活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

医学生・若手医師キャリアデザインセミナー

医学生・若手医師キャリアデザインセミナー



常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂


 北海道医師会では、医学生・若手医師がキャリアの考え方を学び、医師として働き続けることに対する意識やそのために必要な環境整備など、将来の離職防止を目的とするキャリアデザインセミナーを開催しています。


 今年度は、医学生を中心にセミナーの企画・運営検討し、9月3日(日)13時30分から北海道医師会館にて開催しました。


 司会は、本セミナーを企画した「医学生・若手医師キャリア形成支援検討会」のメンバーである佐藤峰嘉先生(王子総合病院勤務)が務め、長瀬会長の挨拶、話題提供の後にグループワークを行いました。


1.話題提供
「働き方改革の背景とディセント・ワーク」
    日本医療大学看護学科教授 林 美枝子 先生


 日本における働き方のターニングポイントは、2016年12月から「ワーク・ライフ・バランス」の概念が登場したことである。

 近代家族の形は、教育という対象者である「子ども」、家事・育児・介護に専従する「主婦」、老後を過ごす「高齢者」を、労働者が扶養するという「3点+1点」が代表的である。


 OECDによる各国の女性の就業率調査(2013年)によると、日本は69.2%(世界24位)であり、男性の91.5%(世界2位)とは大きな差がある。またOECDは、日本における女性の就業率の引き上げが、高齢化社会における最優先課題であるとも述べている。


 日本では男女雇用機会均等法が改正され、女性の労働環境を整備する動きが見られたが、世界経済フォーラムが公表した世界男女格差指数(2016年10月)によると、日本のジェンダー・ギャップ順位は世界144か国中、総合順位は111位であり、主要7カ国中最低で、格差解消には170年が必要と警鐘を鳴らされている。


 今求められているのは、働く一人ひとりの人権を中心に、労働のあり方を見直すための概念である「ディセント・ワーク(まともな、適正な労働)」である。ディセント・ワークは、ILO(国際労働機関)において、1999年に21世紀の新たな目標として提案・支持されており、「権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会的保護が供与される生産的な仕事」と意味づけられているが、日本では「働きがいのある人間らしい仕事」として定義されている。


2.ワークショップ
   王子総合病院 呼吸器内科 佐藤 峰嘉


 セミナーの後半では、医師の働き方をテーマにグループワークを行い、医学生は今後働き始める立場として理想や懸念に思っていること、医師は実際に自分が働いてきて感じていることや経験を、また出産・子育て等のライフイベント等キャリアの上で想定される様々なことについて話し合い、多様な働き方が実現されるには自分にできることは何か、制度としてのサポートではどのようなことが必要かなどということを話し合いました。医学生は、普段医師と話し合う機会があまりないということで、様々な世代の医師から実際に話しを聞くこと自体が新鮮で、医師の労働環境がどのようなものであるか、またそのなかで具体的な課題はどんなことかについて自ら理解を深めることができたようでした。

 また、今後働く世代が今どのような懸念をもっているのかということを、より上の世代に伝えることができる貴重な世代間交流の機会ともなったようです。働き方やキャリアパスが多様になるなかで、自分に必要な研修はなにか主体的に考え選択していく必要があるという意見もありました。また、北海道という地域特性を踏まえた労働環境の問題についても言及があり、多面的な考察ができました。


各グループでの話合いの内容は、ファシリテーター担当からご報告します。


【ファシリテーター氏名】 草場英太
【所属】 札幌医科大学医学部5年
【グループワークで出た意見の紹介と感想】

1)働く環境について
 医学部生(以下、学生)の時期からキャリアについて考える機会が設けられるようになった背景として、現行の初期臨床研修制度により学生の選択肢が広がった状況があります。大多数が大学医局に入局、医局の人材育成ルートに乗れば専門性も学位も取得できた時代には、専門医をはじめとする資格の取得が一定の目標になる感覚自体がなかったと聞きました。このギャップを世代間で認識することが議論の出発点になると思います。


