皮膚にある黒いできものの中には、いわゆる「ほくろ」(色素性母斑)以外で注意を要するものがいくつかあります。その代表的なものとして悪性黒色腫(マリグナント・メラノーマ‥略してここではメラノーマとします)が挙げられます。メラノーマは色素細胞の癌で悪性度が高く、高率に遠隔転移(皮膚以外のところ、リンパ節や他の臓器への転移)をすることが知られています。
この悪性度を決める要素として、深達度(皮膚のどれくらいの深さまで入り込んでいるかという度合)が最も重要です。表皮内(皮膚の一番外側の部分の中)にとどまっているものであれば、手術的に取り除くことが可能で、その後の経過も良好なのですが、真皮(表皮の下の部分)の下層から皮下組織にメラノーマが達していると、リンパ管や血管に入り込んで他の場所へ転移を起こしやすく、危険度も増していきます。
したがって、深く入り込む前に早く見つけることが大事な鍵となるわけです。しかしながら、むやみに心配しすぎることはありません。皮膚の黒いできものの大多数は、色素性母斑や脂漏性角化症(いぼ状の黒いできもの)などの良性のものだからです。
そこで、昔からある有名なメラノーマの見分け方をご紹介したいと思います。臨床的特徴からメラノーマのABCDEといわれるもので、「A」はAsymmetry…左右非対称、「B」は…といっても少々分かりにくいので、それを日本語で分かりやすくいきます。
①「い」…いぴつな形(まん丸ではない)。
②「は」…はじ(辺縁)がにじんでいる、ぼやけている。
③「い」…色にむらがある(真っ黒ではない)。
④「お」…大きさが6ミリ以上(鉛筆の太さが約6ミリなのでイメージしてください)。
⑤「も」…盛り上がり。
以上の5点です。頭文字をとって「い」「は」「い」「お」「も」、少々不謹慎かもしれませんが、「位牌重い」と覚えてください。
この見た目の特徴以外で一番重要なことは、経過として「急に大きくなる」ということです。いわゆる「ほくろ」が1年で倍の大きさになるということは、まずありません。
あと、「足の裏のほくろは要注意」とどこかで聞かれたことがあるかもしれませんが、誤解されている面もありますので、少し解説します。
確かに日本人のメラノーマの発生部位として足底がやや多いというのは事実ですが、メラノーマはどこの場所から出ても不思議ではありませんし、足底の「ほくろ」(色素性母斑)が悪性化、すなわちメラノーマになるというわけではありません。
足の裏を普段まじまじと観察する機会は少ないでしょうし、発見が遅れやすい場所であることと、全体重が掛かり刺激を受けやすい場所であるということから 「要注意」なのだと理解してください。
最近ではダーモスコピー(皮膚を拡大して観察する接地顕微鏡のようなもの)の導入によって、色素病変の診断技術は進んできましたが、何より大切なのは、まず自分の目でまじまじとよく「見る」ということです。
[山内利浩,室蘭皮膚科クリニック]
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