大学医学部・医学会女性医師支援担当者連絡会
大学医学部・医学会女性医師支援担当者連絡会
―よりよい男女共同参画を目指して―
常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂
標記連絡会が去る12月2日(金)日医女性医師支援センターの主催で、日医における女性医師支援・男女共同参画に関する取り組みの周知と各大学医学部と各医学会の取り組みについての情報交換を目的に、大学ならびに各医学会の関係者、各都道府県医師会の担当役職員等249名の参加で開催された。
北海道からは、小職と北海道大学病院女性医師等就労支援室清水薫子特任助教、札幌医科大学女性医師等就労支援委員会寺本瑞絵副委員長、旭川医科大学からは菅野恭子二輪草センター助教が出席した。
横倉会長ならびに・高久日本医学会長からの挨拶があり、その後議事に入った。
最初に、日本医師会今村常任理事から日医の女性医師支援事業のアウトラインの紹介があり、引き続き、各大学等の取組みの事例発表があった。
「北海道大学病院女性医師等就労支援室における男女共同参画事業」
北海道大学病院女性医師等就労支援室 特任助教 清水 薫子先生
北大病院女性医師等就労支援室で行ったアンケート結果から、病児保育の必要性と次世代のワークライフバランスについて報告があった。
医師に対するアンケート調査では、子の病気による欠勤日数が、男性医師の10%が1日以上、女性医師の半数が3日以上の結果であり、子の病気の際には女性医師の勤務中断が多い。北大病院に設置されている「病後児保育室ぶらん」の利用実績は年々増加しており、ぶらん登録者に対しアンケート調査を行ったところ、子の病気による欠勤日数は、病後児保育があるとマイナス0.6日、病児保育があるとさらにマイナス1.5日との結果であった。
一方、本年6月から北大医学部2年生に対してワークライフバランスに係る授業を開始した。授業の中でアンケートを行ったところ、男性の28%が「将来育休をとるつもり」で、男女とも60%以上が将来結婚・育児に前向きに考えているとの結果であった。次世代は、男性も育児休暇を希望し、男女ともに仕事と家庭のバランスを重視する傾向にあることが分かった。今後は、全職員の勤務体系の改革が必要であり、一方、ワークライフバランスを取りながら、地域偏在や専門分野の偏在により医師不足であるなかで、社会に対する医師の責任をどのように果たすかが重要であると考えている。
「公立大学法人和歌山県立医科大学医学部における女性医療者・医師研修者支援の取組み〜和歌山県医師会、県医務課との協働体制〜」
和歌山県立医科大学地域・国際貢献推進本部
地域医療支援センター医学部公衆衛生学講座 併任講師 北野尚美先生
和歌山県立医科大学医学部における卒前の取り組みと、県医師会と協働した女性医師支援ならびに若手研究者支援について報告があった。
卒前の取り組みとして、男女共同参画、ワークライフバランス教育を正課授業として位置づけている。
若手に対する研究遂行・継続のための資金確保支援は、40歳未満の若手への支援と中間年齢層、職位への支援策に力を入れており、40歳前後の女性医師が学内助教から助教へと昇進するころの子ども就学支援が課題である。助教から講師へ、講師、准教授の共同研究・国際研究に焦点を当てた研究助成に力を入れており、医学研究者・大学教員である女性医師のニーズと支援、女性医師のライフイベントと臨床能力開発・維持・向上、地域の保健医療計画と地域枠で入学した女性医師支援が今後の課題であり、県医師会と協力して取り組んでいる。
「産婦人科女性医師の現状とその支援」
日本産科婦人科学会男女共同参画・ワークライフバランス委員会委員
日本医科大学多摩永山病院副院長 女性診療科・産科部長 中井 章人先生
男性と女性の比率が急激に変わる産婦人科医師の現状について報告があった。
