活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

医学生・若手医師キャリアデザインセミナー[2018年2月25日]

医学生・若手医師キャリアデザインセミナー


常任理事・医療関連事業部長 藤井 美穂

 北海道医師会では、医学生ならびに若手医師に、共に活動する場と地域医師会の先生方から学ぶ機会を提供し、医師会の活動を通して、将来北海道で活躍できるよう「医学生・若手医師キャリア形成支援検討会」を開催している。


 平成29年度の「医学生・研修医と語る会」は、2月25日(日)に上記検討会が企画・運営し札幌グランドホテルにて開催した。当日は、医学生、若手医師等50名の参加があり、検討会のメンバーである佐藤知世さん(札幌医科大学5年)が司会進行を務め、話題提供の後グループワークを行った。



話題提供1
「臨床医として進化し続けるために〜医師のキャリアデザインとイクボス〜」
 公立学校共済組合関東中央病院健康管理センター長 宮尾 益理子 先生

 臨床医は、一般的には初期研修終了後に、基本領域専門医取得、サブスペシャリティ専門医取得、専門医としてのスキル維持・向上、指導医取得、後進の指導とキャリアを積むことになるが、輝き続けるためには、休まず働き続けること、医師としてのスキルアップを目指すこと、ロールモデルを探すことが必要である。

 女性医師であれば、出産後は保育園や家事サービスを積極的に活用し、精神的抵抗を減らすことで継続勤務が可能になる。家族や職場の理解やサポートを得るための努力も必要であり、全てに「イクボス」の存在が大切である。

 イクボスとは、職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランスを考えることができる管理職である。業務緩和を受けている人に責任の少ない業務のみを与えるのではなく、チャレンジできる目標やチャンスを与え、権利主張の前に職責を果たす意識を徹底し、仕事を正当に評価していることを伝える工夫をする。




話題提供2
「働き方改革に関する最新情報」
 日本医師会ジュニアドクターズネットワーク副代表外務 鈴木 航太 先生

 平成29年3月に政府は「働き方改革実行計画」を公表。時間外労働を罰則付きで規制する方針を示した。ただし、医師については特殊性を鑑み、5年間の猶予期間を設けた。厚労省は2年後を目途に具体的な対策をまとめる予定である。

 第7回医師の働き方改革に関する検討会(平成30年2月16日開催)では、中間的な論点整理(案)と医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組(案)をまとめ、医師の労働時間管理の適正化に向けた取組、36協定等の自己点検、既存の産業保健の仕組みの活用、タスクシフティング(業務移管)の推進、女性医師等に対する支援、医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組が挙げられた。

 自己研鑽の時間については、研修医が自主的に取り組むものであるなど、使用者の指揮命令下に置かれていない時間であれば、労働時間に該当しないと考えられる。

 日本の医療は医師の長時間労働に支えられている現状だが、医師も一人の人間であり、長時間労働による健康への影響が懸念される。今後は、医師の健康やワークライフバランスの確保と、医療の質・安全の向上のために、これまでとは異なる新しい働き方を生み出し、若手医師のキャリア形成を応援できる勤務環境を整えていくことが期待される。



ワークショップ

 6つのグループに分かれて、�@「キャリアについて」�A「多様なキャリアを支援するために」をテーマに、若手医師・医学生がキャリア形成をするにあたって、現在どのようなことに関心や興味を抱いているか、講演内容を踏まえた上で自由に議論を行った。各グループでの話合いの内容は、ファシリテーター担当からご報告する。
※各所属は2月25日現在。



【ファシリテーター氏名】佐藤 知世
【所属】札幌医科大学5年
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】
1)キャリアについて
 前半では、講師の宮尾先生のお話を受けて、実際に医学生や、若手医師から留学のタイミングや、出産のタイミング、また海外での子育てについての質問があがりました。

 一方で、現場の医師からは、ワークライフバランスが注目される一方、外科系などのハードな科を敬遠する女性医師が多いように感じるが、是非チャレンジして欲しいという声もあがりました。

 いずれにしても、これから若手医師や医学生が、北海道内で働き続けていく中で、「新専門医制度の取得」や「北海道医療枠」の要件、さらに「女性医師としてのキャリアアップ」など、様々な条件がある中で、将来に対して不安を抱えており、「ロールモデルとの出会い」や、「キャリアや働き方についての情報」が求められているように感じました。

