体験談

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職場復帰体験、家庭と仕事の両立/平子 陽子

※当相談窓口に海外在住の女性医師より、北海道に一時帰国した際に小児科医師として働きたいとの相談がありました。ご実家への里帰りの期間だけでしたが、小児科医師として岩見沢市立総合病院に勤務され、院内保育所を利用して、札幌市から岩見沢市までの遠距離通勤をお子様連れでされました。先生から、その時の体験談を頂戴しましたのでご紹介します。

         



 今回、妊娠中の休職後から約4年ぶりに小児科診療に従事させてもらいました。    平子陽子

 


 私は臨床研修制度開始年度の卒業で、2年間の初期研修後に小児科教室に所属し、道内の公立病院を中心に研修と勤務に携わってきました。


 10年が過ぎ、結婚から約8年目で妊娠を契機に現場を離れました。勤務中は消化器内科医の夫と、時には別居し、時には同居しながら、ワークライフバランスに疑問を感じつつ過ごしていました。互いの勤務医歴10年が過ぎ、夫の転職希望も重なって、出産を契機に現在は海外に滞在しています。

 

 私自身、休職後も小児科医としての勤務復帰への想いは少なからず、むしろ子育てを通して小児科医師としても学ぶことは多く自分の過去の診療への省みる思いも沸いていたので、夫を海外に残して3歳の娘との一時帰国中に、1か月という短期間ではありましたが岩見沢市立総合病院小児科で勤務できることが決まり、不安はもちろんありましたが嬉しい気持ちが勝っていました。過去の事例のない状況で受け入れてくださる判断をしていただいたことに本当に感謝しています。


  それもつかの間、現実は喜んでばかりいられない状況でした。

 いざ帰国して勤務となると、一つ目には現場を離れてからブラッシュアップできていない自分への反省と焦り、二つ目に日本の夏休みの期間を選択したので北海道は旅行シーズン、実家のある札幌市からの通勤が最大の問題でした。

 娘に日本の保育園も体験させたかったので同伴での通勤は願ったり叶ったりな状況ではありましたが、電車とバスを乗り継いで約2時間かかったのには現実に打ちのめされるとはこのこととばかり、車内でぐずって叫ぶ娘に勤務をあきらめようかと思うほどでした。


 今回の帰国便のフライトでも相当ぐずっていたので覚悟はしていましたが…。レンタカーを借りるにも繁忙期で難しく、あきらめかけた頃になんとか借りられることができました。幸いにも駐車場も運よく手配でき、準備を整えました。


  勤務は平日日中の週3日程度でしたが、毎日がめまぐるしくも充実していました。


  まだ眠たげな娘を乗せて片道1時間運転し、泣いて嫌がる娘を保育園の先生方に託し、勤務時間が始まると、目の前の患者さんを診ていたらあっという間にお迎えの時間を過ぎてしまうこともありました。

  帰りの車内では眠くて空腹もあり不機嫌な娘をなんとかなだめて帰宅し、夕食は実家の母に甘えて食べさせてもらい、入浴を済ませて娘を寝かしつけるのと一緒に寝てしまうこともありました。準備不足で現場に戻ったのは否めず、寝付かせた後専門医のためのオンラインセミナーを聴講したりして過ごしました。

離れていた現場の甘くない空気にも触れ、久しぶりの電子カルテ、保険診療、4年の間に進歩した薬剤や治療方針、検査についていくのに精一杯で、かつ自分の診療スキルの低下も実感し、現場の先生やスタッフには本当に迷惑をかけつつ助けてもらいながらでしたが、楽しく勤務をさせてもらいました。私の希望で外来診療、乳幼児健診を中心に患者さんの診療をさせてもらいました。現在、海外からこうして体験記を書いていて再び別世界に戻ってきたことに不思議な感覚を抱いています。

そして私の場合、勤務中は家事を実母に手伝ってもらえたので、仕事と育児の両立が可能になったと言わざるを得ません。今回の影の功労者です。


 院内保育園で給食が利用できたのも大きな助けになりました。利用する機会はありませんでしたが体調不良等の万が一に備えサポート体制を上司の先生が考慮してくださっていたので勤務する上で大変心強かったです。実際そんな状況でも、割り切れない性格もあって現場に対しても娘(子育て)に対しても常に後ろ髪をひかれる思いがありました。子連れ勤務のあるあるですが、通園後もれなく娘も風邪をひいて熱を出し、実家の母に娘を預けて私だけ通勤した時には胸が痛みました。どちらも中途半端にしたくないけれど現実的に両立、加えて家事をこなすことは本当にたやすくないのです。職業は違いますがシングルマザーで私を育ててくれた母、世の中の働く母達を改めて尊敬する機会にもなりました。



 今、私が滞在しているニュージーランドでは、子どもがいる親(母であれ、父であれ同格です)が看病で仕事を休む機会があることを当然のことと職場や社会が受け入れているのを目の当たりにして、病児保育が整う地域で働けたことのありがたさを感じつつも日本の労働環境の方向性に疑問を抱いています。


 しばらく現場から遠のくといろいろな面で復帰のハードルが高くなってしまいますが、実現できたことは私にとって大きな収穫でした。


 今回このようなコーディネートをいただけたことを担当者の方にお礼申し上げます。また受け入れを承諾いただいた方、そして私と娘に勤務中関わっていただいたすべての方々に感謝申し上げます。

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