2)多様な働き方を実現するために
 自らキャリアを選ぶに際して学生が不安に思うことは以下の2つに代表されます。まず、ジェンダーの問題です。結婚を希望する女性医師にとって結婚・出産・育児はキャリア中断のリスクになります。他にも、女性であることによって医療現場で不利を被る場面があると聞きました。ジェンダー不平等の問題意識が希薄な現状が残っているのかもしれません。そして、新専門医制度により地方での勤務の継続が難しくなったのではという意見も出ました。意見交換をする十分な時間が確保できませんでしたが、どのような医療現場でも、1人あたりの業務上の負担が重くなり過ぎないようにする工夫が必要という意見には皆さん頷いていました。


【セミナー全体の感想】
 キャリアというのは実際に医師として働き始めないと語りにくい問題ですが、医学部生・若手医師のキャリアに関心を持っておられる医師とお話することができ、有意義なひと時でした。このような懇談会が定期的に開催されていくことが重要だと思います。


【ファシリテーター氏名】飯沼実香
【所属】旭川医科大学医学部3年
【グループワークで出た意見の紹介と感想】


1)働く環境について
 私たちのグループの学生全員が女性だったこともあり、学生の意見として結婚、子育てはしたいけれど専門医取得もしたいといった家庭とキャリアの両立に関しての意見が多く出て来ました。

 医師の方々の意見としては、実際に出産、育児を経験されたお二人共に出産されてから早めに現場に復帰されていました。その反面、同じ職場の女性医師の中では半数に近い方が出産や子育て後復帰出来ずにいるという現状をお聞きしました。


 2)多様な働き方を実現するために
 私たちのグループでは、第1部で出た様々なカテゴリーの意見の中で、最近取り上げられることが多くなっていますが、まだ解決とはいかない「出産・育児」に関して話し合うことにしました。

 時代の流れとして女性医師の数が増えたため、現場では女性医師の労働力が必要となってきたということでした。そのため、フルタイムで働けなくても出産や育児によって時短勤務をしている女性の労働力を+0.5の労働力として見る環境が整い始め、昔に比べたら出産や育児から復帰出来るようになった女性が増えて来たそうです。

 また復帰の対策として例えば指導医の資格を持っているなどの、その医師を確保し続けることで病院にとってもプラスになるような資格の取得など、女性医師側としても様々な対策が考えられるということでした。

 出産、育児に関して大分制度が整ってきていますが、例えば小学生の子供に対する対策などまだ表に出にくいけれど、問題となっている事柄もあるため、さらに制度の充実や環境を整えることが必要となってくると思います。

【セミナー全体の感想】
 私を含む学生としては、自分が日頃から不安に感じている実際に医師となった際の現実について、制度と経験の面から話していただき、自分のキャリア形成についてよりリアルに想像できたと感じています。

 私たちのグループには実際に出産、育児を経験されている先生がいらっしゃいましたが、学生が聞くと、大変そうな状況で出産、育児をされていました。しかし、それはキャリアも家庭も自分のやりたいことであって、学生が思っているほど不可能なこととしては捉えていないのかなということがお二人のお話をお聞きして感じたことです。

 私も将来やりたいことがたくさんあります。どれも諦めない工夫をして、段階的に目標を立て実際に達成できるようにしたいと思いました。今回のように、医師の方々と少人数で話す機会はとても貴重で楽しいものでした。次回も参加しさらに自分のキャリアに関して考えを深めていきたいと思います。
 


【ファシリテーター】水沼月子
【所属】旭川医科大学医学科3年
【グループワークで出た意見の紹介と感想】


1)働く環境について
 まず初めに、働く環境について「医師の残業」をトピックとし、話し合いが始まりました。働き方改革の意識がまだ浸透していなかった頃に研修医期間を過ごされた医師の方によると、「残業」という認識はほとんどなく、むしろ「労働時間外こそが自分のしたい勉強ができる時間」であり、医師として働くうえで夜遅くまで病院に残ることが当たり前という意識があったようです。そのため体調が悪くても休める雰囲気でないなど、働き方の柔軟性には欠けていたとお話しして下さいました。このことに対し、現在、後期研修医である医師の方の病院では、研修内容がシステマティックに管理されており、「残業の時間」がはっきりしているようです。そのため働き方の柔軟性についてはあるといえるが、その分労働時間外での過ごし方や、勉強の仕方に自律性が求められるとお話ししてくださいました。先生方の話を聞いて、世代による働き方の意識が全く異なることがとても印象的でした。


