活動報告

医師のキャリア形成をサポートするため様々な活動を行っています。

第19回男女共同参画フォーラム

第19回男女共同参画フォーラム

  令和7年5月17日(土)14:00

福島県・郡山ビューホテルアネックス

常任理事・医療関連事業部長 水谷 匡宏


 第19回男女共同参画フォーラムが、去る5月17日(土)に福島県医師会の担当により郡山市にて開催された。参加者は225名(男性94名/女性131名)であった。
 今年は「ダイバーシティを踏まえたキャリア支援」をメインテーマに、日本医師会・松本会長、福島県医師会・石塚会長、福島県・内堀知事の挨拶の後、基調講演が行われた。
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基調講演「日本酒は故郷の誇り〜福島市唯一の造り酒屋を守りたい〜」 
  金水晶酒造株式会社四代目蔵元・取締役会長 斎藤 美幸
 酒蔵の数全国4位、日本酒製造量9位である福島県は、全国新酒鑑評会において都道府県別の金賞蔵数で9年連続日本一を誇る。県内の酒蔵は、会津地方35蔵、郡山市6蔵、県庁所在地の福島市には金水晶酒造の1蔵だけである。
 私は、造り酒屋の一人娘であるが、大学卒業後はテレビ業界に就職、入社2年目で結婚し、5年目に第1児、7年目に第2児を出産。育児と激務を両立していたが、アンコンシャス・バイアスにとらわれてキャリアを中断して39歳で退職しM字カーブに東日本大震災時の不確かなネット情報に影響され「福島で食品メーカーは無理だ」と父に廃業を進言したが、赤字でも酒を造り続け、震災の年も金賞を受賞した。吹雪の中、隣町の方から地元の湧き水を持参し「地酒を造ってほしい」と頼まれたことで、故郷の米と水で造る酒は、地域の精神的な受け皿になると気付いた。その後、福島市唯一の造り酒屋である金水晶酒造を守るため帰郷し、4代目蔵元に就任。過去の経験を活かして広報に力を入れ、「日本酒を通じて故郷の誇りを伝える」を経営理念とし、地域に根ざした酒造りを続けている。
 福島では、特に若い女性の県外流出が多く、これが人口の自然減につながっている。世代が長く続き、人生の質が高まり、日本酒を楽しく飲み継がれられる環境づくりにこれからも貢献していきたい。

基調講演「女性医師のキャリア形成に壁はあるか」
  藤田医科大学ばんたね病院脳神経外科教授 加藤 庸子
 私の勤務医時代は、今なら「パワハラ」「セクハラ」と言われかねない環境下で、救急搬送と手術に追われ、病院に寝泊まりする日々であった。その分、豊富な症例と手術経験を積むことができ、また、世界脳神経外科学会連盟理事としての活動を通じて、世界を見る目、外から日本を見る目が養われた。
 私の教室には多様な留学生が在籍し、性別や年齢等にとらわれることなく能力に応じたポジションに就いている。脳外科手術の今後は、ロボット手術とAI利用、個別化した治療が重要となる。
 多様な人材が、能力を発揮してリーダーシップを取ることが求められ、女性リーダーに対する無意識の偏見を自覚させる意識改革は重要である。優れた医師に必要なコミュニケーション能力を女性のキャリア形成に活かしていただきたい。
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日本医師会男女共同参画委員会および日本医師会女性医師支援センター事業の活動について報告があった後、シンポジウムが行われた。
シンポジウム
⑴ 福島県が取り組む地域医療と若手医師のキャリア支援
  福島県保健福祉部医療人材対策室 室長 新妻 崇永
 福島県は総面積で全国3位、市町村数は59あり、うち町数は31で北海道に次ぐ2位である。人口10万人あたりの医師数は、近年は微増であるが過去20年でみると減少傾向にあり全国平均を下回っている。
 特に震災の影響を受けた双葉地域では医師不足が顕著である。
 医師確保に向けて、福島県立医科大学における修学資金貸与制度や「ドクターバンクふくしま」の無料職業紹介、ふくしま子ども・女性医療支援センターによる多様な医療支援などを実施し、県内の医師定着を目指している。また、地域医療に関心のある学生向けのセミナーや地域医療体験研修、臨床研修病院合同ガイダンス等を通じて若手医師のキャリア支援にも力を入れている。
⑵ チーム医療はチーム育児へ〜同じ診療科で働く夫婦医師が共に育児休暇を取得した病院の取り組みと新制度活用の意義〜
  社団医療法人養生会かしま病院 診療部部長 中山 文枝
 男性には「育児休業制度」や「産後パパ育休」等があり、2022年度からは育休中の一部就労も可能となるなど制度の柔軟性が拡大しているが、男性育休取得率は全国で約30%であり、医療現場ではさらに低い。
 当院では、同じ診療科に勤務する夫婦が、3人目の出産を機に初めて同時に育児休暇を取得した。育休取得に迷いがあった夫医師を後押ししたのは、私の子育て経験から得た「子育てに関わることは人生・家族・地域の学びになる」という実感からであった。一方、職場では勤務シフトの調整、DX導入、チーム医療体制の見直しを組み合わせることで、診療体制の持続可能性を確保し、パパ育休との両立を実現した。
 育児休暇の普及は、医師のキャリア形成や人間的成長、チーム医療の質の向上など、職場に良い影響をもたらす。今後は育休が「特別」ではなく、「選択肢のひとつ」として受け入れられる医療現場となることを期待する。
⑶ 人生の終わりに「ありがとう!幸せでした!」と想い合える生き方を探して」〜5人の子供と男性育休、地方(福島)移住で得た宝もの〜
  大原綜合病院脳神経外科部長 岩楯 兼尚
 横浜出身の私は、首都圏で働いていたが、「キャリアとは人生そのものである」と捉え、家族3人で福島に移住した。新しい環境で仕事に励みたい私と、知り合いのいない土地で第2子を妊娠してつわりに苦しむ妻との間に心の乖離が生じ、結婚2年目にして夫婦最大の危機に直面した。厚生労働省の調査では、離婚世帯の70%以上が末子8歳以下、5組に1組は熟年離婚である。つまり、子育て期の父親の生き方が、その後の人生や晩年に影響を及ぼすと考えられる。
 私は、第5子誕生時に初めて育休を取得し、授乳以外の家事や育児をすべて行った。その経験により職場全体の雰囲気が向上し、結果的に入職者の増加につながったと考えている。日本の医療業界では、バーンアウトや診療科偏在、後継者不足など課題が深刻化している。解決策には「キャリア支援」が鍵であり、仕事だけでなく家庭や人生設計も含めた包括的な支援が不可欠と言える。
多様性が進む昨今、家族の視点や人生全体を意識した支援が重要であり、特に、先輩が自身の失敗談を語り、若者と心の対話を重ねることは、AIでは代替できない究極のキャリア支援となるのである。
   ◇
 続いて、総合討論ではシンポジストと参加者の間で活発な意見交換があった。
 その後、次期担当県の沖縄県医師会・田名会長より、令和8年4月4日(土)に那覇市にて開催予定であると挨拶があり、盛会裡に終了した。

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