第13回男女共同参画フォーラム
名古屋東急ホテル[平成29年7月22日(土)13時30分]
常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂
第13男女共同参画フォーラムが、去る7月22日(土)に愛知県医師会の担当により開催された。北海道からは、小職と藤根日医男女共同参画委員、札幌市医師会、小樽市医師会、旭川市医師会および北海道東京事務所行政課から合計7名が出席した。
今年のメインテーマは「今後10年の医療界で男女共同参画は何をめざすか」とし、横倉義武日医会長、柵木愛知県医師会長、大村愛知県知事の挨拶の後、松田晋哉産業医科大学公衆衛生学教授による、基調講演「医師の働き方を考える」が行われた。
平成29年3月に公表された「働き方改革実行計画」の中で、罰則付きの時間外労働の上限規制について医師は2年間猶予対象職種となった。背景には、病院医師の長時間労働問題がある。フランスでは、2010年12月に医師の労働時間に関する法律「労働法典」が施行され、1週間の労働時間の上限が48時間に設定された。その結果、当直後24時間は勤務ができなくなり、さらに団塊世代医師の大量退職もあり医師が不足し、また若手医師がより良い環境での勤務を希望することにより医師偏在の問題を助長させ、特定の地域・領域が過重労働となるなど医療現場が混乱した。フランスでは、保育料が保護者の所得による違いが日本のようになく、出産と育児を支援する制度が整っており、子育て支援が重要という認識が社会で広く共有されている。医師は専門職として専門性を活かして働くものであり、長い時間働くことが良いパフォーマンスになるものでもない。
これからの医師の働き方の基本的視点は、専門職として生涯にわたって自己研鑽ができる環境づくりと超高齢社会への対応、ワークライフバランスへの配慮である。そのためにタスクシェアリングやタスクシフティングなどのネットワーク型のサービス提供、フランスのように柔軟な働く時間の基準作りと一般的な行政課題としての子育て支援の充実、医師の長時間労働を助長する社会環境の改善が必要である。
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愛知県医師会では、妊娠出産というライフイベントに直面する女性医師にとって周囲、とくに上司の理解が非常に重要という視点から、今年、愛知県医師会イクボス大賞を制定した。表彰式では、宏潤会大同病院の吉川公章先生が大賞を、公立陶生病院小児科の加藤英子先生が特別賞をそれぞれ受賞した。
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シンポジウムでは、「これからの医療制度変革とそれに伴う医師の働き方の変化は」をテーマに、4名のシンポジストからそれぞれの立場で話題提供があった。
(1)新専門医制度の導入による働き方の変化
筑波大学総合診療科 教授 前野 哲博
新専門医制度導入のプロセスを振り返り、導入後の医師のワークライフバランスや男女共同参画の在り方について、個々のワークライフバランスに応じて、多様な選択肢の中から柔軟にキャリアを選べる環境の整備が重要と次のとおり話しがあった。
専門医の在り方に関する検討会では、これまで各学会が独自に運用していた制度を改め、国民の視点に立ち、育成される側のキャリア形成支援の視点も重視して議論が重ねられた。資格取得の研修の仕組みをプログラム制に限定せず、カリキュラム制を認める方針を明らかにしている。プログラム制では、研修開始時に登録して定められた内容を年次ごとに一定のプログラムに則して履修し、修了した時点で専門医の受験資格が得られるが、カリキュラム制は、研修開始時の登録は必要なく、特に研修期間を設けず症例経験数などの基準を充足した時点で専門医の受験資格が得られる制度である。アウトカム基盤型教育では、学習者中心教育の考え方を用い、大きな目標のそれぞれに到達度評価を適用する方法である。従来のカリキュラム教育では、知識や表面的なスキルは評価できても到達目標がばらばらであったが、カリキュラム全体のアウトカムを定め、より評価に重点を置いたアウトカム基盤型では、良い製品を作るためにはどんなものを作るかから考えるのと同様に、医学教育においても、それさえできれば何とかなるではなく、そのためには何が必要かから考え、サイエンスとしての医学以外のものも考えられるプロフェッショナルを養成するとしている。
(2)患者の立場から見た医師需給問題
認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML 理事長 山口 育子
1990年9月に活動をスタートした患者と医療者双方のコミュニケーション能力を高める活動に取り組んでいるCOMLから、医師の働き方の現状を一般市民に理解して考えてもらい、医療の不確実性と限界を伝えることも重要であると次のとおり話しがあった。