2)多様な働き方を実現するために
 グループの医学生の理想的な働き方として仕事と家庭(子育て・介護)を両立できる働き方があげられました。実際に両立されている医師の方がグループにいらっしゃったためとても議論が盛り上がりました。その中で多様な働き方を実現するために1.セミ主治医制2.専門性の尊重と協力、が挙げられました。

 1.セミ主治医制とは、主治医制としての良さである患者さんの心理的安心と、チーム医療の機動性の良さを組み合わせたものであり、実際に取り入れられている病院もあるようです。

 2.専門性の尊重とは、カウンセラーやケアマネージャーなど本来病院外で活躍する専門職を病院内の医療でも連携することで、患者さんにより良い医療を提供できるとともに医師の負担減に繋がり、多様な働き方を実現できるのではないかと考えられました。

 後半の話し合いでは病院によって異なる働き方への工夫を知ることができ、とても刺激を受けました。


【セミナー全体の感想】
 今回のセミナーでは医学生の他に、若手医師・医師の方々が多数参加して頂いた為、それぞれの立場から違った意見や考え方を知ることができ、とても勉強になりました。普段の大学生活では実際に医師の方とお話しする機会があまり無いため今回も参加して本当によかったと思います。

 また、林先生の「働き方改革の背景とディセント・ワーク」では、今まで知らなかった「働き方改革をしなければならない背景」を学ぶことができました。セミナー自体短い時間ではありましたがとても充実した時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
 


 【ファシリテーター氏名】小山 裕基
【所属】 旭川医科大学医学部3年
【グループワークで出た意見の紹介と感想】


1)働く環境について
 まず学生たちにどのような働き方をしたいかを聞いたところ、「勉強時間が欲しい」「自炊して生活リズムを保ちたい」など、自分にあったQOLレベルを選択したいとの意見が挙がりました。対して、医師の方々の現状には大きく分けて2種類あることが浮かび上がりました。1つめは、人が多いため融通が聞きやすく、QOLが保たれている職場。もう一方は、人が足りず長時間勤務を余儀なくされる職場です。しかし、この2種類の働き方には簡単に改善したり、良悪を評価したりするのが難しい面があるとの意見が上がりました。その理由としては、前者は都会に、後者は地方に多いなど解消が難航している医師の偏在が1つの原因となっていること、後者では忙しい分多くの経験を得られるなどプラス面もあることなどが指摘されました。
  
2)多様な働き方を実現するために
 現在の医療業界には、多様な働き方を拒む壁が多く存在するとの意見が出ました。まず、北海道では特に深刻な地域や診療科の偏在。または女性の産後復帰の壁。「QOL重視」の働き方は時短勤務等の体制が整いつつあっても、女性が復帰後「バリバリキャリア」を志向しても雇用してもらえないとの意見もありました。その上で「多様な働き方を実現するためには」という問いかけには、まずは多様な働き方を認めあい、その重要性を認識することが大事との意見にその場にいた皆が同意していました。これは、第一部の講演を受けてディセント・ワークの許容が医師のリソース不足改善に繋がりうることを認識した結果であり、本セミナーのような情報発信の重要性を裏付けるものであるように感じました。


【セミナー全体の感想】
 本セミナーは、学生や若手医師の方々が興味のあるテーマを話し合い、企画を自ら行いました。「働き方改革」が話題になっている昨今、将来の自分の働き方には色々と考えさせられます。今回のセミナーでは、働き方に関する知識や多くの先輩医師の方々の働き方に対する考えをインプットでき、また同じように悩む学生参加者と話すことができ、非常に有意義な時間を過ごすことができました。



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