老いと健康

 老いとともに人は肉体上、精神上いろいろな障害や不安が生じてきます。眠れない、通じがつきにくい、物忘れをするようになった、などです。

 このような訴えに、私は「眠れなくなっても薬に頼りすぎないこと。その分本を読めます」「食べるものが少なくなった分、排便も少なくなります」「物忘れする分、不愉快だったことを忘れます。いずれ訪れる、死を迎える恐怖を和らげる、神様の摂理ですよ」と話しています。

 先般、室蘭民報の「視点」欄に、「美しく老いるために」という文が掲載されました。非常に示唆に富んだ、教えられることの多い文章でした。その中に「自分の思考や行動を失った時、人は老いる」として、「朝起きて何かやる仕事がある」ことが最も必要な条件である、と書いてありました。

 人の肉体は、六十代、七十代と確実に衰え、機能が低下してゆくのは当然です。しかし、高齢者となっても、地域社会に何らかの形で参加することが、生きている実感をもたらすのです。忘れられようとしている古くからの生活の知恵、自然と人間のかかわり、ボランティアとして室蘭の歴史を語り継ぐなど、青年たちに伝えてゆくのは高齢者の務めです。

 年配のご婦人たちの「源氏の会」は、先般二十三年間かけて、独力で源氏物語五十四帖を完読し、大学の先生を招いて記念講演会を開きました。「メダカの学校」という、童謡、唱歌を歌う会は、年長者は八十代ですが、いろいろな記念イベントに参加し、明年の白鳥大橋開通の時には、他町村まで出掛けて、共に「白鳥大橋賛歌」を歌おうと張り切っています。

「健康教室」という、具体的なテーマからは離れたかもしれませんが、肉体的に失った機能を嘆かず、あるがままの自分を見つめ、生きる喜びを満喫することが、高齢者の精神的な健康に最も望まれることなのです。

[ 上田 智夫,上田内科医院 ]

 

※この原稿は平成9年度に書かれたものです。

 


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