活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

令和2年度医師の勤務環境の整備に関する病院開設者、病院長・管理者等への講習会

令和2年度医師の勤務環境の整備に関する病院開設者、病院長・管理者等への講習会

常任理事・医療関連事業部長 水谷 匡宏

  令和2年10月25日(日)に、札幌市内の主会場のほか旭川市と函館市の視聴専用会場、さらにWeb会議システムによる自宅等での参加にて、「ウィズコロナ新時代の医療機関における働き方改革セミナー」をメインテーマとした、勤務環境整備に関する講習会を日本医師会と共催で開催した。
 本講習会は、医師の働き方にスポットを当てて開催してきたが、今年度は新型コロナウイルスに対応した医療機関において、感染対策をどのようにされたかに主眼を置き企画した。
 開催に当たっては、感染リスクに十分に留意して、病院管理者の医師ほか医療関係者の方々235名が参加された。


講 演1
「職場における新型コロナウイルス感染症への対応〜医療現場から〜」
千歳第一病院院長 高 坂   一 先生

 千歳第一病院で初めての感染者確認は4月7日のグループホーム入居の70代女性で、その後5月9日までに職員20名、患者25名の感染者があり、12名の患者が当院、もしくは転院後に亡くなっている。

 感染症の発生直後の対応としては、
〇感染確認翌日から外来診療を中止し、定期処方のみ電話対応で処方
〇予定していた入院・退院の中止
〇救急当番の中止
〇非常勤医師の診療・当直を停止
〇保健所の調査で濃厚接触者を確認のため入院患者の同室者や接触した職員の洗い出し、2日後に対象者43名のPCR検査を実施。
〇職員全員に胸部CT撮影を実施し、肺炎所見のあった職員2名にPCR検査を行い、陽性となった1名は自宅待機、保健所の指示に従うよう指示。

 その後、看護助手・入院患者各1名に発熱症状があり、PCR検査でいずれも陽性で、次々同じ病棟の入院患者や職員に感染が続き、クラスターとなった。
 この事態を招いた問題点は、新型コロナウイルスへの知識が乏しく、適切な感染対策ができずに感染が拡大したことにある。また、看護職員の感染による病棟職員の不足、感染への不安・恐怖による職員のストレス、周囲からの偏見や差別、医療物資の不足、守衛や清掃の委託先業者の撤退による病院職員による代行、個室が少なく隔離が困難である病院の構造、高齢者や高い介護度の入院患者の特徴もある。院内で感染した病院職員へは、労災の申請、給与の全額補償(労災で8割、不足分を法人で負担)、交通費や私費など療養に関わる費用負担を補償し、勤務している職員へは、感染拡大防止のため、職員へホテル等の宿泊先の確保、帰宅できない職員へ夕食の提供、応援職員(関連法人より)の確保を実施し、予算の問題があるが手当支給を検討した。

 感染病棟の勤務実態は、感染前には26名いたスタッフが、看護師5名、看護助手2名の7名となったため、管理職の師長も夜勤に加わる1日12時間勤務の2交代制が3〜4日連続であった。
 その後、北海道や保健所の手配で感染症専門家よる病棟勤務の見直しの助言、ゾーニングや消毒法の指導・助言、クラスターの原因検証、感染拡大防止策の提案等の支援が得られるようになった。ゾーニングはコメディカル職員がフルPPEでの手作り作業で行った。

 また、北海道よりコロナ病棟への転換依頼があり、入院患者の転院調整が困難であること、千歳保健所圏内で受入れ病床がないこと、感染患者の増による指定医療機関での受入れが困難であることなどから、経営状況の悪化もあり転換を決意した。転換にあたっては、事前に金銭面・罹患時の補償等の説明を受けたほかに、罹患して他の医療機関に入院している職員からの情報が役に立った。

 5月下旬より新型コロナウイルス感染患者の受入れを開始し、千歳保健所管内の外、岩見沢市・江別市・小樽市からも受け入れている。PCR検査は、他院から紹介された外来患者にはドライブスルー方式、電話後に発熱外来を受診した患者には、時間指定し別室に隔離し対応している。
 発生当初は、知識・物資の不足、病院の構造や検査体制に問題があったが、今は知識については多分できており、物資はN95マスクなど少し不安がある。病院内は手作りではあるがゾーニングを行い、検査についても保健所の手を煩わせなくなった。
 ただ、今もできていないことや、できなくなったことに、新型コロナ病棟のトイレ・洗面所・風呂・シャワーの個室化、マンパワー不足、休日・時間外の救急受入れ、緊急手術への対応であり、2病棟中の1病棟を新型コロナ病棟としたための病床不足もある。



講 演2
「職員の安全を守る職場づくり」
KKR札幌医療センター看護部次長 大 山 利 枝 氏

 当院での新型コロナウイルス感染対策は、
○毎日、朝夕の対策チーム会議で、新型コロナウイルス感染症に関する方針決定
○物品の確認、確保のためマスク等を用度課で一括管理し情報を共有
○職員への説明、不安解消に、院内ポータルサイトでの情報提供、院内感染対策講演会のe-learning、リエゾンチームによる「こころの相談」窓口を設置
○連携医療機関への働きかけ、救急車の受け入れを行っている。

 院内感染を防ぐポイントは、職員の体調管理と「外部からの侵入防御」であり、玄関トリアージ・発熱トリアージ、入院患者への面会禁止、学生実習、病院見学の中止や延期。新任医師や非常勤医師の健康管理等を行っている。

