活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

日医関係

第17回男女共同参画フォーラム

第17回男女共同参画フォーラム

  令和5年5月27日(土)13:30

都ホテル四日市にて現地開催


   常任理事・医療関連事業部長 水谷匡宏



  新型コロナウイルス感染症の影響にて現地開催が見送られていた第17回男女共同参画フォーラムが、去る5月27日(土)に三重県医師会の担当により4年ぶりに現地開催された。参加者は254名であった。北海道からは、小職と寺本常任理事(日医男女共同参画委員)が出席した。

 今年は「医師の働き方改革に寄与する男女共同参画を目指して」をメインテーマに、日本医師会・松本会長、三重県医師会・二井会長、三重県・一見知事、四日市市・森市長の挨拶後、基調講演では、井村屋グループ株式会社・取締役・取締役会議長・浅田 剛夫氏より「機会と評価の平等が共同を創る」をテーマに、今年度よりCEOに女性を登用しており、女性経営者の育成推進についての講演があった。 

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 基調講演:「機会と評価の平等が共同を創る」
      井村屋グループ株式会社 取締役 取締役会議長 浅田 剛夫


 井村屋グループは、ホールディングカンパニーとして、国内事業と海外事業を展開する食品メーカーであり、昨年に創業125年、会社設立75周年を迎えた。グループの中核となる菓子食品製造販売業の井村屋株式会社は、津市高茶屋を本拠地としており、今年の3月には津市あのつ台に新工場が建設され海外輸出の拠点としている。
 創業以来の企業ポリシーは「特色経営」と「不易流行」としており、時代変化に対応できるしなやかで強い企業を目指している。海外進出に力を入れるにあたり、男女共同参画は当然取り入れるべき項目であり、特に食品産業では従業員の健康維持が重要だと考えている。
 弊社の商品開発は、2003年は15名体制であったが2023年には55名体制となり、そのうち38名が女性である。性別に関係なく正当な評価を行った上で、思い切った登用を行うことが組織の活性化につながる。「商品こそわが命、人こそわが宝」という考えが人材の人財化を生んでいると思っている。
 男女共同参画は、共通の事業目的の理解が存在し、男女の特性を相互に理解した上で、倫理的システムと人間性が合わさって初めて成り立つものである。弊社では、今年度よりCEOに女性を登用しており、女性経営者の育成に取り組んでいる。今後も男女共同参画を実行しつつ、コロナやAIに負けない人間力を活かした企業経営に努めていきたい。

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 シンポジウムでは、5名のシンポジストから話題提供があった


 (1)医師の働き方改革と三重県認証「女性が働きやすい医療機関認証制度」について
       三重県立総合医療センター院長 新保 秀人 

 当院は、1948年に設立され、病床数419床の三次救急を行う急性期病院であり、医療人材の育成や職場環境の改善等を基本方針とし、「働き方改革」と「男女共同参画」を推進している。
 2018年時点では、医師の時間外勤務時間は徐々に減少傾向にはあったものの、月平均80時間超の医師は16人程度で、小児科の医師が多かった。そこで、5か年計画で職員を徐々に増やす方針をとり、結果、5年間で70名(医師12名、看護師33名、コメディカル18名、その他7名)の全体で9.5%の増員を行った。また、入退館システムの整備、時間外の把握、28時間超連続勤務の把握、研鑽のガイドライン作成、当直明けは正午までに帰宅、検討会や院内会議の開始時刻の見直し、宿日直許可の申請などの対策を講じた。対策の効果としては、コロナ禍にも関わらず医師の時間外は約6%減少し、コロナ流行中も救急の停止や病棟の閉鎖をすることなく、疲弊軽減につながった。さらには、職員増員の前後5年間で比較すると、入院単価が10,122円(約16%)増加した。
 当院は、2019年に受審し「女性が働きやすい医療機関」の認定を受けた際に、保育施設の一層の整備および授乳場所の明確化、妊娠時や子育て時などの人事面でのより細やかな配慮が必要との指摘を受けた。現状としては、育休取得者が増加しており、昨年度は看護師で70名、男性医師1名、男性事務3名が育休を取得した。また、看護師の育休からの復帰率は過去11年間で99%となっている。
 当院の目指す「働き方改革」は一定の改善はあったものの、現状把握の徹底とさらなる工夫が必要である。今後もより一層「職員が働き続けたくなる病院づくり」を目指していきたい。


 (2)男女平等に働ける工夫 
      亀山医師会豊田クリニック 入山 紀美子

  私が医学部に入学した頃は、全クラスでの女性の割合は0.4%であり、医学界は男性中心の世界だった。現に、私が婚約すると、同じ医局に夫婦がいるのは好ましくないとの理由で辞めさせられた。医局を退職後は、実家の病院でアルバイトをしつつ育児に励んだ。子どもを持ちたい若い女医さんには、実家の近くに住んで両親の力を借りることをお勧めしたい。
 明治3年に初めて平民にも名字の使用が許されると、明治9年には妻の名字は実家の氏を名乗る「夫婦別氏」が適用となった。その後、明治31年に徴兵制のため民法が改正され、家を同じくする者は「夫婦同氏」となった。今や夫婦別姓が認められていない国は珍しく、夫婦同姓を法律で規定している国はほとんどない。選択的夫婦別姓制度が成立すれば、結婚・離婚で姓は変わらず、国家資格の氏名変更も不要となり、男女が平等に生きられる社会の実現につながる。さらには、夫婦別姓は日本の少子化対策にも有効と考えている。
 日本の人口の約半分は女性で、患者も半分以上が女性であるにも関わらず、日本の医師の男女比は8:2となっており、女医率は世界最下位である。今後、女子受験生および女子入学生が増えることを期待している。


