体験談

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子どもの育ちを支える次世代子育て支援/岩見沢市立総合病院 小児科 藤根 美穂

岩見沢市医師会

岩見沢市立総合病院 小児科 藤根美穂


 私の3人の子どものうち、上の2人がまだ幼児だった頃、私はシングルで大学院生だった。親も兄弟も近所におらず、院内保育所もなく、とても大変な毎日だった。朝5時に起きて朝と夕の食事を作って食べさせ、掃除をして出かける。帰宅後も大急ぎで食事を食べさせ、風呂に入れながら洗濯をし、寝かしつけると自分も一緒に寝ていることが多かった。学会での発表を命じられても、満足な準備などできたためしはなかった。


 それでも保育ママさんや、社会保険事業の子育て支援などで助けられながら、何とか日々暮らしていた。子ども達を預かりながら、時には私の分まで食事を用意して下さる方もあり、帰宅後絵本を少し読み聞かせる時間があったり、気持ちにゆとりをもってお風呂を楽しんだりすることができた。一方で、「睡眠時間が短いと情緒不安定な子供になりやすい」という神経グループの研究発表を、働く母たちがそんな時間に寝かしつけるのは容易ではないのに、と思いながら聞いていたりもした。


 そうして育てた長女は、この春から札幌市内の大学へ進学する。私も今は縁があって日本医師会男女共同参画委員として働き、道医師会では(もうあまり若くないのに!)勤務医部会若手医師専門委員にも加えていただいている。そして医療の全ての分野で次第に増える女性医師、共に働く男性医師、その両者がそれぞれ満足できるワーク・ライフ・バランスの中で仕事を続けていくにはどうしたらいいのか考えている。

 これまでの流れで、子育てに関しては働く時間をフレキシブルにすることや、子どもを預ける場所の確保、上司の理解などが必要だということがわかってきた。でも、それは働く人の側から見た問題で、子どもの立場になってみるとどうだろうか。子どもには自分をいつも大事にしてくれる大人の存在が欠かせない。それは必ずしも父母でなくてもよい。親友や先輩、信頼している先生、近所の大人たちとの関係は、あまり十分ではないかもしれない親との時間を補完してくれるだろう。歴史的にはごく最近まで母達の家事労働は厳しく、農業労働等にも従事していたから、今のように子育てに十分時間の使えるわけではなかった。そうした中で土門拳の写真にあるような子ども同士の縦のつながりが子ども達を包んでいたが、少子化や地域の関係の希薄化などで子ども同士のつながりは弱くなっている現在、自然発生的な関係性形成の希薄化をどう補うかという視点が、親だけでなく子どもたちの側の問題として必要になるのではないかと思う。

 一般に、同じところに長く住んでいられれば人間関係は次第に広く深くなりやすい。妻が主婦で、医師である夫が単身赴任をするスタイルではその点では安定するだろうが(別な問題がないとは言えないが)、女性医師が子どもを養育するとなると、多くは転勤に子どもを一緒に連れて行く場合が多いだろう。そのたびに子どもたちは関係性を断ち切られる。主婦も同じで、引っ越すたびにつながりが途切れることは非常に辛い。医師として、転職すれば職場で関係性が待ち受けていてくれるのだからよほど楽である。医師に限らない問題だが、最近は転勤を減らそうという一般企業も現れてきたようで、配慮する流れができつつあるのかもしれない。


 女性医師でも地方病院で活躍できるようでなければ、地方での医師不足はより一層加速するだろう。子どもを連れた女性医師、もしかすると年老いた親を伴った女性医師が赴任するかもしれない。そうした事態を自治体は予測しているだろうか。


 子どものことに限定して考えるとしても、預け先があることや宿舎があることなどは点での支援でしかない。けれど生活はそれらがつながって線を作り、地域へ広がって面となる。保育園から家までどうしよう、朝晩の食事や入浴、病気の時はどうしよう。点をつないだ一繋がりの「生活」が保障されなければ、安心して仕事をすることはできない。それは実際医師だけに限った問題ではないが、地域の医師不足をどう打開しようかという時に私は避けて通れない問題ではないかと思う。


 家事の全てを自分でと思えば、子どもを寝せる時間も自分の休む時間も遅くなる。まして夜呼び出されれば、子どもを家に置いてどうやって病院へ戻ろうか。札幌以外では子どもを見てくれる家政婦さんなどなかなか見つからない。夜中に突然お願いできる育児サポーターもいない。でも例えば地域で親子の生活を抱え、点をつなぐ支援までお願いできれば女性医師でも、子どもがいても、しっかり働けるのではないか。例えば祖父母代わり、兄弟・親戚代わりの関係性をより積極的に作るつもりでの医師招聘ということを具体的に考えるのは不可能なのだろうか。それは医師である親を支えるだけでなく、子どもたちへの支えにもなるだろう。


 働き盛りが働くのは、性別に関係なく大事なことだ。一方で子どもが健全に育つためには、周囲のたくさんの人の関りが必要だ。ことに北海道は本州からきて医師になる女性も多いので、実祖父母や兄弟に頼らない子育て支援をしなければ、彼女らは本州の地元に戻ってしまうだろう。


 子育てで受益するのは世の中全体である。私たちは全ての子どもを自分の子どもと思って支援する覚悟で、この次の世代の支援を考えていく必要があるのではないだろうか。

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