うつ病治療 新時代

日本の自殺者数はついに年間3万人を超えましたが、これは大変な社会的損失と言わざるを得ません。自殺者の中には、うつ病患者が数多く含まれているのは確実と思われます。うつ病は治る病気ですが、対応を誤れば自殺に結び付くという点で恐ろしい病気でもあるのだ、ということをぜひ理解してください。
 うつ病を適切に治療することは、自殺を減らすという観点からも重要ですが、最近、従来の薬とは異なった特徴を有する新抗うつ薬が導入され、うつ病治療の様相が大きく変化しました。それがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。
 人間の脳では細胞から細胞に神経伝達物質が移動することによって情報が伝達されます。幾つかの神経伝達物質のうち、うつ病ではセロトニンの働きに異常のあることが示唆されており、SSRIは特異的にセロトニンの働きを回復させてうつ病を治すのです。
 従来の抗うつ薬は、眠気、ふらつき、口渇、便秘、排尿困難などの副作用が出やすく、十分な量の服用が困難となることが少なくありませんでした。SSRIでは、このような副作用がほとんどありません。従って、お年寄りにも使いやすい。
 また、抗うつ効果も大変優れていますから、海外でSSRIが爆発的に売れたのも当然のことと思われます。
さらに、この薬は気分変調症(軽いうつが年余にわたって続き、社会適応能力が損なわれる。最近まで根暗な性格と考えられていた)にも効果があるため、アメリカでは暗い性格を明るくする薬としても宣伝され、人気を博する要因の一つとなったのです。
 欧米で用いられているSSRIは4種類ありますが、本邦では最近フルボキサミンが2社から同時に発売されました。
 他のSSRIも近々発売される予定であり、うつ病治療は新時代を迎えたといっても過言ではないと思われます。

 [角 哲雄,恵愛病院副院長]


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