 また、今回のテーマとなった「イクボス」については、まだまだ道内では認知度が低く、今後「医師の働き方改革」を現場レベルで有効に進める上でも、認知度や、実際に取り組む医療機関を増やしていく必要性を感じました。


【ファシリテーター氏名】高桑 雅弘
【所属】北海道大学医学部3年
【グループワークで出た意見の紹介と感想】
1)キャリアについて
 女性医師が留学を希望する場合どのタイミングがよいか、子どもを持つのはどの時期がよいか、といった疑問に対して先生方の実体験も踏まえてお答えいただきました。


2)多様なキャリアを支援するために
 現状は、女性医師を支援する体制が少しずつでき始めています。学会ごとに資格を得るまでの基準に柔軟性をもたせて、子育てをしながらも女性医師が自らのキャリアを描けるようにしている例もあります。

 また、週3日で準常勤として複数の女性医師を雇用し、その医師らの間で補い合って働くという体制や、病児保育など、新しいシステムの導入はこれからどの病院でも必須となるという意見をいただきました。

 しかし、女性医師を支援すれば誰もが働きやすい職場ができあがるわけではありません。

 子どもを持つ男性への職場の理解も必要です。夫が同じく医師である場合、父親に対する支援や理解は未だに議題に挙がりづらい現状です。母親が支援を受けているとしても、父親が職場で理解を得られなければ、妻とともに育児をしたい夫の想いは、職場の雰囲気に邪魔をされてしまいます。結果として、母親に負担が集中してしまうのが現状であります。海外と比較して、日本ではまだまだ男性が働き、女性が育児をするという風潮が残っています。この根底にある考え方を変えない限り、誰もが働きやすい日本の医師の世界は実現できないでしょう。


【セミナー全体の感想】
 今までタイミングが合わず参加できていませんでしたが、初めてこのキャリアデザインセミナーに参加することができました。

 医師のキャリアについて議論されることが増えていると感じますが、この「キャリア」という言葉が何を指すのか、疑問を持ち続けています。このセミナーでそのヒントが得られると考え参加しました。

 しかし、終わってみても疑問は残ったままです。何を以て医師の「キャリア」と呼ぶのか、その定義をはっきりさせた上で議論することが必要だと感じました。私は3回生で、臨床の先生方と直接お話しできる機会は稀であり、貴重な機会でした。


【ファシリテーター氏名】草場 英太
【所属】 札幌医科大学医学部5年
【グループワークで出た意見の紹介と感想】
1)キャリアについて
 キャリアについて考えるとは具体的に何を考えることなのかという問題提起がありました。私たちのグループではキャリア形成を妨げうる要因は何かという観点から意見交換を行い、問題点を2つ抽出しました。1つは、最低限の生活を脅かす多忙(眠れない、自宅に帰れない等)の問題です。これに肯定的な意見は出ませんでしたが、時間外勤務のような医師として成長できる機会を一律に規制することには反対意見も出ました。

 もう1つは、出産・育児のようなライフイベントがキャリアを中断させかねない問題です。こちらは不確定な要素が多い性質があります。先輩医師の方々の紆余曲折、そしてそれを乗り越えられた経験の共有が私たちの知恵となるという示唆を得ました。


2)多様なキャリアを支援するために
 先に述べた1つ目の問題に関しては、他業種の労働環境を参考に医師たちが自らの働き方について再考したり、行政に医師の働く環境への理解を深めてもらったりすること、2つ目の問題に関しては、本セミナーのような場を通して先輩方の苦労や苦悩を追体験することで私たちが様々な選択肢を準備することが重要です。


【セミナー全体を通しての感想】
 キャリアについて考える上で有用な情報は豊富にあります。

 例えば新専門医制度について概要は公開されていますが、予備知識を持たない学生が少なくありません。今後参加する学生は、受身の姿勢ではなく、関心のある話題について「予習」を行った上でセミナーに臨むべきと私は考えます。あるいは講義形式でキャリアに関する情報を網羅的に提供する機会が必要かもしれません。


