肥満の陰に隠れて

 肥満とは、身体における脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり、原発性(単純性)肥満と二次性(症候性)肥満に分類される。
 単純性肥満の原因は過食(エネルギーの過剰摂取)、運動不足(エネルギーの利用不足)、熱産生低下と考えられている。また、単純性肥満は肥満の90%95%を占め、糖尿病、高血圧、虚血性脳疾患、虚血性心疾患、高脂血症などの危険因子として働いている。
 一方、残り510%を占める症候性肥満は、単純性肥満の陰に隠れ、見過ごされている可能性がある。今回はこの症候性肥満に焦点をあててみたい。

●クッシング症候群

 副腎からの慢性のコーチゾール分泌過剰によって引き起こされる。この病気の肥満は、躯幹(くかん)を中心に呈し(中心性肥満)、下部頚椎(けいつい)部の脂肪沈着は、水牛のこぶに似ていることから水牛背と呼ばれている。
 一方、四肢、特に下肢は皮下脂肪増加がなく、また筋肉の萎縮と相まって細くなる。その他、下腹部に赤紫色の皮膚線条、満月様顔貌、赤頬、ニキビ、多毛、高血圧、糖尿病などを呈する。

●多嚢(たのう)胞性卵巣症候群

 無月経、多毛、肥満を呈し、不妊の原因となる。

●インスリノーマ

 膵腫瘍(すいしゅよう)より血糖と無関係にインスリン過剰分泌する病態である。肥満は空腹時に生じる低血糖発作を防止するために過食に陥るためである。低血糖発作の症状としては頻脈、冷汗、意識障害=傾眠、昏睡、不穏状態、けいれんなどである。

●甲状腺機能低下症

 甲状腺ホルモンの不足、あるいは作用不足によって起こる。この病気の肥満は脂肪組織の沈着と言うよりも、ムチン様物質、ムコ多糖類等の沈着および水分蓄積によるいわゆる粘液水腫による。
 顔貌は浮腫様で、眉毛の外側が薄くなり、皮膚は乾燥し、寒さに弱くなる。倦怠感、無気力感、便秘、脱毛、言語動作の緩慢、記憶力の低下などの症状を呈する。

 内分泌性肥満は症候性肥満の中では最も頻度の高い肥満であり、治療可能な疾患であるので、おかしいと思ったらご相談下さい。
 最後に、急速な体重増加は水分貯留による浮腫である可能性が高いので、太ったと思わないで治療を受けて下さい。

[西里 弘二,西里内科循環器科医院]

 


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