活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

医学生・若手医師キャリア支援検討会

医学生・若手医師キャリア支援検討会


常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂



 北海道医師会では、医学生・若手医師がキャリアの考え方を学び、世代を越えた交流を通じてネットワークを作り、医師として働き続けることに対する意識やそのために必要な環境整備など、将来の離職防止を目的とするキャリアデザインセミナーを開催している。

 今年度は、道内に在住する医学生・若手医師が集まり、セミナーの企画・運営を自らが行うため、意見交換を通じて課題を検討する検討会を6月18日(日)にラ・ジェント・ステイ札幌大通で開催した。当日は、医学生・若手医師など25名の参加があり、日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA-JDN)のメンバーと当会勤務医部会若手医師専門委員会委員も参加して、話題提供の後、ワールドカフェ形式のワークショップを行った。


                 ◇

話題提供

「医師の働き方改革」
       北海道医師会 常任理事 藤井 美穂


 最近、過重労働を主な原因として電通の女性社員が自殺したと報道されたが、同様に過重労働が起因となった医師の自殺が新潟県で発生した。報道によると、亡くなった医師の時間外勤務は最大で256時間となっており、過労死ラインを大幅に越えている。そのうち、全ての時間で実際に勤務をしていたのか、あるいは学習時間が含まれていたのかは不明確だが、医療界でも過重労働が話題となっている。

 日本医師会では「医師の働き方検討委員会」を立ち上げ、自分も委員として医師の働き方は一般の労働者と同じ枠組みで考えて良いのか、どのように患者と接するべきなのか、といった点を根本から改めて考えることを、委員会参画の目的としている。

 働き方改革を行う主な理由は、1)人口減少・少子高齢化、2)長時間労働が多い、3)マネイジメントと生産性向上、4)時代のニーズに合わせる、の4つがある。

 医師には一般労働者とは異なる「応召義務」があり、これは昭和23年に制定されたもので、医療費の支払いが困難な患者に対しても、求められた場合は医療を提供すべきである、という観点から設けられている。当時の経済的な背景を考慮して制定された応召義務が、現在の社会情勢とかけ離れていないかを考え直すことも話題に挙がっており、皆さんも一緒に考えてほしい。


 
ワークショップ・グループワーク」

    日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA-JDN)代表 三島 千明


 日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA-JDN)のメンバーとして、今回の会に参加させて頂きま した。JMA-JDNは全国の若手医師のネットワークを目指して日本医師会国際保健検討委員会で立ち上がりました。北海道内の若手医師もメンバーがおり、これまでもキャリアデザインセミナー等、北海道でのイベントに企画のご協力をさせて頂いております。私はもともと北海道で研修していたご縁があり、これまでもJMA-JDNとして、一緒に全体の企画の準備や、当日の司会をさせて頂きました。

 今回のワークショップの目的、北海道の医学生、若手医師の方々、地域医師会の先生方が交流しながら、若手の持つ課題や悩みを共有し、今後のイベントの企画の「テーマ」や「アイディア」について意見を出し合うことでした。

 若手の佐藤峰嘉先生と私が司会として、進行させて頂きました。全体のスケジュールは、グループに分かれ、参加者同士が自己紹介を行い、キャリアについての関心事や経験などを共有することから始まりました。その後、ワールドカフェ形式とし、グループを変えて様々な参加者とイベントの企画についてアイディアを出し合いました。

 形式として、これまでのセミナー開催の経験を活かし、場所は会議室ではなくカフェで行ったり、小グループに分かれて参加者の方々にファシリテーターをお願いしたり、と全員がなるべく積極的に、クリエイティブなマインドで参加できるような工夫を行いました。議論が盛り上がり、時間が足りなくなるほど白熱しました。全体を通してみますと、これまでで一番沢山参加者の方ご自身が発言し、いきいきとアイディアを話しておられたように感じております。

 特に、現場の医学生の皆様から、とても柔軟で鋭いアイディアが多数でて、視野の広さ、モチベーションの高さにとても驚き、大変勉強になりました。北海道医師会のご支援により、こういった若手が参加できる機会を継続して開催できること、またそこに参加する意欲の高い医学生・若手医師の方々が沢山いらっしゃることから、今年度の若手による活動の展開がとても楽しみです。

