活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

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医師キャリアサポート相談窓口利用者との懇談会[2022年8月27日]

 毎年、相談窓口を利用した先生方にお集まりいただき、利用者相互の交流、情報交換ならびに利用者からの要望をとりまとめ、今後の支援方法に反映させるための懇談会を開催しておりますが、今年はWeb会議システムを併用して、2022年8月27日(土)に開催いたしました。

 当日は、当会役員、相談窓口コーディネーターと相談窓口利用者10名(来館1名、Web9名)に、講演会一般参加者や行政の担当者の参加もありました。

 今回は、一橋大学経済研究所教授の臼井恵美子先生による「女性医師のキャリア選択と医療現場の課題」についての講演を行い、続いてのワークショップでは、札幌医科大学泌尿器科・病院管理学の西田幸代先生(コーディネーター)より「女性医師のキャリアについて」話題提供の後、Zoom機能により出席者を3グループに分け「多様なキャリアを考える」をメインテーマに、利用者、コーディネーターの立場から現状や経験などについてディスカッションをしました。

  講 演「女性医師のキャリア選択と医療現場の課題」
   一橋大学経済研究所教授 臼 井 恵美子 先生
 (進行:西田コーディネーター)
 自己紹介後、男性医師と女性医師のキャリア形成の実態とその違いについて、初職診療科の選択と維持および専門医資格の取得状況について、また、2004年に導入された新医師臨床研修制度が女性医師のキャリア形成に与えた効果の分析等について講演された。
※厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」(1994年〜2016年)データを用いた分析
【自己紹介】
 1997年に東京大学経済学部を卒業し、2002年に米国ノースウェスタン大学で経済学の博士号を取得した。ウェイン州立大学助教授、イェール大学客員研究員、名古屋大学准教授を務め、現在、一橋大学経済研究所教授として労働経済学を研究。主に男女の職域格差や賃金格差、人々のキャリア経路の分析に携わってきた。米国では男女の職域格差を分析し、男性比率の高い職種で仕事のきつさの補償額を上回る賃金プレミアムが存在していることを学んだ。最近は医師の働き方に関心があり、男性医師と女性医師のキャリア形成の違いや社会的に問題となっている理工学系分野に進学する男女差の要因についての調査分析を推進している。
【講 演】
 分析での診療科区分は、外科、内科、産婦人科、泌尿器科、小児科、眼科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、放射線科、麻酔科、脳神経外科、整形外科、形成外科、その他の診療科、全科とした。2016年の診療科ごとの女性比率は、年齢別(40歳未満、65歳未満)で区切ると、若い層では男性比率の高い外科、脳神経外科、整形外科、泌尿器科の女性比率が高く、男性比率の高い診療科を選択していることがわかる。
 1968〜1969年度生まれの初職診療科ごとの初職診療科維持率については、男性比率の高い診療科においては、初職診療科を維持できている女性の割合が40〜41歳では6割で非常に低い。外科、脳神経外科、整形外科についても、30〜31歳では初職診療科は維持できているが、40〜41歳になると初職診療科が維持できておらず、女性比率の高い診療科と異なった傾向となっている。10年後の世代である1978〜1979年生まれを対象に同じ分析をすると、泌尿器科の40〜41歳の初職診療科維持率がぐんと上がっており、外科、脳神経外科、整形外科についても1968〜1969年生まれと比べて改善されていることがわかる。
 初職診療科の維持、専門医資格取得の分析については、男性比率の高い初職診療科の初職診療科維持は男性の方が多く、基本領域・サブスペシャリティ領域専門医資格の取得も男性の方が多い。また女性比率の高い初職診療科における初職診療科の維持、基本領域専門医資格の取得はいずれも男女差はなく、サブスペシャリティ領域専門医資格の取得については、男性の方が多い。医師キャリアの男女差の是正には、男性医師比率が高い診療科は、働きやすい職場環境整備やキャリア育成支援、また、女性医師比率が高い診療科については、女性医師のサブスペシャリティ取得の推進など、診療科の違いに配慮した施策が必要である。
 2004年から新医師臨床研修制度がはじまり、公募マッチングによる採用が行われ、研修医は研修病院を自由に選択できるようになった。同時にこれまでは医局制度によるストレート研修で単一診療科であったのが、スーパーローテート研修になったため、計7科目が必修となり、複数の診療科を経験することで、診療科の活動をあらかじめ知ることができるようになった。新制度の導入により、女性研修医が初職診療科として外科・泌尿器科といった男性比率の高い外科系診療科を選択し、外科・産婦人科を初職診療科とした女性医師はサブスペシャリティ領域専門医資格を取得する傾向がある。制度前から男女差は縮小していたが、初職診療科選択には依然として男女差がある。またサブスペシャリティ領域専門医資格を取得する女性医師は増えているものの男女差は残っている。
 今後は、キャリア形成初期段階から中堅段階に至るまでの支援、男性比率の高い外科系診療科(整形外科、脳神経外科)の男女差に関する具体的で効果的なキャリア支援等について研究していきたい。

