活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

令和5年度医師の勤務環境の整備に関する病院開設者、病院長・管理者等への講習会

医師の勤務環境の整備に関する病院開設者、病院長・管理者等への講習会


          常任理事・医療関連事業部副部長 長谷部 千登美


 医師の勤務環境の整備を推進することを目的に、令和5年6月4日(日)に、医師の働き方改革への対応セミナーとして、北海道・北海道労働局・北海道医療勤務環境改善支援センターとの共催により開催した。会場からのLIVE配信によるWeb併用で病院長をはじめとした医療関係者130名(会場68名、Web62名)が参加した。


講演
  「医療機関勤務環境評価センターの評価受審のポイントについて」
               日本医師会・常任理事 城守 国斗 先生

  ○医師の働き方改革の概要について
 2024年(令和6年)4月から、すべての医療機関は、A、連携B、B、C−1、C−2のいずれかの水準に区分される。連携B、B水準は、地域の医療を確保するために暫定的に認められた特例水準であり、2035年度末(令和17年度末)には解消される。2036年(令和18年)4月以降は、時間外休日労働が年間960時間以内の医師しかいないA水準か、集中的な技能水準向上を目的としたC水準しか残らない。したがって、我が国の医療の質は、C水準の医療機関が維持向上させていくことになるが、時間外・休日労働の上限時間数は今後、国の検討会等において決定される。
 従来から、労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)において、面接指導や健康確保措置が、すべての医療機関の医師・職員を対象に行われているが、それだけでは不十分ということで、改正医療法において追加的健康確保措置(連続勤務時間制限、勤務間インターバル、代償休息)が創設された。A水準では努力義務であるが、B、C水準では義務化される。
 国において、B水準となる医療機関の要件(医療機能等)が示されており、地域医療体制を確保するために、自院における年間の時間外・休日労働が960時間を超える医師がいる医療機関とされている。
一方、自院では年間960時間以内で収まるが、地域医療体制を確保するために、やむを得ず副業・兼業する時間を通算することにより、年間の時間外労働が960時間を超える医師が存在する医療機関は、連携B水準を申請しなければならない。地方の大学病院等は地域医療の実情に応じて、B、連携B水準の申請を検討してほしい。
 C−1水準は、臨床研修医・専攻医が年間960時間を超える実績があり、次年度以降も同様に見込まれる場合は、指定を受けなければならない。
 C−2水準の対象となる技能の考え方について、過去の国の検討会において「高度な技能を有する医師を育成する必要がある分野」と整理され、先進医療的な内容のものしか認められないとの印象が先行し、各医療機関は申請を躊躇していた。その後、国において、1)対象分野(特定分野)の考え方、2)特定分野における高度な技能の考え方、3)技能の習得にやむを得ず長時間労働となる業務の考え方−が議論され、従来の保険未収載の治療・手術や先進医療に加えて、「または」として、基本領域の専門医取得段階ではそのレベルまで到達することが困難な技能=サブスペシャルティの専門医取得を目指すような技能も追加された。厚生労働省のホームページ上に「C2審査・申請ナビ」が設けられており、申請はオンラインで行う。
 仮にB水準の指定を受けた医療機関に属する医師は、すべてB水準が適用されるわけではなく、指定される事由となった業務やプログラム等に従事する医師にのみ適用される。副業・兼業通算しても、年間960時間以内に収まる医師は対象にはならない。医療機関によっては、連携B、B、C−1、C−2と四つの指定申請が必要となり、それぞれの区分が適用される医師だけが労働時間短縮計画(以下、「時短計画」という。)の対象となる。
 B、C水準の医療機関は、時短計画を策定し、追加的健康確保措置を実施する体制を整備した上で、医療機関勤務環境評価センター(以下、「評価センター」という。)の評価を受ける必要がある(3年に1回更新)。C−2水準は別途、国の審査組織における審査を受ける必要がある。
 評価センターの評価は、申請後少なくとも4か月はかかる見込みである。評価終了後、医療機関と都道府県にコメントをつけて結果が通知され、医療機関は評価結果に必要書類を添付して都道府県に指定申請を行う。