【ファシリテーター氏名】三島 千明
【所属】青葉アーバンクリニック(神奈川県横浜市)、日本医師会ジュニアドクターズネットワーク(JMA JDN )
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】
1)キャリアについて
 医学生からは、専門科を早く決めた方がいいのか、妊娠や出産・子育てなどのライフイベントについては相手次第なので、なかなか長期的な計画が立てづらくキャリア選択に迷うという意見がありました。

 また、その他にも初期研修病院の選び方、またローテーションの決め方についてどのように決めたのかという質問が先輩医師に対してありました。それらに対して、専門科は必ずしも早く決めなければいけないわけではなく、研修中に働いてみて感じることもあるので、今は焦らなくてもいいのではないか、ということや、なるべく将来選択しないかもしれない科を研修することも有意義なのではないかというアドバイスがありました。

 また、出産や結婚などのライフイベントについては、実際には相手との出会いやタイミングによる影響が大きく、個々人でさまざまなので計画は難しいと思われるという意見がありました。実際には、医師としてのモチベーションを維持するために自分がやりたい事を大切にすることが重要ではないかという意見もありました。


2)多様なキャリアを支援するために
 キャリアは一人ひとりの価値観やライフイベントによって、様々なパターンがあり、長期的な計画を一気に立てることは難しいこと、自分の価値観や人生のビジョンをもちつつ、数年単位で振り返り、微修正して進んでいくことが重要ではないかというアドバイスがありました。


【セミナー全体の感想】
 今回は、医学生さん、研修医、子育て中の先輩医師の方々など多様なメンバーでゆっくりと意見交換することができました。それぞれの年代で思う悩みに対して、同年代、上の世代、それぞれでアドバイスし合うことで、「キャリアって多様でいいんだ」という思いを改めて感じることができました。

 このような率直に安心して話し合える場を今後もより広く若手の方々に広げていけたらと思いました。


【ファシリテーター氏名】早川 直希
【所属】旭川医科大学5年
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】
1)キャリアについて
 専門医をとることによるメリットが明確ではない、具体的に志望科はなくても取っておくのがいいと感じているとの学生からの意見がありました。本州出身者・パートナーや両親などの関係から働く場所を考える方、結婚や子育てといったライフイベントに合わせてキャリアを考える意見が出ました。その中で、人生の中でライフイベントで選択を迫られる機会は多く、ある程度の指針は持ちつつも柔軟に対応すること、何を選び、何を諦めるかを明確にすることが大切であるとの意見がありました。


2)多様なキャリアを支援するために
 多様性を認め合う環境づくりとして、働き方の改革の必要性は重要であるとの意見が出た。全体的な指針は国が地域ごとの現状を把握して適切な政策を走らせることが理想であるが、実際的には各地域、各施設で課題は異なり、ある程度のまとまったコミュニティで意識的に改革を進めて行くことの必要性が挙げられました。


【ファシリテーター氏名】古川 享
【所属】更別村国民健康保険診療所
【グループワークで出た意見の紹介と感想】
1)キャリアについて
 医師は何を持って評価されるべきか、という話題から始まった。労働者として労働時間で評価されるべきか、プロフェッショナルとして業務内容で評価されるべきか。その話の流れで待機時間は時間外労働なのか、指導医の研修医指導時間は時間外労働なのか、という点にも言及された。話していく中で、ここ数年で各々の勤務施設で時間外労働は減少傾向にあるという意見があり、時間外労働についてのアンケートは再調査が必要なのでは、と言う結論に至った。

 業務に関わりタスクシフトについての話にもなった。医師でなくても出来ることは他の業種にお願いするが、果たして他の業種の負担は考慮されているのか、また施設間のタスクシフト、歯科医師へのタスクシフトも可能なのではないかという意見が出た。


2)多様なキャリアを支援するために
 女性の産休育休についての話題が出た。現状、女性が産休育休を取り、男性はその手伝いをするというのが一般的な考えだが、そもそもその女性メインで男性はサポートという考えが間違っているのではないかとの意見があった。

 育児や介護など、女性がやらなければならないことというわけではなく、男性女性両者平等に役割を担っていく必要があるという結論に至り、そのためには男性側へのサポート・意識改革が必要という意見に至った。

