スポーツトレーニングとスポーツ障害

今春、行われた冬季オリンピックでスピードスケートの日本勢は大活躍をしました。その選手たちの立派に鍛えられた肢体を篠山義信氏が紹介していました。その完璧(ぺき)なまでにつくり上げられた筋肉は、スポーツ医学の勝利と言っても良いと思います。
 一方、数年前の箱根駅伝である大学のアンカーが疲労性骨折のため、競技を途中で棄権した場面をご覧になった方も多いと思います。
 スポーツには体の極限に挑むものと、健康維持のためのものがありますが、その方法を誤ると、厄介な状態が起こることがあります。
 トレーニングは筋力、瞬発力、持久力などを高めるのが目的ですが、適当な休みも必要です。オーバーユースとはこの組み合わせの欠陥による慢性の筋疲労のことを言います。
 青少年の体の発育に関しては、神経系やその他もろもろの発達より骨の方がずっと遅れては発育が完了します。骨が発育するためには骨端線というものがあり、外力に弱いとともに、しばしばスポーツ障害を起こすもととなります。
 次にしばしばみられる成長期の障害について触れてみましょう。
@ 肘(ひじ)の障害
 リトル・リーグのピッチャーにみられる肘の痛みに「野球肘」があります。最近は知らず知らずにやってくる不幸を予防するため、投球数などの規制がありますが、時々痛みを訴えて来る人がいます。親指側に痛みがくると軟骨の破壊が始まります。これは後に変形性関節症に発展することがあります。
 テニス肘は、特にバックハンドストロークで起こりやすいといわれていますが、このごろ運動に関係のない主婦にも多発する傾向があります。物の持ち方に留意すべきと思います。
 最近、運動は季節に応じていろいろな競技を体験するとともに、満遍なく体を鍛えることが必要といわれています。
A ジャンバー膝(ひざ)
 体の成長が最も盛んな小学校高学年から中学にかけて、骨は急激に長くなり、付いている筋が適合しにくくなり、痛みを生じることがあります。
 飛び上がる競技をする人たちの膝蓋(しつがい)骨(おさらの骨)の靭帯(じんたい)の付着部に起こります。オスグッド病と呼ばれるものや膝の靭帯の付着部の炎症などがあります。ストレッチ運動が推奨されます。
B 疲労性骨折など
 中学から高校に入って急に走る量が増したとき、脛(けい)骨(すねの骨)の内側が痛くなることがあります。シンスプリントといい、筋肉付着部の炎症で、2学期になると減少します。同じような場所に冒頭で述べた疲労性骨折を起こすことがあります。運動歴を詳細に調べると(この時期レントゲンに写りませんが)知ることができます。これは足の甲(第U中足骨)に起こることもあり、安静が必要です。
C 足の障害
 日本語でしばしば足と脚が混合して使われています。足は足首から先と考えてください。サッカーでは、足首の周りにトゲのような骨ができたり、これが関節の中に落ち込んだりすることがあります。小学校低学年で踵(かかと)の後方が痛むことがありますが、多くは踵骨骨端症で一時的なものです。
D 股(こ)関節の痛み
股関節の病気の中には、骨端線がずれる病気、血流が悪化して骨頭が潰(つぶ)れる病気、一時的な炎症などありますが、むしろ股関節より膝を痛がって体をふって歩くことがあり、一生の問題に発展するものもありますので、注意が必要です。
 以上、スポーツ障害について大まかな説明をしましたが、大切なことは「病院へ行くと決まってスポーツをやめさせられる」のではなく、このように「取り返しのつかない病気に気付いていないというそれなりの根拠がある」ということを理解していただきたいと思います。

[神島 茂夫,日本整形外科学会スポーツドクター・神島整形外科医院]


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