医師の働き方改革への対応セミナー
医師の働き方改革への対応セミナー
(医師の勤務環境の整備に関する病院長、病院開設者・管理者等への講習会)
常任理事・医療関連事業部長 水谷 匡宏

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講 演 「医師の働き方改革の現状〜開始から半年が経って〜」
日本医師会・常任理事 城守 国斗 先生
○これまでの評価センターにおける評価を踏まえたポイント
医師の働き方改革が始まって半年が経とうとしているが、A水準を含む全ての医療機関に求められる対応のうち特に注意すべき点としては、医師の労働時間の把握、36協定の締結、面接指導実施体制の整備である。
医師の労働時間の把握については、タイムカードなどによる正確な労働時間の確認に加え、副業・兼業の時間、宿日直許可の有無、自己研鑽の取扱いの3点が大きな影響を及ぼす。副業・兼業の時間は医師の自己申告等により把握することになるが、自己申告のルールや様式を定めて医師に文書等で通知しておくことが必要である。宿日直許可の有無に応じた労働時間管理は、宿日直許可を受けた業務内容を医師に事前に説明しておくことが重要である。自己研鑽の取扱いは、所定労働時間外に上司の明示・黙示の指示による勤務であるか否かで判断する。医局会等で医師の自己研鑽の労働時間該当性のルールを十分に話し合って決めることが大事である。
面接指導については、医師の働き方改革の根幹となる部分であるが、月100時間以上の時間外・休日労働がある場合、A水準も含めた全ての医療機関で実施する必要がある。
また、B・C水準の指定を検討している医療機関にさらに求められる取組みとしては、医師労働時間短縮計画(案)を作成し、対象医師を明確にすることである。対象医師としては1.全ての医師、2.B・C水準の医師のみ、3.長時間労働が恒常的となっている診療科の医師のみ、の3パターンであるが、この対象医師が不明確であると、評価センターで評価を行うにあたり、正確に資料を確認することが難しくなってしまう。
さらに、これから評価センターへの申請手続きを行う医療機関が注意すべき点(A水準から特例水準を指定申請する場合)としては、評価センターの評価結果が出るまでに最低でも4か月程度を要するので、今年度中に指定を受けたい場合は10月までに申請していただきたい。9月6日時点の評価センターの受付件数は481件であるが、我々の予想ではもう少し受審する医療機関が多いと考えているので、不安がある場合は早めに申請してもらいたい。
○「医師の働き方改革と地域医療への影響に関する日本医師会調査(制度開始後調査)」の速報値8月20日から9月2日にかけて、全国の有床診療所および病院を対象として医師の働き方改革と地域医療への影響に関する調査を行った。速報値ではあるが、9月2日時点で3,526施設から回答があり、回答率は24.8%であった。北海道からの回答数は前回の225施設から9件増えて234施設であった。

前回調査よりも影響度合いが増している項目として、「救急医療体制の縮小・撤退を行っている」は1.2ポイント下回る3.1%であったものの、「検討している」を含めると1.1ポイント上回る5.4%であった。「手術件数が減少している」は1.1ポイント上回る10.9%であったほか、「小児医療体制の縮小・撤退を行っている」、「宿日直体制の縮小・撤退を行っている」、「外来診療体制の縮小を行っている」と回答した医療機関は、検討しているものも含めると、いずれも前回調査を上回る結果であった。
シンポジウム「医師の働き方改革の施行後の対応について」
「医療法第25条第1項に基づく立入検査について」
北海道保健福祉部地域医療推進局医務薬務課長 吉田 亮輔 氏
医療法第25条第1項に基づく立入検査の実施主体は都道府県と保健所設置市等となっている。この立入検査は毎年国から立入検査要綱と実施方針が示され、都道府県は国の方針を踏まえて検査を実施している。令和6年度は国の要綱に「長時間労働となる医師に対する面接指導の実施及び休息時間の確保等の状況」、国の実施方針に「労働時間が長時間となる医師の追加的健康確保措置の体制整備について、確認し、指導」がそれぞれ追加された。
今年度の立入検査において新たに確認が必要な検査項目として、「面接指導の実施」、「就業上の措置(時間外・休日労働が月100時間以上見込み)」、「就業上の措置(時間外・休日労働が月155時間超)」は「全医療機関」、「勤務間インターバル・代償休息」は「特定労務管理対象機関」を対象として追加された。この立入検査を受ける医療機関においては複雑な資料をそろえる必要があるため、本年3月15日付け厚労省事務連絡において示されている立入検査に関する説明動画を確認し、準備いただきたい。
「適切な労務管理について」
北海道労働局労働基準部監督課長 河合 博文 氏

宿日直許可取得後の適切な労務管理や研鑽のルールは、使用者(上司)と医師との間の相互理解が極めて重要である。世代や立場を越えて意見交換会を実施するなどし、相互理解を深められるようにしてもらいたい。
「特例水準の指定申請に係るポイントについて」
社会保険労務士法人オフィス小笠原札幌事務所所長・社会保険労務士 木村 光 氏
残業時間の上限規制は令和元年に始まっており、建設業や運送業、医療業界は5年の経過措置が設けられていたが、医療業界は経過措置後も特例水準が設けられた。特例水準の評価受審にあたっては、医療機関の基本情報に関する資料と「医療機関の医師の労働時間短縮の取組の評価に関するガイドライン(評価項目と評価基準)」の項目ごとの自己評価に関する資料を提出する必要があり、評価項目88項目中28項目(新規一部除外)が必須項目になっている。
特例水準の指定を受けるための申請であるとの考えを持って、わかりやすい資料を準備することが望ましい。また、現行の法律(労働基準法など)に合致しているか確認するとともに、特例水準を受けた後の自院の運営を意識して不足・不備のある書式を整備してもらいたい。不明な点は顧問社会保険労務士や医療勤務環境改善支援センターに相談しながら、準備してもらいたい。
「特例水準の指定状況及び令和6年度スケジュールについて」
北海道保健福祉部地域医療推進局地域医療課医師確保担当課長 本村 繁 氏
特例水準の指定の流れは、医師労働時間短縮計画案を作成して医療機関勤務環境評価センターの評価を受審し、評価結果を含めた申請書類を北海道に提出する必要がある。北海道では9月14日現在で19医療機関を特例労務管理対象機関として指定している。令和6年度の特例水準指定スケジュールは4回予定しているが、第1回と第2回の申請受付は既に終了している。今年度中に指定を受けるためには最後の第4回の指定に間に合わせる必要があるため、これから申請の準備を始める場合は12月末までの申請期限に間に合うように、評価センターへの申請を急いでいただくとともに、事前に北海道や北海道医療勤務環境改善支援センターにも連絡していただきたい。
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