 すでに参加された方々で個人的なつながりや自発的な次回の企画についての意見交換が始まっています。今後も北海道の若手の方にとって、専門を超えて、医学生・若手医師が学びあい、様々な世代の先生方と交流するネットワークづくりを目指し、現場の先生方と一緒に、活動させて頂きたいと思っております。今回は貴重な機会、多大なサポートをくださった北海道医師会の皆様、誠にありがとうございました。

               ◇

【ファシリテーター】阿部 計大

【所属】東京大学大学院公衆衛生学博士課程、

日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA-JDN)


【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】
 本グループでは、「仕事と家庭の両立のために大切なこと」について検討しました。挙がった意見を仕事要因と家族要因、環境要因の3つに分けて列挙します。

<仕事要因>
1.自分が好きで、楽しく働ける専門科に従事すること。そして、達成感を得ること。
2.自分の目標とする医師像によって、仕事と家庭の比重が変わってくることを理解すること。
3.各専門科やセッティング(病院や診療所)による働き方の違いを理解すること。

<家族要因>
結婚後に共働きであることを前提とした意見が挙がりました。
1.配偶者と話し合って、互いに仕事に注力するタイミングと家庭に注力するタイミングを調整すること。
2.育児は男女でタイミングよく育休を取り、父母や親戚の援助を受けること。

<環境要因>
1.職場の育児例(産休や育休、保育施設の利用、その後の休職や復職について)を知ること。
2.職場が転々とするときは、勤務地を夫婦で合わせること。


【キャリアデザインセミナー アイデア、企画案】
 最も多く聴かれた要望は、各ライフステージにおける先輩方の率直な経験談を聴きたいというものでした。医学生からは「研修病院を選択した経験」や「研修病院の教育事情」について、臨床研修医からは「専門科を選択した経験」や「入局の経験」について先輩方から話を聴きたいという意見がありました。そして、参加者共通の要望として挙がったのは、結婚や育児といったライフイベントと医師のキャリアとの関係について、性差も考慮しながら検討したいというものでした。また、先輩方の「キャリアの失敗談」から学びたいという意見も挙がり、準備された経験談を聴くだけではなく、インタビュー形式で行うと良いのではないかという提案もありました。そして、札幌だけではなく各地域で開催することも検討されました。


検討会全体の感想】
 「働き方」の問題は、資本主義社会の中で長きに渡って問題であり続けています。社会の中での医療を含む社会福祉の役割を考えるとき、医療現場での真の働き方改革とは何であるかと考えさせられます。難しいテーマでしたが、話しやすい雰囲気を作っていただいたおかげで率直な意見が聴かれました。今後もこの会が発展し、北海道の医学生や若手医師、そして諸先輩方との交流の場になっていって欲しいと思います。
 


【ファシリテーター】佐藤 峰嘉

【所属】王子総合病院呼吸器内科


【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】

 学生が主でしたので、進路や今後の働き方等について話し合いました。学生の今関心のある事項として多かったのは、近年地域枠で入学した学生の進路がどうなるのか、また地域枠の学生が増えることにより、非地域枠の学生が周辺から道外の情報を得られにくくなっているという実態に懸念があるという意見がありました。また、実習期間の延長等によって、マッチングにかけられる時間が短いという意見もありました。

 実際に働くにおいて、最近の研修医の自殺等を踏まえ、勤務実態はどうなっているのか、志望科をどうするのかということにも関心があるようでした。また、結婚、妊娠、出産等ライフイベントと仕事の両立ができるのかという意見もありました。

 加えて、僻地の医療資源に関しても言及があり、都市部では可能な治療も僻地ではできないことがあるという医療格差がある一方で、若手医師の研鑽において地域で働くということは必要なことであること、ライフステージによって僻地で働きやすい期間とそうでない期間があることや、今後は遠隔医療など実際に僻地に住み込む以外での貢献の在り方があるのではないかといった意見もありました。
参加者の主体が学生であり、学生生活の実態や進路選択に対して当事者の真の意見であったと感じました。