50歳以下の会員比率は女性50%であり、女性医師支援は、単に院内保育所を作るなどの就労継続ではなく、全体の仕事量の軽減を図り一人でも多くの指導的立場の女性医師を育てることが到達目標である。分娩施設の常勤医師の内訳は、2015年は女性医師40%、そのうち20%は妊娠育児中であり、病院勤務医師の中で増加したのは、妊娠・育児中の女性医師のみである。子育て中の勤務緩和実施率は90%で、当直すら緩和されていない施設が22%ある一方、分娩取扱い免除などの行き過ぎた緩和は、キャリア形成に影響があると考えられる。
また、増加する女性医師の常勤先のないフリー医師を今後どう活用するかが課題であり、30代で離職する女性医師への対策も重要である。「男は狩りに出て、女は家を守る」の世界共通の伝統的な家庭の形態は変わり始めている。お互いに仕事を持ち、家事を共有することが夫婦の円満に必須であり社会に求められている。つまり、家庭での男女共同参画が求められているのである。
「日本耳鼻咽喉科学会における男女共同参画への取り組み」
日本耳鼻咽喉科学会男女共同参画委員会
委員長・昭和大学医学部耳鼻咽喉科学講座 教授・診療科長 小林 一女先生
日本耳鼻咽喉科学会調査委員会のアンケート結果の報告があった。
女性医師数は2015年には20.5%となり、大学新規入会者の40%は女性である。日本耳鼻咽喉科学会と関連する各学会における女性医師の割合は、17.9%であるが、役員に占める割合は4%程度で、学術講演会における託児所の設置は41.2%であった。研修基幹施設に対して復職支援について調査を行ったところ、受入れ可能な施設は68%、復職支援専門部門は49%の施設にあり、研修中は専攻医とする施設が一番多い結果であった。耳鼻咽喉科は男性が減ってきており、全体の医師を増やすことが重要であると考えている。
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当日参加された先生から、感想をお寄せいただいたので以下に掲載する。
北海道大学女性医師等就労支援室 清水 薫子
全国の名だたる施設と多くの学会の男女共同参画における責任者の先生方が集われるこの会は一年を振り返り、成しえた点、実現に取り組み段階の点、そして自分たちだけでは気づけない点を勉強させていただく貴重な機会です。今回も和歌山県立医科大学、日本産婦人科学会、日本耳鼻咽喉科学会からの示唆に富むお話を拝聴し、そのような場で北海道大学病院の取り組みとして発表を機会まで頂戴し、心より感謝申し上げます。
医育大学・学科の特徴を踏まえた各施設の取り組みを拝見し、自分たちの大学病院ならびに北海道の男女共同参画のあり方を改めて考えなければと思った次第です。
昨年度見学に伺った、福島県立医大、東京大学病院の病児保育施設、旭川医科大学のワークライフバランスの授業から学び、病児保育施設の検討・ワークライフバランスの授業の導入を開始しております。すべてお忙しい中、訪問・見学を快くご承諾いただきました先生方のおかげと思っております。またこの会をきっかけに全国の先生方とつながりを持たせていただけることも意義深いことと感謝申し上げます。今後はさらにさまざまな機構と連携を図らせていただき、北海道医師会・北海道女性医師の会・可能であれば学会の北海道支部との協力にてより効果的な取り組みに微力ではございますがかかわらせていただけますと幸いです。
大学によっては入学者の女子の割合が60%に上る現状、また我々の医学部2年生のアンケート調査で示されたワークライフバランス重視型へのシフトを踏まえながら、医療人育成ならびに一部の集団における負担が募らないシステムの構築を様々な立場で検討していかなければならないと再認識しております。わが国全体で検討すべき点、ならびに広い北海道特有の問題点に皆で気づき、解決策を考え、それを施行し、再考し続け、国民に適切な医療が提供されるよう医療にかかわるすべての方々のお力を束ねる機構としての働きを医師会に期待し、我々も少しでも貢献できますよう努力いたします。
引き続きご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
札幌医科大学女性医師等就労支援委員会 寺本 瑞絵