 玄関トリアージでは来院者全員に体温測定を行うとともに、来院目的と2週間以内の37.5℃以上の発熱有無を確認し、目的によっては来院をお断りする。さらに各科の外来窓口で問診を行い、本人や同居者の2週間以内の道外への移動の有無、味覚・嗅覚障害の症状の有無等、統一したツールで感染リスクをアセスメントしている。その他、緊急手術や治療、分娩等に対応できるよう、検査方法や手順、入院病床の確保、職員の感染対策を策定した。
 職場環境整備目標は、職員が安全な場所で安全に働くことができることで、そのための経営資源として、人であれば職員の健康管理や人材育成、物であれば安全な場所の確保、物品の不安や不足がないよう設備を整え、感染制御の方法や世の中の動きの情報とお金と時間である。
 職員の健康管理には、出勤時の体温測定、いつもと違う体調の変化時の連絡ルールの統一や専用入院病棟の稼働率50%制限、休憩場所や職員用シャワー室、着替え場所の確保等を行い、6月〜7月に各部署の看護師1名ずつが専用入院病棟で勤務しながら感染対策を学び、自部署でマニュアルを作成した。

 専用入院病棟では汚染エリア、準清潔エリア、清潔エリアの3つに分けゾーニングしている。汚染エリアは感染者、感染の疑いがある者を収容するエリアで、赤テープでゾーニングしており、従事する職員は必要なPPEを着用するようになっている。準清潔エリアは汚染・清潔両エリアの緩衝地帯で、職員が交差する場合があるため、接触しないよう細心の注意が必要なエリアで、黄テープでゾーニングしている。清潔エリアは感染者と接触がない者を収容するエリアで、青テープでゾーニングしている。

 感染防御の方法は具体的に明示し、エビデンスに基づく感染対策、実践知を手順にすることで、方法が理解できると行動に移すことができる。PPEの着用の選択も、患者・環境との「接触なし」「軽度接触」「濃厚接触」ごとに分ける。その中で、N95マスクは救急外来勤務者へ1枚配付し、個人管理で再利用しており、その他についても、なければ再利用や自作して使用している。
 配膳や下膳方法についてもエリアごとの看護師が役割を分担して汚染しないよう十分に対策をとっている。汚染エリア担当で患者を直接ケアする看護師には、ビニールガウン内の発汗の防止や動きやすさを優先させるため、スクラブの着用も認めているが、スクラブから白衣、またその逆の着替えも行う場所等、洗濯にいたるまでルールを定めている。

 当院では、今冬に向け、
○地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院の役割強化
○地域や救急隊からの要請を断らない体制づくり
○「発熱・感染者」(有事患者)と「がん患者、慢性疾患患者」(平時患者)を区分けし、それぞれに必要な対策、診療を行う。
○医学生・看護学生などの人材育成(患者・職員)

など、導線確保、設備面の工夫、物品の確保、備蓄強化、変化に柔軟に対応できる組織づくりに取り組んでいくこととしている。



講 演3
「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた労務管理の対応と医師の働き方改革」
北海道労働局労働基準部監督課課長 米 村 慎 二 氏

 労働基準法上の取り扱いでは、繁忙の理由が新型コロナウイルス感染症によるものである場合、36協定の特別条項に明記がなくとも、「臨時的な特別の事情がある場合」の理由として認められると明確化した。労働基準法第33条で、新型コロナウイルス感染症感染者を治療する場合、災害時による臨時の必要がある場合の時間外労働等の延長の対象となり得る。1年単位の変形労働時間制の運用は、新型コロナウイルス感染症対策のために、制度途中での労使協定の締結をし直すことが可能である。

 労働局・労働基準監督署の取り組みでは、持続的な感染症対策が講じられた労働環境の構築に向けた支援等を実施している。雇用調整助成金等の関連支援策周知や、コロナ禍における労務管理等について、労働契約法や裁判例等の情報提供を行い、適切な労務管理が行われるよう支援している。また、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリストを活用しての業種、職務の実態等に応じた自主的な対策の実施を推奨している。

 医師の働き方改革では、宿日直許可は労働から離れることが保障されていない常態で待機している時間は労働時間とみなされ、特例として労働時間規制を適用しなくとも必ずしも労働者保護に欠けることのない一定の断続的労働に従事するものについて、労働基準監督署長の許可を受けた場合、労働時間規制を適用除外している。一般的許可基準として、勤務の態様は常態としてほとんど労働する必要のない勤務であり、宿直の回数は週1回、相当の睡眠設備の設置を要する。また、医師の当直では宿日直勤務の一般的許可基準に加え、「医師、看護師等の宿日直許可基準」を満たすことが必要である。夜間に従事する業務は、一般の宿日直業務以外に、特殊の措置を必要としない軽度又は短時間の業務であることが求められる。

 医師の研鑽に係る労働時間の考え方は、研鑽の労働時間該当性を明確化するための整備として、業務との関連性、制裁等の不利益の有無、上司の指示の範囲を明確化する手続きを講ずる必要がある。突発的な必要性が生じた場合を除き、診療等の通常業務への従事を指示しない。院内に勤務場所とは別に、労働に該当しない研鑽を行う場所を設ける。研鑽を行う場合には白衣を着用せずに行うなど通常業務ではないことが外形的に明確に見分けられる措置を講ずる。手術や処置見学等では、当該研修を行う医師が診療体制に含まれていないことを明確化しておく。所定労働時間外に在院する場合の手続きや取り扱いを書面等に示し、院内職員へ周知する必要がある。


 講演終了後、各会場を結んで意見交換を行い、最後に、深澤副会長より総括があり、終了した。

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