○2024年4月にむけて、すべての医療機関に求められる取組み
 医師の労働時間の把握を適切に行い、その上で1)副業・兼業、2)宿日直許可の取得、3)自己研鑽の取扱い−について整理する必要がある。副業・兼業時間は、自己申告により労働時間に通算する。自己研鑽は、上司が独自に類型・規定化するのではなく、医局内で十分に話し合い、何が自己研鑽になるかの基本的なルールを作成・明文化し、掲示上などで職員に周知しておくことが重要である。国において、研鑽の区分例(新しい治療法等の勉強、学会への出席、当直シフト外で時間外に待機し手術・措置等の見学を行うこと等)が示されているが、これに捉われることなく、各医療機関において整理する。研鑽を行うことについて、医師の申出と上司による確認のルール作りも必要となる。

○面接指導実施体制の整備について
 改正医療法では、月100時間を超えそうな医師がいた場合は、一旦80時間前後で疲労度や睡眠負債の確認を行い、A水準の場合は疲労の蓄積があまり認められない場合は、100時間を超えてから面接を実施してもいい。しかし、B・C水準の場合は、必ず100時間到達前に実施する面接指導体制の整備が必要となり、本人の申出の有無にかかわらず実施が義務化される。面接指導を実施する医師は、厚生労働省ホームページ上でe-ラーニング方式による講習を受講(修了)した医師でなければならない。面接指導実医師であれば誰でも受講でき、現在4,000数百名が受講しているがもう少し増えてほしい。

○連続勤務時間制限・勤務間インターバル規制等への対応
 通常の日勤及び宿日直許可のある宿日直に従事する場合は、15時間以上の連続勤務はできず、原則として9時間のインターバルを確保する必要がある。例外として宿日直許可のない宿日直に従事する場合は、例えば朝8時から翌日朝8時まで24時間勤務し、さらに当直明け昼12時まで連続28時間の勤務が可能であるが、それを超えたシフト表は認められない。28時間勤務をした後は18時間のインターバルを確保する必要がある。
 C−1水準の臨床研修医は手厚く保護されており、当初は代償休息の概念が無かった。また、臨床研修の必要性から、指導医の勤務に合わせて24時間の連続勤務をした場合は、その後の勤務間インターバルを24時間確保しなればならないとされていた。しかし、宿日直許可のある宿日直の時間帯に通常の労働時間が発生すると、勤務間インターバルが適用され、翌日を終日休日としなければならず、期待された研修効果が獲得できない。このため、一定の要件を満たせば代償休息の付与が認められることとなった。
 勤務間インターバルの確保や代償休息の付与に関する規程を作成する必要があるが、評価センターのホームページ上で「解説集」を公開し、特例水準ごとの規程例を示している。そのまま転用しても、評価センターの評価はクリアできるため活用してほしい。

○評価センターへの申請手続き、評価受審にあたっての留意点
 評価センターの役割は、特例水準の医療機関を評価し、必要な助言・指導を行うもので、取締り機関ではない。評価センターは日本医師会内に設置され、大きく三つの委員会で構成されており、評価委員会で実質上評価を決定する。
評価は、1)関係法令の規定を満たしているか(必須項目)、2)1)以外のストラクチャー、3)プロセスの―を総合的に検討し、時短計画の評価を行った結果、四段階で判定する。時短計画の修正が必要な場合や関係法令違反(未達成)の場合は、「評価保留」として都道府県と医療機関に返送する(審査のやり直し)。
 評価センターでの審査期間は、受審申込から結果通知まで、スムーズに進んでも4か月程度かかる見込みであり、都道府県の受付時期も異なることから、締切に間に合うよう早めに申請してほしい。



シンポジウム「医師の働き方改革について」
(1)「面接指導と追加的健康確保措置について」
       講師 ベーシカルヘルス株式会社・代表取締役
                    佐藤 文彦 先生


