横倉義武日医会長、太田栃木県医師会長、福田栃木県知事の挨拶の後、前田新造株式会社資生堂相談役による、基調講演「輝き続ける組織をつくる〜資生堂の男女共同参画への取り組み〜」が行われた。



 資生堂は、1872年日本初の洋風調剤薬局として銀座で創業した。社名は、中国の古典「易経」の一節に由来する。

 魅力ある人で組織を埋め尽くすことを社長任期中のビジョンとして掲げ、女性活躍のステージを「子どもができたら多くは退職(第1ステージ)」から「女性は育児をしながら仕事を継続(第2ステージ)」とし、両立のために社内制度やインフラを整備・充実させ、従業継続のため育児休暇などをいち早く導入した。

 その結果、出産退職者は減ったが、20代後半から30代前半のキャリア形成に重要な時期の育児時間取得者のキャリアアップが課題となった。第3ステージは「男女ともにしっかりキャリアアップ:一人ひとりの能力向上、キャリア意識の醸成」とし、目指すべきは「男女ともに子育て・介護などをしながら、キャリアアップと会社への貢献」に改め、「働きやすい会社」から「働きがいのある会社」へと進化し、育児を聖域にしない改革を始めた。基本は、自助努力。制度は自力で解決できないときに頼るものと考え、育児時間取得者へは個別に配慮・対応し、短時間勤務の時間は管理職が決める。女性が働きやすい会社であるはずの資生堂が、育児中の女性社員にも平等なシフトやノルマを与える方針転換を打ち出したことは、「資生堂ショック」とも呼ばれたが、第2ステージから第3ステージにおける期待効果は大きく、会社の制度だけに頼ることなく、ワークとライフを自律的にプロミングして両立期を乗り越えようと努力している社員を、周囲の社員は激励し可能な限り配慮し、働く仲間として互いに信頼を寄せあい良い職場環境が保たれている。


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 シンポジウムでは、「21世紀の男女平等とは何か〜社会における男女の互恵関係を築くために〜」をテーマに、4名のシンポジストからそれぞれの立場で話題提供があった。


シンポジウム

(1)国立大学における男女共同参画の取り組み
宇都宮大学理事・副学長 藤井 佐知子

 平成23年4月に「男女共同参画宣言」を公表し、「女性教員を増加させるためのアクションプラン」を策定、女性教員比率目標を18%と設定した宇都宮大学の取り組みについて報告があり、女性研究者支援事業を実施し、組織的な「女性活躍」意識の醸成は困難であることが分かった。多様な人材の育成は、知的創造の拠点である大学こそが男女共同参画の先導役を果たしていきたいと話があった。



(2)男性中心型労働慣行の見直しについて
武蔵大学社会学部社会学科助教 田中 俊之

 イクメンが流行語になり、家庭内において父親は経済的な大黒柱としての役割を果たすだけでは十分ではなく、家事・育児に参加をするのが当たり前の風潮にあるが、週60時間も働いている男性が30代で17%にも達している現状を放置したまま、父親に家事・育児への参加を促すのは明らかに無理がある。多くの人が父親を含めた家族について個人的な経験を一般化して「どうあるべきか」で語り「どうあるのか」を捉え損ねてしまっているが、個人の印象や感情に左右されずに、すべての職業において男性中心型雇用慣行を見直し、共働き時代における父親の役割を考えたいと話があった。



(3)女性が自分らしい人生を歩むために〜卵子凍結保存という選択肢について〜
順天堂大学産婦人科学講座協力研究員 香川 則子

 卵子凍結保存が、病気治療による不妊への対策に限らず、卵子老化による高齢不妊を見越した観点から、若いときの卵子を保存しておく選択肢として紹介があった。生殖年齢にある若い世代が妊娠に向け時間がとれない環境、いわゆる社会性不妊が増えており、卵子が元気な若いうちに出産に踏み切れる女性は少なく、社会人としてキャリアを重ねると、年齢とともに妊娠率は急激に低下し、流産率は上昇している現状で、希望した時に元気な赤ちゃんを産めるよう、卵子老化による妊娠の妊孕性のために浸透しつつあると話があった。


4)日本海総合病院における女性医師就業支援策と今後の話題
地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構 理事長 栗谷 義樹

 医師数は146名でうち女性医師23名(15.8%)が在籍している急性期を担う日本海総合病院と回復期リハビリ・医療療養を担う坂田医療センターの二つの病院での女性医師支援策を紹介し、現状として支援策が散発的で、実績に結び付いていないと報告があった。女性医師のワークライフバランスに配慮する場合、医療人材の少ない地方で十分に運用することは現実には困難であり、女性医師の抱える問題は、病院勤務医の抱える問題と重複しており、医師不足に悩む地方では医療提供体制づくりと結びついて、地域医療構想の中で、自治体病院改革ガイドライン、地域包括ケアなどの政策実現と女性医師支援を総体的に考えていくべきであると話があった。


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 続いて、総合討論ではフロアからシンポジストに対しての質問・意見があり、その後、「第12回男女共同参画フォーラム宣言」を採択し、次期担当県の愛知県医師会棚木会長より挨拶があり、盛会裡に終了した。
参加者は、361名であった。


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 今回のシンポジウムの構成は、フォーラムの趣旨を考えれば違和感もあったが、現実問題として生殖領域に押し寄せる社会現象の一つが卵子凍結であり、フォーラム参加者の妊活に対する理念を喚起することになったのは間違いない。

 3席目の演者を務めた胚培養士が行う卵子凍結の利用者の8割が健康な女性という。そもそも白血病など血液疾患の化学療法などで卵巣機能が廃絶する前に卵子凍結を行い、治療後に精子と培養し受精卵(胚)を子宮内に移植する手法として開始したのが、まだ妊娠したくない健康女性を対象にしているのが現状である。

 最近大手メディアから卵子凍結に関するアンケート依頼が当院にきた。よくも悪くも社会問題になっていることがわかる。生殖医療の目覚ましい技術革新に倫理面での検討が追いついていないのが現状だ。

 妊娠には年齢という壁がある事実を知り、妊娠を希望する若い世代がキャリアを積みつつ妊娠・出産・育児が可能な社会を作るという、当たり前な、しかし難しい具体的支援が緊急課題であることを改めて考えさせられた。


 


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