昨年に引き続き、本年度も大学医学部・医学会女性医師支援担当者連絡会に参加させていただきました。昨年度は、当科に産休・育休中の女性医師が8名いる現状をどうすればよいのか悩む日々でしたので、旭川医科大学の山本明美先生の御発表など目からウロコの内容に、非常に興奮いたしました。本当に体や心にしみわたる内容で、飢え渇きをいやすように水をがぶがぶ飲むように聴講させていただきました。それに対し今年度は、各大学や学会の取り組みを、どのように自分たちが活かせばよいのかを考えながら、ゆっくりと落ち着いてかみしめるように聴講できたと思います。自身が産婦人科ということもあり、産婦人科の取り組みが身近なものであったこと、すぐに取り組めそうな報告が多かったこと、また、質問からも皆同じように悩んでいることを共有できたからだと思います。後日、院内にて大学医学部・医学会女性医師支援担当者連絡会の内容を発表する機会を与えていただいたことにより、実際に聴講するだけでなく、自分なりにまとめ発表することにより改めて各取り組みを反芻しより深く理解できたのではないかと感じております。
本年度は、各都道府県及び関連学会から250名が参加されました。先ずは日本医師会の女性医師支援に関する取り組みについて、日本医師会常任理事の今村定臣先生がお話をされました。女性医師バンクは、専任コーディネーターを医師から非医師へ変更した新体制をとり、就業実績が487件に伸びております。医師への負担を減ずるためにも、各自治体も導入するとよいのではないかと思われました。
次に事例発表、大学の取り組みとして、北海道大学の清水薫子先生が病児保育の必要性と医学部2年生のアンケートから見たワークライフバランスについて発表されました。学生へのアンケート結果が非常に興味深く、この結果がワークライフバランスの授業とともにどのように変わるのか、医学部6年生や研修医など、時系列を追って見てみたいと思いました。男女参画が遅れている北海道において、意外とも感じられる結果でしたので、当大学でもぜひ行ってみたいアンケートであると思いました。
その後、和歌山県立医科大学の北野尚美先生が発表されました。女性医師支援を県と協働し、医療者、研究者、地域に貢献するものの3つの視点から支援をしているところが非常に興味深いご発表でした。単に医師として働くことを支援するのではなく、研究者として、また地域性を考慮した支援を行っていること、医師のみならず、より良いシステムやロールモデルを看護師など他職種に目を広げているところも共感できるものだと思いました。自分自身どうして看護師の離職は声高く行われない(ように感ずる)のに、医師は結婚・出産で離れてしまうのか疑問に思うことも多く、また夜勤中の保育やキャリア支援について実際に看護師と話し合いを行っております。同じような考えをもつ和歌山県の取り組みは非常に面白く感じました。
続いて学会の取り組みとして、日本産科婦人科学会から中井章人先生がご発表されました。いつものように、軽快でわかりやすく鋭く面白い発表でした。手前味噌にはなりますが、産科婦人科学会は女性医師が増加しており、男女参画についてはやはり一歩進んでいるなと感じられました。産科婦人科学会は、女性医師支援はとても大切だと思っておりますが、それは単なる女性医師の復職支援を意味してはいません。その女性医師に働くモチベーションを与え、個々人の状況に合わせて一歩ずつ進むための支援をすることが女性医師支援だと思っております。中井先生は、女性医師支援の到達目標は就労支援ではなく、一人でも多くの指導的立場の女性医師を育てることであると明言されました。フリーの女性医師を増加させるだけではダメであると、そして究極は男女参画を行うのは、先ずは家庭内から!と話されておりました。まるで、マザーテレサの言葉(「世界平和のためにできることですか?家に帰って家族を愛してあげてください。」)みたいだと思って聞いておりました。これができる人がイクボスなのだろうと思います。最後に、耳鼻咽喉科学会の小林一女先生が、データを元に耳鼻咽喉科学会の取り組みについて発表がございました。