〇面接指導実施医師について
 面接指導実施医師養成講習会は、産業医の立場から見ても非常に質が高く、わかりやすく制作されている。講義時間は約200分で、登録手続きから概ね4時間で終了する。
 面接指導実施医師は、産業医のサポートをして、長時間労働の医師に面接を行う。面談対象の医師が何に困っているのか本音を引き出し、医学的見地を踏まえ睡眠や休息等環境調整に関する助言や保健指導を行う。睡眠負債やバーンアウトの兆候など、客観的なデータを基に就業上の措置の必要性を判断し、報告書にまとめて事業主に提出する。状況に応じて残業禁止や休職を勧める内容の意見書を提出する。産業医は面接指導医の報告書・意見書の内容を確認し、管理者と協議して院内調整を行う。互いに中立的な立場を保ち、労働者・事業主に偏った判断をしないよう留意する。面接指導の結果は、副業・兼業先にも提出義務があり、派遣先とのコミュニケーションも必要である。

〇コーチングスキルの有用性
 厚生労働省の「指導医講習会の開催指針」において、指導医が身に着けるべき指導方法及び内容として、フィードバック技法やコーチングを掲げている。
 コーチングはコミュニケーションのスキルの一つである。最近の成功例は世界一となった「侍ジャパン」で、現場の若い人の声を聞いた上でどうしていくかを考えたコーチングである。その手法は、まずは相手の話を聞き、次に具体的に困っていることを質問する。最後にアドバイスする。その過程で重要なことは、相手の存在そのものを常に認めることである。
 コーチングのフレームで「GRОWモデル」がある。管理者になると、最初に管理者として何を目指すのか目標を設定する(Goal)。目標に向かって現状把握を行い(Reality)、ギャップが明らかになり問題意識が明確になる。物的人的資源(Resource)を活用して、適切な選択肢を創造する(Options)。最終的に目標を達成するという意思確認を行う(Will)。医師の働き方改革を含め、目標達成に向けて、PDCAサイクルを回すのもいいが、「GROWモデル」を活用するといい。

〇自院にとどまらない多職種連携が重要
 面接指導実施医師は、自院の医師が行っても問題ないという病院も多いが、実際には院外の医師に面談してもらった方が客観的な対応が期待できる。院外の面接指導実施医師によるオンライン面接指導システムは、職員同士の忖度を無くし、関係の少ない地域の医師とのマッチングを行う。 しかしながら、理事長・院長の指示で面接指導の内製化(外部委託していた業務を自院で行うこと)をせざるを得ない場合、アウトソーシングでフォローしてもらう。ただでさえ病院事務方の負担は大きくなっているので、検討する価値はある。
 単一の医療機関内のコミュニケーションだけでは多様な医療ニーズに対応するのが難しく、今後は院内にとどまらず、様々な他法人との多職種連携が地域医療を支える上で重要になってくる。医療・福祉関連施設はもちろん、行政やICT関連企業など、様々な分野の人たちの協力が必要となってくる。医療専門職以外の人たちも巻き込んだ、今まで以上の多様な連携が、地域医療を守るために必要である。


(2)「36協定の締結と届出等について」
      講師 北海道労働局労働基準部監督課・統括特別司法監督官
                     吾子 勇二 氏
           
〇36協定の届出様式
 具体的な記載方法は「厚生労働省使用様式ダウンロードコーナー」で検索し、Word形式でダウンロードできる。記載例は「医師の働き方改革手続きガイド」にわかりやすく掲載されている。36協定の届出様式は、医師の場合、3枚で一セットとなっている。








○1枚目(各水準共通)
 下の二つのチェックボックスが関係部分になる。
下から二段目の欄は、医師以外の医療従事者も協定の対象とする場合は、チェックが必要となる。一番下の欄は、医師に関する部分で、必ずチェックが必要となる。