◇質疑応答◇
■藤井美穂医師
 日本医師会男女共同参画委員会委員として、当時の勤務環境改善の現況調査に関わっていた。女性医師が女性患者に求められる診療科は産婦人科が多いが、単に勤務時間が短い診療科を選んだり、オンコール・宿日直の有無で選んだりするファクターとは違うものがある。自身が求められているからこそポストが獲得でき、さらにポストアップもできることで診療科を選択していると思う。社会や施設が女性医師の仕事に見合ったポジションを獲得できる体制を整備することが重要である。
■西田CN
 さまざまな職種について分析されていると思うが、医師について他の職種と大きく違う点などあればお聞かせいただきたい。
■臼井講師
 男女の職域格差を長く研究しているが、男性が多数いる仕事の方が女性が多数いる仕事よりも年収が高いのが大きなポイントとなっている。医師の勤務実態調査では、病院勤務医に関しては診療科ごとに収入差がないと感じた。アメリカなどでは診療科ごとに大幅な給与差があると聞いているので、医師に関しては日本では違う状況にあるものと感じている。

ワークショップ メインテーマ「多様なキャリアを考える」
話題提供「女性医師のキャリアについて」
   札幌医科大学泌尿器科/病院管理学 西田 幸代 先生
 札幌医大では、教員の女性比率が14.0%でかなり低く、臨床系に限っては約10.0%である。また、男性における教員比率は56.9%(臨床48.0%)、女性における教員比率は23.7%(臨床12.9%)となっている。男性は医学部教員が1番多いのに対し、女性は診療医が最も多い。
女性が抱える諸問題は、家事・育児、妊娠・出産などである。女性が担っているものは氷山の一角で、介護問題、不妊治療や月経困難症など経済的にも影響が出ている。一方、結婚・出産をしない場合の過重労働の問題、学習時間の確保が難しかったり、さまざまな影響でモチベーションが下がったり、環境によるマミートラックやマザーギルティといった感情を持ったり、身分が不安定であるといった問題もある。
 2020年に実施した札幌医科大学医師のコロナ禍アンケート調査では、「主に育児をされているのはどなたですか」の問いに、男性の92.0%が「主にパートナー」、女性の95.0%は「主に自分自身」と答えている。近年の核家族化の進行により女性医師が育児の負担を強いられている現状がある。
 プロティアン・キャリアは、人生100年時代をどう生き抜くかというキャリアの考え方である。プロティアンは、変幻自在に姿を変える神プロテウスをメタファーとしてボストン大学のダグラス・T・ホール教授により1976年に提唱された個人主体である。これまでのキャリアは、1つの組織で昇進するための尺度だったが、プロティアン・キャリアは、キャリアの成否を決めるのは自分自身であり、さまざまな状況に応じて自分が満足できる仕事の仕方をするという考え方である。これからの働くとは、生涯を通して学び続けることであり、溜まっていく知識・スキル・ネットワーク・資産などのキャリア資本を蓄積していくことで豊かな人間性を高めていくことになる。
 大学ではダイバーシティ推進を担当する立場にある。なぜダイバーシティが必要なのか。医療・社会が直面する諸問題は、加速度的に複雑化・難題化しているので、問題空間の中でいかに互いの盲点をつぶしていくか、そして問題解決の方策を増やすかが大切である。育った背景や得た経験の異なる人材が中枢に加わることが社会運営には不可欠で、今はジェンダーダイバーシティが重要と考えている。
 キャリアに悩む女性医師に伝えたいことは、キャリアは決して断絶しないこと、スキルに遅れが生じても社会的資本を蓄積する時間も重要であること、また、同質性の高い組織では諸問題に対応しきれないので、他の視点も加えて解決策を増やすことである。スキルアップには、自分がどうありたいかを明確にし、ICTの活用やマイクロラーニングを取り入れて、業務や学習の最大効率化を図っていただきたい。

<グループディスカッション>
 Zoom機能により8人ずつ3グループに分かれ、臼井講師の講演を受け、それぞれの立場から自分の経験や現在の状況、思いなどを発言いただき、西田先生の話題提供「プロティアン・キャリア」をキーワードにディスカッションが行われた。

<全体共有>
各グループのファシリテーターより、ディスカッションの内容について報告。
■Aグループ(西田CN)
〇体調不良で2週間ほど仕事を休んだが、休むことが非常に不安だった。
〇学会でキャリアの話をすることになり、その勉強を兼ねて参加。腹腔鏡の技術認定医を取得したいが子育て中で時間に制限がある中、どのようにキャリアを積んだら良いか。
○明確な意思表示をすることは回りにも良い影響を与えると思うのでぜひ目指して欲しい。時間内に終わらないものであっても終了時間を逆算し自分自身ができるベストパフォーマンスを心掛けることが大事。
〇現在育児休業中。子どもに障害があり小児科医師からはしばらく仕事へは復帰できないと言われている。自分のキャリアについてはあまり深く考えていなかったが、この会に参加して大変勉強になった。