意見交換では、みなさん不安に感じている、新専門医制度が導入された暁には、どのように変化するのかについて複数の質問がありました。また、女性医師支援やワークライフバランスを推奨することにより、仕事をしなくても良いという風潮が生まれてしまっているように感じられる等の意見や、夫婦の勤務先が異なるときの対応についての質問が出ました。その他、外科系の科の先生からは、手術から離れさせないためにどうするかの質問があり、私は昨年の山本先生の縄のスライド(「縄は細くなっても太くすることはできるが、切れてしまえば、新たにつなぐことは難しい。」)を思い出しました。また、縄は細くなっても切れても、平坦な陸地であれば新しく結うこともできますが、海上や空中では、切れてしまうとつなぐことが難しく、海上や空中での仕事が多い科では切れるときにいったん着陸をさせておくとか、海から上げておくという環境整備の下、縄をどうにか太くすることが必要なのだろうと、つらつらと考えながら聞いておりました。
当大学には、女性医師等就労支援委員会がございます。病後児保育体制を整え復職支援も行っておりますが、まだまだ、取り組みは不十分だと思われます。日本全体を見ると男女参画は、今や女性医師の復職支援のみならず、男女ともにいかにモチベーションをもちつつ、ワークもライフも充実するかを考える時期に移行の時期に来たように思われます。当大学としてもこのような会議参加や、院内および道との話し合いを続け、さらなる改善・取り組みを行っていきたいと思います。今年も大学医学部・医学会女性医師支援担当者連絡会に参加させていただき、改めて考える機会を与えていただきまして、ありがとうございました。
旭川医科大学二輪草センター 菅野 恭子
この度は平成28年度大学医学部・医学会女性医師支援担当者連絡会に参加させて頂きました。大学の女性医師支援の取り組みについて北海道大学と和歌山県立医科大学の取り組みの紹介がありました。
北海道大学では平成22年から病児保育を開始されていますが、平成28年度の利用実績が1.46人とのことでした。また、病児保育の必要性や病児保育の導入によって欠勤日数を減らせられるのではないかとの発表がありました。当センターでは平成21年から病後児保育、平成26年から病児保育を開始していますが、現時点で0.3人/日と、ここ最近の利用数が伸びていません。職員へのニーズアンケートでは、病児、病後時保育利用時の対応、手続きの簡略化を希望される意見がでました。当施設では利用する際、医師の診断書が必要でありそれがネックとなっているようです。
連絡会後の意見交換会で福島県立医科大学の男女共同参画支援室である小宮ひろみ先生とお話しする機会があり、福島県立医科大学では病児保育担当の小児科医がいて、利用前の診断から利用時に何かあった際の対応もしてくれているとのことでした。当センターでも多くの職員に利用して頂けるよう、何らか働きかけが必要であると考えました。和歌山県立医科大学のご発表の中で、9年間和歌山で働く地域医療枠を設けているそうですが、卒後3年目には男性は入学時の半分に減っているのに対して女性は数が減っていないのが印象的でした。女性医師の場合、復職後のサポートシステムが整っていれば、母校に在籍しやすいことの表れなのかもしれません。学会の取組みとして日本産科婦人科学会からは産婦人科医は増加しているそうですが、病院勤務医師のなかで、増加したのは妊娠・育児中の女性医師のみという現状を知ることができました。当直翌日の勤務緩和も実施されておらず産婦人科医の過重労働が改善していないようです。日本耳鼻咽喉科学会からは学会の役員における女性医師の比率が10〜20%程度で意思決定の場に参画できている女性の割合は4%弱とのことでした。指定演者・座長に占める女性の比率も未だ少ないのが現状の様です。最後に女性のモチベーション、やる気、耳鼻科の楽しさを伝えることが大事とのことでしたが、これはどの科にも通じる事だと思いました。今回の会を通して学んだ他施設での工夫や取り組みを今後に生かしていければと思いました。この度はこのような機会を与えて頂き誠にありがとうございました。