在宅医療のすすめ

「どうなるのかとずっと心配していたのだけれど、想像以上に穏やかな最期でした」「やっぱり自分の家だと安心だったみたいだね。これで良かったなと思っています」

これは、つい先日、私のクリニックから訪問診療(往診)を行っていた患者さんが癌(がん)で亡くなったときの家族の言葉です。悲しみと緊張感が漂う一方で、ほっとした思いと充実感のある表情を浮かべながら素直に語ってくれました。

昔は当たり前だった自宅での長期療養や死が、今では施設や病院に移ってしまい、すっかり珍しいことになりつつあります。家族のありようが大家族から小家族に変わり、高齢での独居や夫婦二人暮らしが増え、病人を家族で支えることが難しくなってきたのが時代背景にあります。しかも、日本は病院の数が諸外国よりも多く、入院しやすかったという特殊事情もあったといわれています。

現在、いったんすたれていった在宅医療の世界に、また光が当てられつつあります。国の政策として「在宅医療の推進」が掲げられ、特に「在宅ターミナルケア」、つまり自宅でも看取りを推進しようとの声が上がり 〈在宅療養支援診療所〉という制度も設けられました。西胆振では当院も含めた3施設が登録され、冒頭にご紹介したような医療を提供させていただいています。

最初は「何かあったらと心配で…」としり込みされるご家族が多いのですが、介護保険をうまく使った自宅での生活への支援、そして訪問看護・訪問診療を通じて看護師や医師が自宅をまめに訪れて対応する医療制度を知ると、「やれるかな?」と思っていただけるようです。もちろん、実際に在宅療養が始まると戸惑いも多いのですが、患者さんの笑顔や満足の言葉に家族は喜びを感じ、やりがいが生まれ、介護も軌道に乗ります。

病気で体力が落ちてしまったご両親や連れ合いの方が退院を求められたとき、勇気を出して在宅療養を選んでみませんか?

[草場鉄周,室蘭・本輪西ファミリークリニック院長]


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