血圧よもやま話

高血圧症は身近な病気の一つですが、血圧が測られるようになって実はまだ100年そこそこです。そこで簡単な歴史を紹介しながら、血圧について知っていただきたいと思います。

 最初に気付いたのは紀元前中国の人で、「強い脈は病的」 「塩分の取りすぎは脈が強くなる」など古文書にあるそうです。その後、約2000年大きな発展はなく、19世紀末にやっと今と同じ方法での血圧測定が始まりました。当初高血圧の善悪は不明でしたが、徐々に高いと脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞など多いことが分かり始め、血圧測定が普及したのは20世紀半ぱになってからでした。

 そのころ、初めて血圧を実社会に利用したのは生命保険会社で、契約時に血圧を測定したそうです。当時から高血圧が生命のリスクと考えられたわけで、今でも保険契約時には健康チェックがありますね。

 20世紀後半以降は「高血圧は本当に悪か?」 「下げた方が良いならどこまで下げたら良いか?」の検証が行われました。最も信頼性が高いのは大規模臨床試験という方法です。年齢、性別などの割合をそろえて、大人数のグループを二つ作ります。一方のグループだけ血圧を下げて一定期間データを集めます。もし血圧を下げることに意味があれば何か良い変化が出るはずです。

 1960年代、最初の試験では拡張期血圧(下の血圧)115mmHgで区切って検討し、血圧の低い方が良いことがすぐ分かりました。高い方が圧倒的に病気になる確率が高かったのです。日本でも福岡県久山町で優れた研究があり、その結果は現在の高血圧基準(収縮期血圧140/拡張期血圧90)の基礎となりました。その後も新薬を使った様々な試験で、血圧が低いほど良い結果が多く、最近では120台/70台まで下げて良いという結果がいくつか出ています。

 というわけで血圧は、「the lowerthe better」(低ければ低い方が良い)という考え方が一般化しつつあります。費用対効果を考えると極端に下げる必要はありませんが、高血圧の治療目標はおおよそ13080前後が無理のないところだと思います。実際は年齢や持病によって変わりますので、心配な場合は医師に相談してみましょう。

 [鈴木啓弘,鈴木内科]


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