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女性外科医の出産・育児とキャリア継続との両立に必要なものは?/国家公務員共済組合連合会虎の門病院消化器外科 花岡まりえ

国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
消化器外科 花岡 まりえ


 女性医師の割合は増加傾向にあり、今後さらに増えていくことが予想され、一般外科でも年々増加し、女性外科医は外科医療には欠かせない存在になっています。しかしながら、出産や育児などのためにキャリアを継続できない女性外科医も少なくありません。 
 私は、医学部卒業までの 24 年間は札幌で育ち(札幌医科大学医学部平成 20 年卒)、研修病院として都内の総合病院を選びました。現在、卒後6年目の消化器外科医として更なる修練を積みつつ、1児の母としても奮闘中です。まだまだ医師としても母としても短い経験しか積んでいませんが、一人前の消化器外科医を目指すべく、出産・育児と外科修練の両立のためには何が必要であるかを考えてみました。 
まず、子育てにとっての全ての基盤は、職場の上司、同僚、医療スタッフの理解、夫など家族の協力です。妊娠期には、しっかりと体調を優先すべきではありますが、体調が許せば、積極的に手術参加、見学を行うべきです。私は、出産予定日の1か月半前までは手術に参加していました。最近は腹腔鏡での手術が増えているため、お腹が大きくても物理的にそれほど困ることはないと思います。 
 産前休暇は、特にギリギリまで働いてきた場合、体力回復、家の中の環境整備のため、最低4週間は確保すべきと思いますが、体調が許せば自宅で座学、論文執筆などは可能だと思います。医師になってからの 6 年間で初めて、1カ月余りの長期休み(産前休暇)をいただき、はじめのうちは何をしていいか分からず、時間を持て余し困ってしまいました。その挙句、これまでの忙しい日常業務でなかなか進まなかった論文執筆を再開し、結局産休中に仕上げた論文4編全て(海外の雑誌2編,うち1編は原著論文、国内の雑誌2編)アクセプトされました。 
 出産後は、特に早期復帰を考えているのであれば、まずは子どもとの信頼関係の形成にしっかりと時間を注ぐべきです。復帰後は、今まで以上に周りの協力を必要とします。私は、同じ職場の消化器外科医である夫のサポートや、院内保育園を利用し、産後2カ月からフルタイムで復帰し、産前と変わらず手術に入り外科修練を積んでいます。
 効率よく時間を使えば、手術の復習など自分の時間もある程度確保できると思います。
 毎日は難しいですが、時間があるときは保育園へ足を運び授乳を行っています。夫の帰りは遅いですが、朝は6時前に起きて子供をお風呂に入れ、家族全員7時前には職場へ向かうという生活を続けています。休日は私か夫かどちらかは極力時間を作り、子どもとの時間を大切にしています。半年を過ぎると母体からの抗体による抵抗力が減少し体調を崩すことも多いと思いますが、その際は病児保育のベビーシッターを利用しようかと思っています。極力、仕事を早退することはないようにしたいと思っています。 

 0歳の赤ちゃんがいるのに、仕事に時間を割きすぎでは?とスタンスに疑問を持たれる方も多いかもしれません。しかし、私自身母親が産婦人科、父も血液内科医の子供として生まれ、祖父母の多大な力を注がれて育ちました。休日や長期休みは父、母と楽しい時間を過ごした記憶が鮮明に残っています。「両親は楽しく仕事をしてそうだから、私のせいでそれが阻害されるのは申し訳ない。休日しか会えない週もあるが、そういうものだ」と理解していました。素直すぎると言えばそれまでですが、本当に何も疑問を感じずにそう育ちました。両親は、私と過ごす時はこれ以上にないくらい貴重な時間と思って接してくれていただろうし、また祖父母もまるでわが子のように育ててくれたからだと思います。ですので、自らの経験からで子どもとの信頼関係の構築のためには、接する時間数もさることながら、より質が重視されるのではないかと思います。私たちの場合も、現時点では日中は全て院内保育園にお世話になっていますが、仕事から帰ってきた後、週末など一緒に過ごす時間は大切に過ごしているつもりです。 
 では子どもを育てながら外科医としての仕事の継続、キャリアアップをはかるのに必要なことは何か? 
まずは、できるだけ早期に職場復帰するのは1つの手段だと思います。私くらいの年代の外科医は、外科専門医を取ったか取らないかの時期であり、できるだけ多くの手術を経験すべきだと思われます。また現在から卒後 10 年くらいまでの間に経験した症例の量、質がその後の外科医としての基盤を作るのではないかと思います。従ってこの先何年かは外科医の修練時期としてとても大切な時期を送るわけで、できるだけブランクは作りたくないのが実情です。私はなるべく勘を逃さないように、産休中に腹腔鏡の手術のビデオの復習を行っていました。産前4週程度、産後8週の合計3カ月のブランクはやむを得ませんが、その前後は体調が許せばなるべく貪欲に手術に参加すべきだと思います。 
 早期復帰のためには、まずは職場の理解を必要とし、上司、同僚、後輩、他職種のスタッフが子育てを応援してくれる体制にあるのとないのとでは大違いです。その点、私たちの場合は非常に恵まれた環境にあり、大変ありがたいことです。しかし、緊急手術、呼び出しには極力対応するスタンスで、事実夫に子供を預けて夜中に緊急手術に参加した日もすでに何回か経験しました。現時点では当直は行っていませんが、半年以降なら再開も不可能ではないため、検討しようと思っています。 
 また、院内保育園や託児所などのサポート環境も必須だと思います。特に私たちの場合は、勤務先近くの認可保育園はもちろん、認証保育園も空きが非常に少なく、院内保育園の場合は、仕事の終始とほぼ同じ時間に子供を送り迎えできるため、時間効率的に非常に良い上に、仕事で迎えが遅れても、院内 PHS からの電話で延長してくれるなど、融通も効きやすいです。 
 シングルマザーで頑張っている女性医師、夫が海外勤務などでどうしてもサポートが得られない女性医師も知り合いに複数名いますが、そのような場合を除いては、子育てに関する問題は、夫を含めた家庭で共有すべきです。私たちの家庭では夫も積極的に子育てをしていますが、それは当然のことだと考えています。なぜなら、私も夫と同じ職場で、内容は若干違うにせよ同じように手術に入り、検査をし、病棟管理をしているのですから、子供を含めた家庭のことも同等に行うのが我が家の暗黙の了解であり、実際そのように行われています。これは、何も私たちのように同じ職場で働いている夫婦同士だからではなく、別の職種でもワーキングマザーの子育てという点では、変わりないはずです。 
 女性外科医のキャリア継続にとって早期の職場復帰は一つの手段であり、そのためには職場の理解、夫を中心とした家族の協力、院内保育園などの環境の充実が必須であり、さらなる改善の余地はあると思いますが、充実した環境が整えば、外科医としてのレベルアップと育児との両立も不可能ではないと思います。ちょっと貪欲すぎだと言われるかもしれませんが、このようなスタンスで頑張って行こうと思っている女性外科医もいることを知っていただきたいし、そういった立場からは子育てと仕事の両立にとって何が必要なのか、この場を借りて提案させていただきました。 
 最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。 
 より多くの女性医師が幸せに仕事が継続できますように。 

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