活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

医学生・若手医師キャリアデザインセミナー

日本医師会共催:医学生、研修医等をサポートするための会

「医学生・研修医と語る会」

医学生・若手医師キャリアデザインセミナー


常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂


 北海道医師会では、医学生ならびに若手医師に、共に活動する場と地域医師会の先生方から学ぶ機会を提供し、医師会の活動を通して、将来北海道で活躍できるよう「北海道の地域医療を考える若手医師ワーキンググループ」を開催している。

 本年度の「医学生・研修医と語る会」は、2月26日(日)にワーキンググループが企画・検討したセミナーを北海道医師会館にて開催した。当日は、医学生、若手医師等34名の参加があり、若手医師ワーキンググループのメンバーである佐藤峰嘉先生(砂川市立病院)が司会進行を務め、話題提供の後ワールドカフェ形式のワークショップを行った。


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話題提供1

「医師のキャリアって何だろう?医師にはどんな働き方がありますか?」
北海道大学病院女性医師等就労支援室/内科�T(第一内科)特任助教 清水 薫子先生

 北海道大学病院女性医師等支援事業は、平成29年度から男女共同参画推進室に名称変更の予定である。

 北海道大学医学部では2年と4年生を対象とした医学概論の講義において、平成28年度からワーク・ライフ・バランス教育を開始した。2年生を対象に事前アンケートを実施したところ、男子学生の18%がキャリア志向であり、同程度の17%が育児重視のライフスタイルを望む結果であった。これからの世代は男女とも育児参加への意識をもっており、その希望に沿った職場づくりを目指す必要がある。

 女性医師にはライフイベントによりキャリアが中断して労働力が低下してしまう世代が存在するが、その部分だけを重点的にケアするのではなく、男性を含めた社会的サポート体制の構築が求められている。ライフイベントにおいてさまざまな選択肢があり、医師として責任を果たし仕事が継続できる支援体制を学生時代から学ぶことが大切である。


話題提供2 現役医師からのキャリア紹介

1)「医師のキャリアと研究」
北海道大学病院核医学診療科 渡邊 史郎先生

 放射線科は、画像診断により多くの患者の治療方針決定に関わることが可能であり、また、患者の治療にも携われる。勤務は、日中に注射・読影を行い、外来・病棟勤務の他にリサーチカンファレンス等の勉強会が積極的に開催されている。

 核医学という言葉が先行し研究に苦手意識を持たれることが多いが、基礎から臨床まで幅広く、内容も症例報告や介入研究、多施設共同研究等さまざまな分野において、教授や先輩から指導を受けながら進めていくので、学生が考えているより負担が少ない。核医学分野の研究は、症例について観察力、現在の知見の検索力、論文内容の吟味能力が身につき、その結果を臨床にフィードバックできるため、医療に貢献しているという達成感がある。

 キャリア形成には、研究や学会が大きな位置を占めることもあるため、診療科を決める際には自分が興味を持てる分野を考え志望することが重要である。


2)「Unbalanced balance‐be flexible like water」
手稲渓仁会病院 臨床研修部教育担当責任者 Shadia Constantine 先生

 パナマ出身で、レジデンシートレーニングを受けるために渡米したが、医師としてのプレッシャーに押しつぶされ2度の中断を経験した。しかしながら、理解と思いやりのある上司に恵まれ研修を修了し、チーフレジデントにも選ばれた。研修中に妊娠した際には重い鬱に陥り、特に第三子を身ごもっていた時は自殺を考えるほどまで追い詰められたが、この危機的状況を乗り越えたことで精神は安定し、現在は日本で医師として教育的な立場を担っている。

 本日は、医学生に3点伝えたい。1点目は、自分自身を知ることに時間を投資すること。2点目は、仕事をしている自分もライフの一部とし、ワーク・ライフ・バランスとは自分自身の精神状況や家族の問題、地域コミュニティとの関わりなど多くの要素が合わさったものであるということ。3点目は、キャリアのその時々で自分自身の価値観を見つけ、仕事は人生の一部分で、医師である以上にさまざまな役割を持っていることを知り、マルチタスクとモノタスクはそれぞれ必要なときに使い分けていく柔軟性が必要である。


