活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

令和4年度医師の勤務環境の整備に関する病院開設者、病院長・管理者等への講習会

 

医師の働き方改革への対応セミナー
〜医師の勤務環境の整備に関する病院開設者、病院長・管理者等への講習会〜

      常任理事・医療関連事業部長 水谷 匡宏

 医師の勤務環境の整備を推進することを目的に、令和4年7月18日(月・祝)に、医師の働き方改革への対応セミナーとして、北海道、北海道労働局、北海道医療勤務環境改善支援センター(勤改センター)との共催により開催した。会場からのLIVE配信によるWeb併用で、病院長をはじめとした医療関係者250名(会場:133名、Web:117名)の参加者であった。



講 演『公衆衛生医師からみた医師の働き方改革』
講師 北海道保健福祉部・技監 人見嘉哲 先生

〇はじめに
 公衆衛生医師に関する医学生向け調査によると、公衆衛生医師のイメージは「事務」、「会議」、「デスクワーク」、「役人」、「公務員」、「9時5時」、「定年退職後の仕事」…などネガティブなものが多いが、医師の働き方改革を含め、医療環境を良いものに変えて行くために公衆衛生医師による支援が必要である。

〇視点を変えて考える
医師の働き方は、従来、「オートノミー」の考えの下、自分たちが決めるというものであった。東京には私立の医育大学が複数あるが、都市部では以前から、女性を含め多様な考えの学生が多数在籍しており、早くからワークライフの両立を意識していた。道内の医療機関においては、勤務医の労働時間をしっかり把握・管理し、公衆衛生医師や産業医と共に、業務効率に向けた検討を進めることが重要である。
医師の働き方改革は、当初、医療の世界に馴染まないと考えられていたが、何かを変える時は、見方を変えれば違ったものに見えてくる。今後の北海道の医療の在り方を考える際に、この仕組みを上手に利用し、次世代に働きやすい環境を用意していくことが我々の使命である。

〇上限時間の水準は現実に即している
医師の時間外労働の上限は、A水準であれば年間960時間未満・月100時間未満とされており、この水準は、産業医の経験上、いたずらに違反者を出さないように現状を追認した印象を受ける。仮に時間外労働が月80時間を超えるケースは、月から金まで毎日朝9時から夜10時まで働く水準で、月100時間を超えるケースは、月から金まで毎日朝9時から夜12時まで働き、更に週末に出勤する働き方である。これを超えるような働き方は是正しなければならないが、現実にこれを超えるケースは、あまりないのではないかと推察する。

〇まずは勤務実態を把握する
 各医療機関は法令の規定に従い、誰がどのくらい働いているのか労務管理を行わなければならない。まず、勤務医の院内での労働時間を把握し、次に外勤・派遣先の勤務実態を把握する。
通常、三次医療圏は県単位である。県内で医療が完結するよう、1都道府県1医大が保障され医師数が確保されてきた。北海道は広大で6つの三次医療圏が設けられており、三医育大学から全道各地に医師が派遣されている。移動距離が長く、かなりの人数が派遣されており、どのように地域医療が成立しているか、この機会に正確に把握していきたい。

〇各種調査結果を踏まえた対応
勤務医に対するアンケート調査によると、医師の働き方改革に関する情報は、半数以上が「所属組織」や「周囲」から入手していると回答した。経営側から適宜適切な情報を発信しなければならない。
2024年4月に向けて、医療機関の責任者は、できるだけ早い時期に勤務医の労働実態を把握することが重要である。自医療機関の勤怠管理にあたり第一に行うことは、派遣をする側は派遣先での時間外の状況を、派遣を受ける側は派遣医師の勤務時間の状況をしっかり把握し、この勤務時間を共有することが重要である。派遣元医療機関からの働きかけを待つのではなく、派遣先医療機関が状況を把握し、その結果を派遣元に投げかけるくらいの姿勢が求められる。また、宿日直許可の取得状況や兼業先の把握も重要である。それが遅れると、医療機関勤務環境評価センターによる第三者評価や、都道府県への特例水準の指定申請が遅れてしまう。

〇2024年4月がゴールではない
日本の公衆衛生の歴史は、私立の病院がしっかり支えてくれて、それにやっと国の富が追い付き、様々な施策ができるようになった。今の少子高齢・人口減少時代の中で、どのように医療体制を未来につなげていくかがとても重要な問題である。その一つの通過点のツールとして、医師の働き方改革が導入される。
日本の医師のイメージは「赤ひげ」診療であるが、働いている以上、その環境はしっかり守っていかなければならない。公衆衛生医師は遠くから眺めているくらいが丁度いい。コロナ対応や災害時だけ一生懸命働くのが理想である。
道内は医療資源の偏りがあるが、医師の働き方改革の先に、地域医療をどのように支えていくか前向きな議論に結び付くよう、引き続き対応していきたい。



シンポジウム
  『医師の働き方改革について』 
   (1)医師の働き方改革に関する国の動き
講 師  前 厚生労働省医政局総務課・課長補佐  小 川 善 之氏

  〇はじめに
医師の働き方改革には、長時間労働の是正に期待する声がある一方で、地域医療への影響、特に地方の医師が比較的少ない地域において、医師の引き上げが誘発されることが懸念される。医師の働き方改革と地域医療の確保を両立させていかなければならない。

