「化学物質過敏症」ってどんな病気

表題の本を書店で見つけ、購入したのは199351日のこと。一読して、あまりに原因が文明の発展と同調している事実を知って、困惑の思いにかられました。それ以来、事態は改善するどころか次第に重症になってきているのは確実で、日常の診療で、これが原因ではないかと思われる症例が、増加の一途をたどっているようで心配です。

 この本の冒頭に今、日本にでは10人に1人、つまり1000万人を超える人たちが「化学物質過敏症」を引き起こして自分自身でもよく説明ができない体の不調に悩んでいると書かれておりましたし、さらに医師にとっても患者が訴える症状の原因がよく分からないために、根本的な治療がほとんど行われないままに放置されていますとも書かれていました。

 「化学物質過敏症」についてはすでに、9127,8,9日と3日連続で、NHKTVで放映されました。題して「アレルギー、体は警告する」「アレルギー、豊かさが生んだ現代病」となっておりました(このビデオをご覧になりたい方は、当院待合い室でお見せします)。これによって分かることは、私たちの体自体が、気が付かないうちに次第次第に大きく変化してきているということです。

 有害な化学物質の摂取がごく少量であれば、体は慢性的なアレルギー症状を起こします。

 しかし今、これまで問題とされていなかった超微量の有害化学物質が引き起こすさまざまな症状が、世界の医学界の最先端で明らかにされてきています。それが「化学物質過敏症」なのです。

 ここで身近な例を一つ挙げてみましょう。台所のゴキブリを殺すために、スプレー式の殺虫剤を十数回吹き掛けたとします。これを何日か続けると、ゴキブリは死んだものの、台所の換気がよくなくて、そこの空気1立方メートル中に1マイクログラム(100万分の1グラム)の薬剤が残っているとしますと、台所仕事をしているうちに頭が痛くなったり、体がだるくなったり、ふらふらして、ときに吐き気を催す人も出てきますが、すべての人に起こるものではありませんし、また、殺虫剤をまいたことすらすっかり忘れてしまっていたり、まさか殺虫剤が原因とは考えないのではないでしょうか。

 こうした化学物質が使われている主な商品には、医薬品、食品添加物、化粧品、プラスチック製品、防虫剤、農薬、合成洗剤、塗料、接着剤、防炎剤などがあります。 

 私たちは、健康保険制度という安い医療費のために、逆に自分の健康管理を人任せにしてしまっているようです。健康維持のためには、生活の質がよくなければなりません。それには、健康を買う習慣をつけるべきではないでしょうか。

[ 池田 洋二,池田みみ・はな・のどクリニック幸町分院、中医クリニック ]

 


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