3)「キャリアデザイン」
北海道大学病院先進急性期医療センター吉田 知由先生

 救急科は、よくドラマの題材として扱われるため学生の間では「カッコイイ」というイメージが先行してしまうが、医者同士の間では「辛い」、「労力の割に給与が安い」、「専門性がない」、「仕分け屋」と悪い評判がついて回り、他科からは評価されにくい。

 救急科は、高度の7つの専門性から成り立っており、すべての緊急度、重症度の患者に対応することができ、重症度の評価を正確に行うコンサルティング能力に長けている。日本では、救命救急と集中治療が一貫した対応が行われているのが特徴である。救命救急医は、休みなく働き続けているイメージを持たれがちだが、日本の救急科の多くは「シフト制」で管理されており、ワーク・ライフ・バランスが保たれている。自分自身の興味のある診療科を選択することが職場を決める際の指針となり、上司や同僚、給与や設備等の環境が整っていることは重要であるが、仕事だけではなくプライベートの充実や家庭のために仕事が犠牲になるようなことがないよう、ワーク・ライフ・バランスを保てるよう選ぶことが必要である。


ワークショップ
 砂川市立病院内科、日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA-JDN) 佐藤 峰嘉先生

 ワークショップは、4〜5人のグループで一つのトピックを話し合う「ワールドカフェ形式」で行った。この方式は、カフェのようなリラックスした雰囲気で、メンバーを変えながら対話を行い、ひとつの結論を求めるものではなく、参加者がテーマについて自由に意見を出し合い、お互いの思いや考えの背景について探求し、相互理解を深めることを目的としている。

 今回は、5つのグループに分かれて、参加者は主体的にテーマについて考え発言し、洞察を深めた。各グループでの話合いの内容は、ファシリテーター担当からご報告する。


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【ファシリテーター氏名】佐藤知世
【所属】札幌医科大学医学部4年
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】

 ワールドカフェでは、学生、現役医師、病院経営に携わる方など、様々な世代や立場の方が集まって、意見を交換しました。

 まず、学生からは医師として専門医の取得や、研究など様々な目標がある中、出産や育児のタイミングに悩むという意見がありました。そして、産婦人科など女性が増加している科では、女性が働きやすいシフト制などの環境が整ってきており、学生の進路選択の時に、働きやすさを配慮した科に男女問わず人が流れているといった意見もありました。

 また、地域の病院医師からは、ワーク・ライフ・バランスと、人手不足の病院運営のバランスが難しいという意見もありました。また、時短や産休を取っている女性とそうでない女性間での昇進の取り扱い等についても、現場では戸惑いがあるという意見もありました。

 最後に、今回は、さまざまな立場で医療に従事する方々で、現場の課題を共有するという意味でも、大変有意義な場になりました。昨今、ワーク・ライフ・バランスという言葉自体は、色々なところで耳にするようになりました。しかし、その中身は、様々な立場で医療に従事する人たちが、引き続き議論をしながらよりよい、そして持続的なシステムを創造する必要性を感じました。


【セミナー全体の感想】
 セミナーでは、北海道大学の女性就労支援の取り組みや、海外の女性医師からワーク・ライフ・バランスの実際についてお聞きしました。

 北海道大学では、女性就労支援が進んでおり、365日24時間保育や、病後児保育室などの制度が整っていました。他にも、育児短時間勤務医員制度もあり、この制度は処遇や給料のほか、時間外労働や宿日直業務がないことを明確に定めているため、周囲の理解や協力が得やすい環境があると感じました。また、先輩女性医師から仕事と子育ての両立について話を聞くランチセミナーも実施していました。

 またShadia Constantine先生のお話では、キャリアについて一つの選択肢のみで考えるのではなく、その場面ごとに柔軟にキャリア選択をしていく大切さや家族との協力の重要さも教えていただきました。 今回のセミナーに参加したことで、地域医療を支えていくためにも、女性医師が様々なライフステージで能力を発揮し続けることが大切だと感じました。そういった意味でも今回、先進的な女性医師のサポートの取り組みを紹介された上で、道内の様々な現場の意見が交換されたことは、非常に有意義でした。このような機会を頂き本当にありがとうございました。



【ファシリテーター氏名】阿部計大
【所属】東京大学大学院 公衆衛生学 博士課程、
日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA-JDN)
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】

