鼻血が出たら

「おじいちゃん、鼻血が出た!」と孫に言われたおじいちゃんは、「このちり紙でツッペしろ」とティッシュを棒のように硬くして鼻につっこみ、「のぼせたかぁ?」とお風呂に入ったわけでもないのに鼻を氷嚢(のう)で冷やし、「こうすりゃ止まるぞ」と無理矢理首の付け根を空手チョップ。「あおむけになって落ち着きなさい」と仰臥(ぎょうが)位にする。「よし、これで血は止まった」と安心するおじいさん。でも少ししてから、「おじいちゃん、気持ち悪くなってきた」と吐血。これは一大事だと…。

このようなエピソードをよく聞きます。皆さんは手や足にけがをして出血したらどうしますか。もちろん、出血点を直接圧迫です。出血点が分かれば止められます。鼻出血では外鼻孔(鼻の穴)から血液が流れ出てくるのが見えますが、実際の出血点は見えません。鼻出血止血のための第一歩は、出血点はどこなのかを知ることです。

鼻出血点の90%はキーゼルバッハ部位です。この部位は鼻中隔の前方にあり、たくさんの動脈が集まっていて小さな傷でも大量に出血します。キーゼルバッハ部位の位置は外から見ると鼻翼(小鼻)よりやや鼻根部寄りの高さにあります。この部分は鼻骨がないので軟らかく、外からの圧迫で容易に鼻出血点を圧迫できます。鼻出血時にはこの部分を人差し指で強く圧迫すると効果的です。完全に止血するには10分から15分間の圧迫が必要です。

外鼻孔から硬く棒状にしたティッシュを鼻の中に入れるとキーゼルバッハ部位に大きな傷をつけてしまう可能性があります。詰め物をする場合は綿花を用いて、小鼻を越える位置まで挿入してください。ただし綿花が小鼻から外鼻孔側にあると鼻血を外鼻孔でせき止めることになり、血液は鼻腔(くう)の後ろに回り後鼻孔からのどに流れ落ちるので注意が必要です。

止血のつもりで極端に冷やすと血液の凝固時間を延長します。血液は15℃以下に冷やされると急に凝固しにくくなるので、氷嚢では冷やさない方がよいです。

首への殴打は脳振とうを引き起こすことはあっても鼻出血は止められません。絶対に行わないでください。

あおむけに寝ると、出血が続く場合には後鼻孔よりのどへ血液が流れ嚥下(えんげ)してしまい、吐き気・おう吐の原因になります。鼻出血時は座位で少し前かがみの姿勢になった方がよいです。

鼻風邪(急性鼻炎)、アレルギー性鼻炎などの鼻粘膜の炎症や慢性的に鼻をこする習癖で鼻出血しやすくなります。一度鼻粘膜に小さな傷を生じた場合は、普通の傷が治るようにまずかさぶたができ、かさぶたがまとまり、かさぶたが剥がれて傷は治癒します。かさぶたを『鼻クソ』と間違えて鼻をほじるとかさぶたが剥がれ鼻出血します。かさぶたがまとまっていく際にはかゆみが生じ、つい鼻をこすってしまいがちです。鼻出血後は、傷が完全に治癒する1週間ほど気をつけなければなりません。再出血を繰り返した場合は、圧迫だけでは完全には止血できず、電気凝固・薬剤による腐食によって血管を焼灼(しょうしゃく)することがあります。

出血傾向を生じる病気の方や血液をサラサラにする薬を内服中の方は止血に時間がかかります。うまく止血できない場合は耳鼻咽喉科医にご相談ください。

[横山貴康,よこやま耳鼻咽喉科・眼科クリニック院長]


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