介護のお話

10年ほど前、知人の依頼を受けて『介護におけるリハビリテーション総論』を講義する機会を得た。以来何度か同様の講義をいろいろな場所で繰り返し行なった。また時には、口腔(こうくう)機能を維持することが介護者にとって重要であることも話した。その経験から、現実に自分の寝たきりの家族を介護する場合の重要なポイントについて述べてみたい。

整形外科的には、まず関節の拘縮が問題となる。自分で四肢、体幹を動かせる方は、まだ良い方だが、ほとんど寝たきりの方は家族が関節を動かしてあげないと正常な可動域を維持することは難しい。衣服の着替えやおむつの取り換えに必要な最小限の可動域となっている方が多いのではないかと思うが、できれば正常の半分の可動域は維持してあげたい。特に嚥下(えんげ)の問題から考えると首が後ろに反り返ったまま拘縮するのは避けたいものだ。

 皮膚の創も早めに対処したいものだ。数時間でも良いので、小まめに体位交換(向きを少し変えてあげる)を予防的に行い、発赤があったら要注意。暗赤色になってきたら、早めに専門医にみせて治療のアドバイスを受けるべきだ。

 口腔機能の維持も大切である。まず唾液がスムーズに流れるようにいつも口腔内を清潔に保つ。発声できる人は歌や会話も大切です。できない方は深呼吸や首のぐるぐる回し、嚥下体操も有効です。歯ブラシ等の道具を使った口腔ケアも活性化に役立ちます。表情筋を用いた笑いの表現は、免疫機能も高めます。

 嚥下の問題はデリケートで、なかなかクリアできない課題です。誤嚥性肺炎を繰り返す場合は早めに胃を造設し、栄養を確保したうえで、嚥下訓練を続けるのも一考と思われる。

[鴨井清貴,室蘭・鴨井整形外科院長]


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