 主に3つの話題が出ました。1つ目は医学生からの疑問で、「仕事と家庭の両立をしたいと思ったとき、現実的に臨床医はサポートを受けられているのか」というものです。それに対して医師からは、昔よりも保育園利用や育休が取りやすいサポート体制は整ってきているというお話がありました。専門科や病院によってはシフト制を用いたり、チームで患者を診るようにしているところも増えているようです。一方で、地域によっては人手不足で休みを確保しにくい現状もあるようです。また、様々なサポート制度が散在しているものの、それらの周知が図られていないのではないかという問題意識や、それによってその制度を使ったときの周囲への迷惑や周囲からの目線が気になるというお話も出ました。

 2つ目は産婦人科志望の医学生から問題提起がなされ、「産婦人科医師の性別による役割の違い」について話しました。産婦人科医の構成は年代によって性別が男性医師から女性医師へと移行してきています(図1)※1。これまで地方の分娩を支えてきた医師はその年代から男性が多く、今後は若い世代の女性医師もその役割を担うことになります。様々なライフイベントがある中で、女性医師が地方での昼夜の分娩を支えていくためにはサポートが必要であることはもちろんのこと、分娩取扱病院の規模の集約化も検討されています。

 最後の話題は病院経営者の立場からのお話で、「医師のオンオフを明確にする試み」について話しました。チーム制で患者を診るように工夫をされていたり、医師の家族のサポート(子どもの教育等)を試みられていますが、地方では医師の確保も難しく十分に機能しないこともあるようです。厚生労働省では「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」※2が行われていますし、持続可能な範囲で医師のライフイベントを見越した新たな医療の在り方や医師の働き方を模索する必要がありそうです。


【セミナー全体の感想】
 昨年と比較してさらに充実した時間を過ごせたと思います。3つの思い当たる理由があります。一つは、講師の先生方から医学生や若手医師にすぐに役立つような実体験を共有して頂いたことです。二つ目は、昨年に引き続きワールドカフェスタイルも2回目ということで、参加者の皆様が慣れてきたように感じました。三つ目は、グループワークを進めやすくする細かな配慮(模造紙やポストイット、マジックペンの使用等)を頂いたことです。おかげさまで参加者の年代を問わず、非常に話しやすい雰囲気を作ることができたと思います。次回はさらに多くの皆様にご参加頂けるようになればと思います。

参考文献
※1.日本産科婦人科学会. わが国の産婦人科医療再建のための緊急提言. 2016.
※2.厚生労働省. 新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会 中間的な議論の整理. 2016.


              図1 日本産科婦人科学会 性別年齢別会員数 2014年11月現在

 



【ファシリテーター氏名】渡邊史郎
【所属】北海道大学病院核医学診療科
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】

 同席された医学生から、どのように将来の診療科を決めたのでしょうか、という発言から、男女問わず、様々な世代、専門分野の意見が広く意見されていました。

 現在は、臨床研修医の2年間を経て自分の診療科に進んでいく制度になっていますが、昔は医学部を卒業すると同時に専門家となるため、自分のやりたいことが決まっているほうが珍しく、部活の先輩がいるからとか、上の先生に引っ張られて、という状況も多かったようです。そこから考えると、研修医として実際にそれぞれの科の”real”を感じられる機会が得られるため、そういう体験をしてから将来の科を選択する方がいいという意見が多くありました。結婚と同じで相手(志望科)をよく知ってから決めるべき、というお言葉もありました。

 また、専門の科を変更するということに対する意識として、昔はdrop outと揶揄されてしまうことが多かったようですが、最近では科を変更することも選択の自由としてpositiveに受け入れられており、一回決めた道を変更できるという点も、働き方を自分のlifestyleに合わせて柔軟に対応できるようになっており、働き方の多様性が認容されているという印象を受けました。

 専門医制度や留学といった内容の議論はあまり出てこなかった印象があります。医学生であり、将来の科を選択する時点では、その後の進路について考える余裕がないかもしれません。個々のlifestyleもその土地その時代で変わっていくため、医師として働く場や社会も場所や世代に応じて柔軟に対応できる基礎がもっと必要なのかもしれないと考えさせられました。


【セミナー全体の感想】
 医師の働き方が多様化しており、さまざまな科の特徴や国柄の違いを聞くだけでも新しい発見がありました。また、学生や若手、大学病院や総合病院のベテランの先生方など、年齢を超えて働き方がどのように変化しているかを共有できたことで、医師のあり方や働き方など、今だけでなく、これからを見据えた対策が考えられると感じ、このような機会が広がればよりよい医療を社会に提供できると思いました。



