早期大腸癌の内視鏡的治療

 近年、食生活の欧米化に伴い大腸癌(がん)の増加は著しく、胃癌による死亡率を抜く勢いである。このため、一般的な大腸癌に対する関心も高まり、便潜血反応をはじめとした検診が広く行われるようになったが、いまだ進行した状態で発見されることも少なくない。このことは、大腸癌を早期に発見し治療することがいかに重要かを示していることにほかならない。進行癌の治療は他に譲るとして、今回は早期大腸癌の治療に絞って話を進めていく。
 早期大腸癌とは大腸壁の第二層まで、すなわち粘膜内(m)もしくは粘膜下層(sm)に癌がとどまっているものと定義されている。
癌の治療は原則として内視鏡的切除(高周波電流による焼却)によりなされる。この根拠は現在まで癌の転移例がほとんど存在しないということによる。従って、癌の治療は取り残しがないように内視鏡的に切除することに集約される。
 sm癌の場合は癌の場合とやや異なる。この理由は粘膜下層(sm)にどの程度癌が食い込んでいるかによって、治療の選択が異なるからである。smに食い込んでいる程度がかなり浅く、リンパ管や血管への癌の食い込みがない場合には、統計的に、ほとんどリンパ節への転移がないことが確認されているため、内視鏡的切除が可能である。
 しかし、同じsm癌でもやや深く癌が食い込んでいる場合には、癌の転移の可能性があるため、内視鏡的切除の対象とはならず、腹腔(ふっこう)鏡下の手術もしくは開腹手術となる。
 内視鏡的治療の利点は、手術的治療に比べて短期間の入院で済むこと(外来で行うこともある)、手術創がないこと、短時間で終わること、苦痛がないこと、治療費が安いこと―などが挙げられるが、解決すべき課題も多い。
 最後に大腸癌の予防という観点からは肉食、喫煙、飲酒を控えることが必要であるが、最も大切なことは早期発見である。早期大腸癌はほとんど自覚症状がないため、定期的な大腸癌検診がぜひとも望まれる。

[佐藤 喜夫,医療法人内科消化器科サンクリニック院長]


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