 (3)医師の働き方改革と男女共同参画〜男性医師(夫、父)の立場から〜
      山形大学医学部眼科学講座教授 杉本 昌彦 

   昨年度まで三重大学病院眼科の准教授として勤めていた。三重大学眼科への入局者は、近年増加傾向にあり、2020年には過去最高となる7名の入局があり、愛知県や東京都出身など県外からの入局者も多い。眼科の女性医師割合は他科に比べると高い。女性の多い医局では何が必要か考えたときに、特に女性医師は、家庭と仕事の両立、家庭生活における女性の負担、結婚や子育てによるリタイア、働きたいのに働けない環境などの問題が生じてくる。時短勤務や当直免除、手術時間などを配慮することは可能だが、それは本当に正しいのか。むしろ、男女や子どもの有無のみで対応することは偏見ではないか。子育て世代へ配慮することによって、それをカバーする医師の負担は間違いなく増える。ヘルプする側は「なぜ当直を代わってあげないといけないのか」「術後の管理は誰がするのか」などの不満が溜まり、ヘルプされる側も「早く帰ると嫌な顔をされる」「文句を言われるのが嫌なので当直します」といったように悪循環になってしまう。
 ヘルプする側もされる側も双方にとってプラスになる環境を作るには、それぞれが求めているものを確認し、負担をキャリア・お金・症例などの明確な形で補完することが有効だろうと思う。最も重要なのは、自分がいずれはその立場になるかもしれないという気持ちで、「お互い様」の意識を醸成することである。
 今後は、働き方改革を進めつつも、女性のみではなく、全体を俯瞰したアシストが必要だろうと考えている。


 (4)医師の働き方改革と男女共同参画〜女性医師(妻、母)の立場から〜
      三重大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学准教授 杉本 由香

   日本では未だに、女性は家族かキャリアかを選択しなければならず、日本は世界的に見てもまだまだ女性が働きにくい国である。医師になるためには、個人の努力だけでなく、多くの社会資源が投入されているため、我々医師には生涯にわたりできるだけ継続的な社会貢献が求められる。
 私は、卒後5年目にに結婚し、9年目にに出産、13年目に夫の研究留学でアメリカへ付いて行った。アメリカでは専業主婦として生活していたが、日本人学校のボランティアを経て、研究所のボランティアとして医師キャリアを再開した。この時に初めて、自分にとって医師という職業が自己実現のための大きな要素になっていたことを実感した。
 医師の世界では、勤続年数を重視しがちな年功的な処遇の下、長時間勤務や転勤が当然とされている男性中心の働き方を前提とする労働慣行が今もなお残っている。男女共同参画を推進すれば働き方改革は上手くいくのか、働き方改革が実現すれば男女共同参画が進むのか。女性医師の勤務体系は、これまではフルかゼロしかなかったが、今後は持続可能な方法を見つけていかなければならない。フルタイムで働く女性医師は30代·40代では少なくなっている可能性があり、責任ある役職や後進を指導する立場を経験しない場合も多い。日本ではまだ女性が育児や介護のイニシアチブを取ることが多く、育児や介護中にいかにキャリアを形成していくかが問題である。
 女性医師の就労について、どのような形でも医療に関わって仕事を続けることは社会貢献になる。また、「働きやすさ」も重要だが長く仕事を続けるためには「働きがい」も重要であり、自分の仕事内容に魅力を感じ、モチベーションを維持できるかが大切である。


 (5)女性医師のワークライフバランス
        三重大学医学部附属病院産婦人科助教 金田 倫子 

   近年、女性医師数は増加傾向で、2020年は全医師数における女性医師の割合は22.8%となっている。診療科別の女性医師割合をみると、産婦人科は43.4%と上位を占めている。厚生労働省の調査で、産婦人科における長時間労働の医師の割合は11.8%と、救急科・外科・脳神経外科に次いで高い。時間外労働の多い科では女性医師は少ない傾向にあるが、産婦人科に女性医師が多い理由は、女性を対象にする科であること、ワークライフバランスの確保が比較的なされていることなどが考えられる。
 日本における女性の労働率は、結婚·出産期に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するというM字カーブを描くことで知られている。近年は、女性の社会進出や仕事と家庭の両立支援の向上により、M字カーブは解消されつつあるが、女性医師に限ると今もなおM字カーブの傾向があり、対応が急務である。
 三重県では、医局員の増員や分娩取り扱い施設の集約化など、産婦人科の人員確保に取り組んでおり、分娩取り扱い二次施設の医師数は、2011年度の50名(うち女性医師14名)から2023年度には79名(うち女性医師35名)に増加している。分娩取り扱い二次施設については、2011年度の10施設から集約化を行い2023年度には7施設となった。また、個々の希望に沿ったキャリア形成を推進しており、仕事にやりがいを持てる環境の整備に努めている。三重大学産婦人科医局では、女性医師のために「三重レディースクリニック」を設立し、多様な働き方を実現している。
 2024年4月よりより、医師の時間外労働について、連続勤務時間制限28時間や勤務間インターバル9時間などの規制が適用される。本学では、当直明けは帰宅すること、カンファレンスは勤務時間内に行うこと、土日祝日は交代制とするなどの改革を行っていく。
 医師のワークライフバランスを保つためには、人員確保は必須である。必要な人員がいなければ働きやすい環境の整備は難しい。個々の多様性を尊重したキャリア形成が一番の理想である。

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    続いて、総合討論ではシンポジストと参加者の間で活発な意見交換があった。その後、次期担当県の香川県医師会・久米川会長より、令和6年4月27日(土)に高松市で開催予定であるとの挨拶があり、盛会裡に終了した。


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