【ファシリテーター氏名】 三島千明
【所属】青葉アーバンクリニック(神奈川県横浜市)、日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA JDN )
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】

・働き方について、学生の側からはあまり医局や大学の先生方からじっくり聞くチャンスは少ない。医局や教室によって、医師の働き方について話をたくさんしてくれるところもあれば、そうでないところもあるので、聞きやすい雰囲気のところはとても助かる。実習に行くとやはり想像していたのと違う気づきがあるので、その時出会う先生たちとの交流はとても参考になる。(学生、研修医)

・大学の講義は一方通行になりがちで、学生に面白いと思ってもらえる、興味をもってもらえるような内容がまだまだ少ないのではないか。実臨床に役立つ内容や、双方向の交流ができるものなど、工夫が必要。(大学教員)
・医師の働き方や業務内容が科によってどのように違うかは見えづらいかもしれない。病棟や外来、遠隔ワークなどそれぞれの科での働き方をスコア化するなど、「見える化」をすると役に立つのではないか。(大学教員、若手医師)


【セミナー全体の感想】
 もともと北海道で専門医研修を行ったことがご縁で、前回から北海道医師会キャリアデザインセミナーに参加させて頂いています。前回同様にワールドカフェ形式で、医師としての先輩、若手医師、医学生と様々な世代同士がざっくばらんに意見交換できる場はとても貴重なもので、気づきが多かったです。時代とともに医師としての働き方もより多様になる中で、医師としての働き方ややりがい、を直接お話できる場は私たち若手医師にとってとても貴重な場と思います。キャリアを継続して考える場として、そして様々医師同士が交流し学びあう場として今後もぜひ多くの若手医師・医学生が参加できればと思いました。



【ファシリテーター氏名】 中川 麗
【所属】札幌徳洲会病院プライマリセンター(救急総合診療部)、北海道医師会勤務医部会若手医師専門委員会委員
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】

 テーマは大きく二つありました。�@職業としてのやりがいと学問的な興味のどちらを優先して進路を決めるべきか。�A家庭も持つことはできるのか。

 �@は、真剣に将来の科の選択を考え始めた医学生からの質問でした。こんな診療ができたらいいな。でも、あっちの臓器の病態生理に興味があるんだけどな。指導医の先生方は、「軸となるものを身につけ、あとは人生とタイミングに身を委ねてみてもいいのではないか」とアドバイスをしてくれました。特に、軸を育むべく、臨床にどっぷり浸かってみることが勧められました。臨床を通してこそ生まれる疑問もあり、それらを科学的に研究したり、cureをするために必死で頑張った先にcareをする方法を考えたりしてゆくのもいい。きっと、いいタイミングでいい道が開けて、興味も膨らむから大丈夫だ。という力強い言葉と、いろいろと人生のつらい経験を乗り越え、春から研修医になる学生さんの未来を真直ぐに見据えた眼差しが非常に印象的でした。�Aについても、�@のように、家庭か仕事かという二択に帰結してしまいそうな中、いいパートナーと出会えたら、両方大事にできるから大丈夫だ。と、様々なパートナー選択のポイントも伝授され、終始、明るい笑い声が絶えませんでした。仕事以外は、もてナイ、売れナイ、当てもナイな私も、こっそりメモをとらせて頂きました。


【セミナー全体の感想】
 北海道全体で学生や研修医を育てるぞ。という意気込みが感じられる会でした。また、海外から見る日本の研修の特徴についても伺う事ができて、参加した学生さん、研修医の先生方はよりいっそう多角的なアドバイスを受ける事ができたように感じます。特に、順調なキャリアとして高みを目指すためにどうしたらいいかという質問だけではなく、うまくいかない時、立ち止まった時にどうしたらいいかという質問も多く聞かれたのが印象的でした。そういった質問がしやすい温かな雰囲気に終始包まれていたことの現れかと思います。

 会を通して、次世代を担う彼らが、経験豊かな指導医達と不安を共有し、晴れやかな表情で帰って行く姿が見られた事は大きな収穫だったのではないかと思います。こういった冷静で情熱的な指導医と、不安でも未来に前向きな次世代が奏でるハーモニーは、きっと深みのある豊かな医療へ繋がると期待が膨らみます。
 

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