○2枚目(A水準記載例)
 1)は、医師以外の医療従事者を記載する。A水準の医師は2)に記載、B水準の医師は3)、連携B水準の医師は4)、C水準の医師は5)の欄に記載する。
 2)〜5)は、対象となる業務の種類ごとに記載する。時間外労働は原則として、月45時間、年360時間以内としているが、月45時間を超えて時間外労働をさせる場合には、臨時的に(突発的に)限度時間を超えて労働させることができる具体的な理由を書かなければいけない。「業務の都合上必要なとき」のような、曖昧な表現は認めらない。例えば患者数の増加、入院患者の急変、救急患者搬送に伴う診察、検査、診断、処置、手術への対応の発生等を例示している。欄が小さいことから、別紙で別に定めても差し支えない。
 また、時間外労働をさせなければならない回数を記載する欄がある。医師以外の医療従事者は年間12カ月のうちの半分の6カ月=6回が限度となっているが、医師は限度が無く、最大12回でもかまわない。








○3枚目(A水準記載例)
 医療に関する特別なチェックボックスは、4段目以降になる。
 4段目は必ずチェックが必要となる。面接指導をする場合は、月の上限が100時間を超えても構わないが、面接指導をしない場合は100時間未満でなければならない。
 5段目は指定を受けている場合はそれぞれチェックが必要である。
 6段目は、「協定で定める1ヶ月の時間外労働および休日労働を合算した時間数が、100時間以上の場合は以下の措置を講ずること」と記載されており、7段目は1ヶ月の時間外休日労働の合計時間数を100時間以上と定めている場合はチェックが必要となる。
 8段目は、1ヶ月の時間外休日労働の合計時間数が月100時間以上と定めている場合は、チェックが必要となる。自院で月100時間未満でも、副業・兼業時間を合算して155時間になる可能性がある場合はチェックを入れる。
 9段目は、A水準はチェック不要である。
 最後に、労働者代表の方、使用者の方の署名もしくは記名・押印が必要となる。
また労働基準監督署に36協定を提出する場合は、通常、原本(1部)とコピー(1部)の2部を用意する。原本は労基署で収受・保管し、コピーは受付印を押して申請者に返却する。詳しくは最寄りの労働基準監督署に問い合わせいただきたい。


(3)「特例水準の指定申請について」
      講師 北海道保健福祉部地域医療推進局
          地域医療課・医師確保担当課長  金須 孝夫 氏

〇指定申請スケジュールについて
 北海道では、令和5年3月31日付けで各病院・有床診療所宛てに、特例水準の指定の申請方法、必要な提出書類、スケジュール等について通知を発出した。
 特定労務管理対象機関を目指す医療機関(指定対象医療機関)は、まずは時短計画を策定し評価センターの評価を受審してもらった後、北海道に指定申請を行う。
 令和5年度は、3回に分けて指定をしていく予定で、1回目の申請期限は6月30日としている。申請内容を確認の上、医療対策協議会等で審議し、8月下旬頃に指定する予定である。以後、9月29日までに申請いただいた案件は、12月下旬頃を目途に指定(2回目)、11月30日までに申請いただいた案件は、2月下旬頃を目途に指定(3回目)する。今年度中の指定を希望する医療機関は、11月30日までに申請を行ってほしい。評価センターの評価作業には一定の時間がかかることから、逆算して準備を進めてほしい。

〇指定申請書類、提出先について
 特例水準ごとに申請書と添付書類を定めている。様式は、北海道地域医療課のホームページからダウンロードできる。時短計画や評価センターの評価結果通知書、労働関係法令に違反していないという誓約書は、共通書類としてすべての医療機関で準備しなければならない。評価センターの申込から結果が通知されるまで最低でも4カ月程度かかる。今後評価が立て込んでくると、審査機関が伸びる可能性が懸念されることから、出来る限り早期に準備してほしい。

     ◇

 シンポジウムでは「北海道医療勤務環境改善支援センター」の広報の後、講師全員と参加者との間で活発な意見交換が行われた。

         ◇

 最後に主催者を代表して、本講習会の講師の方々に謝意を表します。

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