〇特例水準の創設
関係法令により、時間外労働の上限規制と健康確保措置の適用、地域医療を確保する観点から、「連携B」、「B」、「C-1」、「C-2」の特例水準の手続き等が規定され、年の上限時間は最大1,860時間とされた。また、医師の健康確保のための面接指導や、休息時間の確保についてルールを決めた。医療機関内では、現行法上、法改正をしなくても対応できるタスクシフト/シェアを推進する。また、長時間労働を生む構造的な問題への取組みとして、地域医療構想や外来機能の明確化、医療施設の最適配置を推進する。さらに国民の理解と協力に基づく適切な受診の推進や、地域間・診療科間の医師偏在の是正をしっかり進めていかなければならない。
「連携B」・「B」・「C-1」・「C-2」水準は、一つの医療機関内に各水準により従事する医師がいれば、同一の医療機関でも複数の手続き・指定を受ける必要がある。特に「連携B」水準は、派遣先・派遣元という関係があり、検討する際は留意してほしい。

〇特例水準の申請の流れ
2024年4月に向けて、まずは兼業・副業の状況を含め、医師の勤務実態を把握する。また、宿日直許可の取得についても検討する。国では相談体制を充実させており、都道府県レベルでも「勤改センター」が相談対応している。自己研鑽の取扱いについても改めて院内で認識共有を図り、勤務実態を把握する。
特例水準の指定を申請する際には、まず医師の労働時間短縮計画案を作成し、その上で医療機関勤務環境評価センターの第三者評価を受ける必要がある。その後、都道府県に指定申請を提出し、医療審議会等の議論を経て指定をするという流れになっている。このため、該当する医療機関は速やかに労働時間の実態把握を行い、どの水準を目指すのかを判断しなければならない。特に、派遣元になっている医育大学には、都道府県も関与し、派遣先の地域医療を確保するという観点も併せて検討してほしい。



(2)医師等の宿日直許可基準のポイントについて 
講 師  厚生労働省北海道労働局労働基準部監督課・課長 上 田 敦 郎 氏

〇はじめに
宿日直の時間は、労働基準法の労働時間の規定が適用される。1日8時間、1週40時間以内となり、これを超える場合は36協定を締結して割増賃金を支払わなければならない。ただし、監督省庁が許可した場合は許可内容に応じて、労働時間に関する適用が除外され、労働時間としてカウントされない。なお、医療法第16条に基づく宿日直を行わせること自体、監督省庁の許可は不要である。それでも宿日直の許可申請を検討している医療機関が増えているのは、2024年4月から、医師に労働時間の上限規制が適用され、宿日直許可を受ければ労働時間としてカウントされないためである。また、勤務と勤務の間の休息時間(勤務間インターバル)との関係で、宿日直許可を受けて9時間以上連続したものについては休息時間として取り扱えるなど、医師の労働時間や勤務シフトとの関係で重要な要素となっている。さらに、地域医療確保の観点から、大学病院の医療機関の医師派遣の関係で、宿日直許可の取得が非常に重要なカギになっている。

〇宿日直許可の基準
 労働基準監督署での宿日直許可審査は、個別の状況を踏まえて可否を判断している。提出書類や申請手続きの説明や助言を行い、場合によっては申請内容に基づき許可取得に向けた具体的な提案(タスクシフト、タスクシェア等)を行っている。
労働基準監督署は、医師数や宿日直時の患者数、夜間休日の救急患者の発生率を見て、通常勤務と同態様か、常態であるかを判断する。

〇宿日直許可の申請方法
宿日直許可は、一つの医療機関全体で受けるものではない。医療機関の所属診療科ごと、職種ごと、時間帯、業務の種類に切り分けて申請することができる。
宿日直回数は、原則、宿直は週1回、日直は月1回を限度としているが、へき地で医師の確保が難しい場合は、例外的に原則の回数を超えて認める場合がある。週末の宿日直体制を確保するために、遠方から非常勤医師を確保する場合があり、そうした実態を踏まえて例外的に認める場合がある。精神科や産婦人科でも許可事例がある。特定の診療科は難しいと決めつけずに、申請に向けて検討してほしい。



(3)ICT機器を活用した医師の働き方改革について 
講 師 株式会社モロオ地域医療連携本部
認定登録医業経営コンサルタント 中 沢 和 広 氏

〇はじめに
本年6月7日、『骨太の方針2022』が閣議決定された。医療について、岸田首相を本部長とする「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)推進本部」を設置することとされた。医療のDX化を強力に推進し、AIホスピタルの推進、実装を盛り込んでおり、医師の働き方改革を考える上でDXは非常に重要である。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、医療機関のデジタル化が推進された。DX化の導入により、外来で検温サイネージをはじめAI問診、セルフレジ・自動精算機等を設置する。オンライン診療を希望すれば、自宅にいながら診療を受け、薬の受け取りも可能となる。また、これらのデジタルツールを有機的に連携させることで、医療の効率化や待ち時間短縮など、患者の利便性・満足度の向上にもつながる。

〇導入に向けた検討
デジタルツールの利用により、医療の質の向上とともに、効率化によるコスト削減が期待できる。導入に当たっては、競合品の有無やコスト面(初期投資、維持費用)、性能面を比較検討する。予算の確保(補助金の活用)も重要である。推進体制として、人材、組織、運用のルール(ICTリテラシー:物事を正確に理解し活用すること)も検討しなければならない。勤怠管理システムなど院内で自己完結できるものはいいが、Joinなどの施設間連携で使うものについては、地域で同様のシステムが 普及すると、より効果的な運用が可能となる。







講演・シンポジウム終了後、講師と参加者との間で意見交換を行った。

最後に主催者を代表して、本講習会の講師の方々に謝意を表します。

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