■Bグループ(寺本常任理事)
○サブスペシャリティについて
論文を書くことは有益であるか。論文データをまとめるより患者さんを診療したい。自分で肯定しながらやってきた。
○「初職の継続」にもさまざまな考え方がある。医師としての技術や向かう方向もいろいろある。
○初職麻酔科で出産育児のため非常勤。専門医資格がなくても長く仕事をしたい。必要とされたい。
○専門医資格がないのがコンプレックスだったが、今は産業医として必要とされている。
○専門医資格を取得すれば世界が広がると想像していたが、資格をもたないからといって自分を否定することはない。さまざまな立場で医師として有用とされる場面は多々ある。
○女性のキャリアアップとは何か。大学医局にいるのも、離れて臨床医として働くのもキャリア。キャリアとは資格、地位だけではない。一生懸命に目の前の患者さんと向き合い、地域での広がりを感じることができる。自分の人生を肯定する生き方も評価されるような時代であってほしい。「今の人生を満足している」キャリアこそプロティアン・キャリアである。懇談会でさまざまな生き方の先生と話すことは、視点が変わる体験でありとても有用であった。

■Cグループ(清水CN)
○サブスペシャリティは臨床心理士。自信を持てた今50歳。医師・他職種の繋がり。プロティアン・キャリアはタームとしては初めて知ったが体感はしている。
・名刺を配って自分で繋がりをつくっていく。
・仕事の質が担保されることが必要。
○プロティアン・キャリアを考えるうえで、問題解決にはどのような方策が良いか勉強したい。入りやすいコミュニティはどのように構築できるか。
○産業医活動を通して、医師会などに相談し、仕事が楽しくなった。初職診療科を貫く方が経済的に良いと言われる一方で、自分が満足していると良い点もあるとも思っている。現場で道を模索している。医師会から情報提供してもらっている。
○リハビリテーション科は社会関係資本が重要な科であると考えられる。キャリアの多様化があって産業医を取得した。仕事の増やし方なども知りたい。
○初職がなく、サブスペシャリティから開始した(精神科)。

<フリートーク>
長谷部常任理事の進行によりフリートークが行われた。
○産業医としての仕事の増やし方について話題になった。産業医は病院の仕事と違って仕事を請け負う個人事業主という働き方で、社会的資本の部分がとても大事である。何かアドバイスがあれば伺いたい。
○仕事を増やす分には、医師会に申し出ることで解決すると思うが、単独での仕事なのでコミュニティの築き方には苦戦している。また、産業医の仕事を増やすと臨床現場から遠ざかる寂しさがあるので少し迷いはある。
○医師は他業種との繋がりがどうしても持ちにくく、社会的資本が非常にプアだと感じた。
○自分の名刺を持ち、それを配って自己アピールしていくことが大事。また、どのような領域でも相手のスペシャリティを大切にしつつ興味をもって耳を傾けることが重要である。
○人との繋がりは、個々人の努力にかかっているところもある。そこを大事にしながら、キャリアアップを目指してがんばっていただきたい。
○男子学生に対するキャリアの授業があるが、どのようなことを話せば理解が深まるのか。
○ロールプレイやケーススタディなどは実施しないのか。
○実施しているが、より良いアドバイスがあれば伺いたい。
○男性の悩みを解決することが、ダイバーシティ推進にも繋がる。女性を大事にしてバックアップするよう話しても、鬱屈した感情が巻き上がる男性もいるので、彼らの想いも汲むべきだと思う。

●臼井講師:アメリカではアメリカではトップ大学の女性教員が集まり、終身雇用権を持っていない若手の先生に対してメンタリングするプロジェクトを行った。メンタリングプログラムの応募者からランダムに選び、選ばれた人と選ばれなかった人とで、その後終身雇用権を得られた確率の違いについて分析した。結果、ランダムに選ばれた人たちの方が、終身雇用権を取得できていたことがわかった。日本でのメンタリングプログラムにオブザーバーで参加する機会があったが、シニアの先生が若手の論文を読んで、それに対してコメントしたり、ティーチングとリサーチの両立や子育てと仕事の両立などについてディスカッションするところであった。それ以降、経済学の分野では、メンタリングが非常に重要と捉えるようになった。

 最後に西田コーディネーターより、「本日の講演が明日の生活に光を灯してくれることを期待している。また機会があればぜひご参加いただきたい」とのコメントがあり会を終了しました。
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