【キャリアデザインセミナー アイデア、企画案】
 企画案としては、実際に勤務している医師と話してみたいという意見がまず多くありました。また特定の話題としては、地域枠等特定の働き方をした医師や途中で専門科を変更した医師の実態、今後北海道でどのような医療が求められるのか医療政策に関しての話題、女性研究者、医療コンサルタント、臨床宗教師、家庭医、開業医の医業経営の話を聞いてみたいという意見がありました。


【検討会全体の感想】
 今回はカジュアルな雰囲気のなかで、医学生や若手医師の関心の高いことがどのようなことなのかを実感できる内容であったと感じました。今後のキャリアデザインセミナーの内容の充実を期待しています。



ファシリテーター】小山 裕基

【所属】旭川医科大学医学部3年


【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】
 私達のテーブルでは、まず学生からキャリアに関するさまざまな悩みが寄せられました。それに対して、医師の方々からご自身のキャリアを例に挙げて返答していただきました。その中で私たちが得た気づきとしては、医師の方々にもキャリアを歩む上で綿密に計画した方もいれば、その場の気持ちで柔軟に判断した方もいた、つまり「計画派」と「フィーリング派」がいたということでした。まずは自分がそのどちらなのかということを知った上で自分のキャリアを模索していくと良いのでは…?という先生からのアドバイスには、学生からの共感が多く集まりました。


【キャリアデザインセミナー アイデア、企画案】
 まず交流会・セミナーに対する学生からのニーズとしては、「いろんなキャリア(地域、海外を含む)について幅広く詳しく知りたい」という声が多く聞かれました。またその中で、私たちは単に個性的な人を集めるだけではなく、集団の中核を成す多くの医師の方々の普通の話も聴きたいという意見が出ました。つまり、個性あふれるキャリアの「多様性」と、多くの人が歩む「一般性」、両方のキャリアに触れられるセミナーにしたいと考えました。具体的には、小グループでのトークに加え、失敗経験特集やFacebookライブ/ニコ生のような双方向のコミュニケーション、キャリアに関するテーマ(例:女医の離婚を防ぐためには?)に沿ったアイデアソンなどが面白いのではないか、といった案が集まりました。


【検討会全体の感想】
今回の検討会は、若手医師の方々・学生共に多く集まり、ワークショップや交流が大変盛り上がっていた印象を受けました。おしゃれなレストランでリラックスした雰囲気だったのも、積極的に話すことにつながったのだと思います。今回のように多様なキャリアをお持ちの医師の方々に相談できる機会は学生からすると大変貴重であり、参加できて良かったと心から思いました。



【ファシリテーター】佐治 朝子

【所属】北海道家庭医療学センター

     北星ファミリークリニック


【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】
 地域医療や地元の医療に貢献したいがそもそも地域医療とは何なのかイメージがわかない、勉学の大変さが増すに従ってキャリアについて考える時間や選択肢が少なくなっている、多様なキャリアに触れたりキャリアについてディスカッションしたりする機会が少ない、仕事を頑張りたい一方で配偶者や子育てとの兼ね合いなどプライベートとどのようにバランスをとればいいのかわからない、との声が挙がっていました。 


【キャリアデザインセミナー アイデア、企画案】
 どんな方々にどんな話をききたいかといった問いに対し、幅広い科の医師の話が聴きたい、といった一般的なニーズ以外にも、その時代の制度を踏まえたうえでのキャリアの話、苦労話だけではなくやりがいの話、大学院や留学の話、研修医教育担当医師の話、などさまざまなバリエーションのニーズが挙がりました。こういった幅広いニーズを踏まえ、最終的には、特定のキャリアの講師を一人招いて皆で話を聴くより、多様な身近な存在の講師を招いてブース形式で自由に話を聴けるような機会がよいのでは、という案になりました。 


【検討会全体の感想】
キャリアの在り方が多様になっている一方で、その実情や情報は学生に届きにくく、期待と不安の幅も広がっていっているのではないかと感じました。そういった幅を楽しみに感じることができるよう、まずはこういった葛藤する学生の思いが広く認知されるようになってほしいと感じました。


※本支援検討会で話し合われたアイディア、企画案を基に、来る9月3日(日)に「医学生・若手医師キャリアデザインセミナー」を開催することとなりました。


記事一覧を見る

アーカイブ一覧

TOPに戻る