厚生労働省に設置された医療従事者の受給に関する検討会の議論に、患者の立場から加わってきた。中間とりまとめの供給量の推計において、30〜50代の男性医師を「1」としたとき、女性医師は出産・育児を経験する現状を鑑みて実態として「0.8」を推計として計上していた。女性医師の活躍は今後ますます期待でき、能力のある女性医師がライフイベントでマイナスにならない環境の中で、実力を積み上げていける対策が必要である。医師の働き方改革には、患者側にチームと主治医制、医療の現状と課題、医療機能の分化について、今は必要がなくても知っておいてほしい情報として基本的に理解してもらい、一人の医師にすべてを求めることは最終的に患者自身に良くないことを理解してもらうことが必要であるとした。
(3)これからの日本医療制度変革とそれに伴う医師の働き方の変化
社会医療法人宏潤会大同病院 理事長 吉川 公章
愛知県医師会イクボス大賞を受賞した社会医療法人宏潤会の女性への特別待遇ではなく、質の高い医療体制を構築するための共同参画としての子育て支援について次のとおり話しがあった。
名古屋市南部に位置する、404床の地域中核病院である大同病院は、地域の基幹病院として複数の地域包括ケアシステムをサポートする役割を担い、地域の医療や介護供給体制に対応して、法人の医療提供体制も過去10数年にわたり医療機能の充実に努めてきた。女性医師の割合が増加し、大きな存在感を持つに至っているが、女性医師が男性医師と肩を並べて生涯働く環境は整備されているとは言えなかった。法人の機会均等三大原則を、仕事をする人を支援する、女性と男性の業務の差はない、子育ては男女の仕事、として子育て支援に取り組んでいる。保育施設や託児所の完備、週4日常勤制度(週4日間でフルタイムに準じた処遇)により、子育てをしながら家庭と両立させ女性が医師を続けていくことのできる環境を整備している。その根底に杓子定規に制度を当てはめるのではなく、お互いの事情を認め合いながら、理解しあって協力していこうという姿勢や雰囲気があり、大同病院に優れた医師の集まる要因の一つとなって、職員数の増加につながっている。子育て支援は、女性への特別待遇ではなく、女性も男性も等しく仕事を継続できる質の高い医療体制を構築するための支援策であるとした。
(4)女性医師のキャリアデザイン〜「子育て支援制度」が医局を活性化する〜
公立陶生病院 小児科部長 加藤 英子
愛知県医師会イクボス大賞特別賞を受賞した名古屋大学附属病院小児科と関連病院での「子育て支援制度」について、導入までの取り組みと運用について次のとおり話しがあった。
第3子出産後も小児科医・新生児科医として当直、休日夜間の緊急呼び出しに応じながらキャリアを継続してきたが、このまま働き続けていても家族や後輩女性医師たちにとっても良くないと考えた。そこで、当時の小児科教授に働き方について相談をしたところ、教授からその悩みは小児科全体の悩みでもあるから、どうしたら子育て中の女性医師が仕事を続けられるか調査するよう使命を与えられた。これをチャンスと考え、子育て女性医師の働く環境改善を目指してワーキンググループを立ち上げ、平成20年4月に子育て中の女性医師を短時間勤務で雇用する「子育て支援制度」を開始した。制度のポイントは、名大小児科に入局し、制度終了後は関連施設で当直・当番ありの常勤に復帰する意思があることを利用条件とする限定した選択的支援としたことである。利用者は、医局長が行う全体の人事の数に含めない労働力のプラス枠として、運用は女性医師支援WG教官と副医局長が行い、トップ主導の男性医師が参加する制度とした。制度開始から本年3月までの利用者は17名おり、利用後に常勤に復帰している医師は10名である。医師に代わりはいるけれど母親はオンリーワンである。女性が男性と同じに働く雰囲気に合わせるのではなく、紆余曲折の固有のワークライフバランスをめざす。人を集めて離職を防ぎ、長く人材活用していくためには、女性のキャリア支援と同時に男性管理職の意識改革と長時間労働改革がポイントであるとした。
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続いて、総合討論ではフロアからシンポジストに対しての質問・意見があり、病院への労働基準監督署が行う是正勧告が最近増えていることについて、松田教授より多くの研修医は学びたいと考えている。研修医は「研修を受ける者」と「働く者」の二面性があり、トレーニングに対して一般の労働基準を適用するのはおかしい。10年先20年先を見越して、今は一般労働者として扱うことは間違いではないか。是正勧告や指導が入ったからと言って、フランスのように病院がストライキをしては地域医療に混乱が生じるが、それをシミュレーションしてみるのは良いのではないか。批判ばかりでは医療側が悪者となるので、規制が現実に合っていないことを示すのもひとつの方法であると回答があった。その後、「第13回男女共同参画フォーラム宣言」を採択し、次期担当県の高知県医師会岡林会長より、平成30年5月26日(土)に開催予定であると挨拶があり、盛会裡に終了した。
参加者は、329名であった。