 また、キャリア形成に伴い海外留学についての意見も出た。留学中の助成金、留学中の臨床経験の担保、そもそもの留学についての情報など、医師会でも提示・協力頂ければ助かるという意見があった。


【セミナー全体の感想】
 自分が参加したグループは学生が少なく殆どが医師であった。自分は郡部勤務が長かったため、都市部の大病院で勤務されている方の意見が聞けてよかった。その中で、ここ数年で時間外業務、タスクシフトなど様々な点について改善が見られてきているという意見が多数あり、驚いた。まだまだそのあたりの業務改善はなされていないのではないかと考えていたからだ。セミナー自体にはもともと意識が高い学生や若手医師が参加する可能性が高いと思われるため、如何に参加層を広げ多様な意見を取り入れられるかが今後の課題になるかと思われる。


【ファシリテーター氏名】佐藤 峰嘉
【所属】王子総合病院 呼吸器内科(北海道医師会勤務医部会若手医師専門委員会員)
【ワールドカフェで出た意見の紹介と感想】
1)キャリアについて
 初期研修など様々な経験を積んで成長する時期に、長時間の手術や救急の当直などを通して学んだ経験は重要であったと感じられる一方で、出産や子育て等のライフイベントの為にそれまでとは働き方が変わってしまうということは避けがたいことであるという意見が子育ての経験のある医師から挙がりました。またそれは女性だけの問題ではないという指摘もありました。

 別の観点としては、北海道の地域特性上、地域枠で入学した学生が実際に地域医療に貢献できているのかということに興味があるということも指摘が学生からありました。また、医師としての責務と、与えられる報酬・やりがいがマッチしているのかという疑問も挙がりました。


2)多様なキャリアを支援するために
 一度離職すると復帰することは難しいため、やめてしまわないことが重要であり、病児保育等の活用できるサービスの充実は必須であるという意見がありました。また、医師である以上は、第一線の臨床医でなくとも様々な活躍の場があるということも重要な事実であると指摘されました。

 「働き方改革」の中で、労働時間の短縮が医療供給体制や臨床研修等にどう影響するのかということに関しては、医師の側もどうビジョンをもって自律していくのかということが重要であるという声がありました。また、このような話題はネガティブな雰囲気で語られることが多く、希望をもって議論していくことも必要ではという指摘もありました。


【セミナー全体の感想】
 「働き方改革」や「ワークライフバランス」などの観点から医師として働くことの在り方が問われる昨今の状況で、主体的にどう働いていきたいのか、なにが働くうえで自分にとって重要なのかということを選択していくことの必要性が増しているように感じました。また個々の医師の働き方が変化しつつある潮流のなかで、病院や地域の医療供給体制が制度としてどうあるべきかが課題かと感じられました。


参加者のアンケート集計結果から
旭川医科大学医学部医学科3年 小山 裕基


 アンケートには、医師・医学生計46名の参加者のうち、33名からの回答をいただきました。回答者33名の内訳は、医学生18名、若手医師6名、管理職世代医師(卒後10年〜25年未満)5名、ベテラン世代医師(卒後25年以上)4名であり、また男性14名、女性19名でした。

 今回のセミナーの内容が興味深い内容であったかを問う5段階評価(5:はい/1:いいえ)の結果は、2つの話題提供のいずれに対しても80%程度の方が4以上、95%以上の方より3以上という好意的な評価をいただきました。グループディスカッションの時間(長さ)については、20名が「ちょうどよい」と回答された反面、13名が「短すぎる」と回答されました。これが示す通り、グループによっては議論し足りずに、閉会後も続けて議論されている様子も見られました。

 アンケートの自由記述欄には、「臨床医として進化し続けることができる環境を作るために北海道医師会または行政、大学に臨むこと」として「イクボスのガイドやバッジを作って欲しい」「イクボス宣言やイクボス教育をして欲しい」等、今後実際に行動に移していけそうな具体的なアイデアが見られました。また、本セミナーに関する好意的な感想、感謝の言葉、および改善点の指摘など、貴重なご意見を多く寄せていただきました。

 今後はこのようなアンケート結果を踏まえ、次回以降のセミナー運営・キャリア教育に活かすことで、北海道地域での「キャリアデザイン」に関する取り組みがより一層活発になるよう、これからも努めていきたいと思います。


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