物忘れについて

 人間誰でも40歳を過ぎると、物や人の名前が出にくい、つまり物忘れの状態が気になってくるものです。
 記憶は側頭葉の海馬(かいば)に集められ、多くの記憶は大脳新皮質に、運動系の記憶は小脳へというように情報が分類されて蓄積されます。記憶を思い出すという作業は、海馬から前頭葉に必要な記憶が渡されて完了しますが、海馬での整理がうまくできないと、記憶が戻らないということになります。これを想起(そうき)障害と呼んでいます。
 40〜50代の方が、若い頃に比べて物忘れ、物覚えが悪いというのは、年齢とともに記憶の量が極めて多くなるために記憶の引き出しが無数にあり、記憶の整理を担う海馬の仕事が追い付かないという事情によるものですから、それほど若い人と差があるわけではありません。物忘れに対してボケの始まりかと悩む前に、物忘れにも大きく分けて2種類あることを理解する必要があります。
 〈生理的な物忘れ〉人の名前や地名が思い出せない。前日の夕食に何を食べたか思い出せない、といった物忘れは、前述の想起障害であり、心配する必要はありません。
 〈病的な物忘れ〉痴呆(ほう)の8割はアルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆によるものです。病的な物忘れは、なじみある人や地名自体を理解できない。夕食を食べたこと自体を思い出せない、というように、出来事の内容の記憶ではなく、出来事そのものを思い出せないというものです
 アルツハイマー型痴呆は神経細胞が急速に減り、脳が委縮する病気ですが、原因は明らかになっていません。最近は治療薬が使用されていますが、病初期には有効ですが、進行例では効果が期待できないようです。
 脳血管性痴呆は、脳梗塞(こうそく)や脳出血といった脳卒中を原因としているのですから、予防的治療、初期治療による症状改善の期待を持つことができます。
 いずれの病気も、早期の診断がより有効な治療へと結び付きますので、
C
scanMRIなどの画像診断とともに、専門医による診断が必要です。

[宮町 敬吉,宮町脳神経外科クリニック院長]


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