国民栄養調査から見た
糖尿病の現況

 糖尿病は古くから一般に知られている病気で、膵臓から分泌されるインスリンの作用が不足して起こる代謝異常です。目や腎臓に障害を起こさせ動脈硬化を促進し、高血圧や循環器病疾患とも密接な関係があります。

 病初は自覚症状がなく進行するのでSilent Killer(静かな殺し屋)とも呼ばれています。

 わが国の糖尿病は年々増加し、有病率は30年間で10倍以上になったといわれています。厚生省は生活習慣病という概念を提唱し、癌・循環器病疾患に糖尿病を加え、1997年に国民栄養調査と併せて糖尿病の調査を実施しました。

 20才以上を対象にして、質問表と血液検査(HbAlcを採用している)による調査で、「糖尿病が強く疑われる」は690万人、「糖尿病の可能性が否定できない」は680万人で、両者を合わせると1370万人という膨大な数になりました。1993年と1996年の調査では糖尿病を治療している患者は3年間で159万人から210万人に30%も増加しています。

 なぜ糖尿病が増えるのでしょうか。糖尿病は遺伝的素因と環境によって発病しますから、食生活が豊かになり、欧米的な生活様式に変わり、寿命が延長したことが原因と考えられます。広島大学による広島県人と広島からハワイへ移住した日系米人との比較調査で、糖尿病の有病率は、日系米人の方が3倍高いと報告しています。

厚生省糖尿病実態調査
糖尿病の強く疑われるもの

年令

男性

女性

2029

0.9

1.0

3039

1.6

1.7

4049

5.8

5.4

5059

13.5

7.5

6069

17.3

10.3

70〜 

11.3

15.5

1997年秋)



国民栄養調査からみた
糖尿病発症の危険因子


1日の総摂取エネルギーは減少傾向

1965

2,184 Kcal

1975

2,226 Kcal

1985

2,088 Kcal

1995

2,042 Kcal


脂肪摂取の増加、糖質摂取の減少

 

脂肪

糖質

1965

14.8

72.1

1975

22.3

63.1

1985

24.5

60.4

1995

26.4

37.6


動物性食品の増加、米類の減少

 

動物性
食品

米類

1965

12.7

55.8

1975

19.3

39.2

1985

21.8

34.9

1995

25.0

28.9

%はエネルギー構成割合を示す

(厚生省「国民栄養調査」)

 食生活の変化を国民栄養調査から見ると、食物摂取量はあまり変化していませんが、食物を構成するタンパク質、脂質、糖質の比率が大きく変化しており、米類の著しい現象と動物性食品の増加があります。脂肪は穀類、豆類、魚類からの摂取が減り、肉類や乳製品からの摂取が増加しています。砂糖類は減少していますが、酒類は大きく増加しています。動物性脂肪摂取の増加は、糖尿病人口の増加に関与している可能性は高いといえます。

 車中心の運動活動の低い生活も重要な危険因子です。運動は体脂肪の減少効果が期待できます。運動習慣のある人(運動を週2回以上、1日30分以上、1年継続している人と定義されている)は男性26.6%、女性22.3%と低く、特に若い人の運動不足が問題です。

 肥満は糖尿病発症に促進的に働きます。肥満の判定に体重指数<体重(kg)÷身長(m)の2乗>を用いますが、22を標準体重とし、24.2以上26.4未満を過体重、26.4以上を肥満と定義します。1980年より15年間の調査で肥満者は増加していませんが、過体重者が増加しており、特に男性中年期が顕著です。

 以上、糖尿病やその予備軍がいかに多く、特に中高年の健康の脅威になっているかを、この度の国民調査は示唆しています。ストレスも危険因子で、日本人は糖尿病に罹患しやすい民族ともいわれています。豊かな生活の中にも伝統的な日本的生活様式を考え直してみる必要があります。

[ 熊谷 弘夫,熊谷医院 ]

 


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