慢性肝炎といわれたら
肝細胞癌を減らすために

現在、日本で国民病といわれている慢性肝炎について、肝細胞癌(がん)の撲滅を視野に入れて記述したいと思います。
 成人病検診や職場検診、献血などで肝機能検査を受ける機会があります。その際、肝機能障害を指摘されて精密検査を受け、慢性肝炎と診断される方が多く見られます。慢性肝炎はいろいろな疾患の寄せ集めで、疾患ごとに診断法や治療法、経過が異なります。
 日本では、慢性肝炎といわれる疾患の代表は、ウイルス性肝炎です。ウイルス肝炎以外にも自己免疫性肝炎、原発性胆汁成肝硬変やアルコール性肝炎などがあります。
 自己免疫性肝炎は、10万人に4人程度の発生率で非常に稀(まれ)な疾患であり、中年女性に多く見られます。原発性胆汁性肝硬変も10万人に8人程度の発生率で稀な疾患。やはり中年女性に多く見られます。両疾患ともに血液中の自己抗体を測定することが診断に役立ちます。
 アルコール性肝炎は、欧米では多く見られる疾患ですが、日本では稀にしか見られません。それは欧米人と日本人のアルコール摂取量の違いによるものです。日本人のアルコールによる肝障害のほとんどは、アルコール性脂肪肝です。アルコール性脂肪肝障害から肝細胞癌が発生することは非常に稀です。
 ウイルス性肝炎は、C型肝炎ウイルスが10万人に約1000人、B型肝炎ウイルスが10万人に約600人と多く見られる疾患です。さらにウイルス性肝炎では慢性肝炎、肝硬変そして肝細胞癌と病状が徐々に進行する場合が多く見られます。
 現在、肝細胞癌の死亡数が全国では3万2千人で、10万人当たり約26人となっています。肝細胞癌の原因は、B型肝炎ウイルスが約15%、C型肝炎ウイルスが約80%です。従って、ウイルス性慢性肝炎とほかの原因での慢性肝炎では検査、治療計画に違いが出ます。
 ウイルス性慢性肝炎では、肝細胞癌を念頭に入れた治療、検査が必要になります。慢性肝炎と診断された場合には、ウイルス性かウイルス性以外が原因かを確認してもらいましょう。
 C型、B型慢性肝炎では、肝細胞癌に進行する可能性があるが、すべてのC型、B型慢性肝炎の患者さんが肝細胞癌に進むわけではありません。
 B型慢性肝炎では肝細胞にB型肝炎ウイルス遺伝子が組み込まれ、突然変異を起こし、肝細胞癌が発症することが、ときには見られます。従って、B型慢性肝炎では、肝機能が正常であっても肝細胞癌が発生する場合があるため、定期的な検査が必要ですが、肝細胞癌に進展する頻度はC型慢性肝炎に比較して少ないことが判明しています。
 C型慢性肝炎では、肝機能障害が強く、肝の線維化が強い患者さんでは肝細胞癌への移行が多く、一方、肝機能障害が弱く、線維化も少ない患者さんでは肝細胞癌への進展は頻度は少ないことが分かっています。従って、C型肝硬変では一層、肝細胞癌を念頭に入れた経過観察が必要です。
 C型慢性肝炎ではウイルスが除去されれば肝細胞癌の発症が抑えられます。ウイルスの排除を目的としたインターフェロン療法と抗ウイルス剤の効果的組み合わせ治療の開発と導入が望まれています。
 肝細胞癌は早期に発見されれば有効な治療法があるので、早期発見を目的とした一般医と専門医との連携を密にしたシステムを構築することが必要です
 現在、肝細胞癌を減らすために緊急に行なうべき施策として、40歳以上の人にHBs抗原、HCV抗体検査を一回行う。治療を必要とする例には抗ウイルス剤や抗炎症剤を用いて治療する。肝細胞癌の早期発見、早期治療を視野に入れた検査システムを構築する。これらのことで肝細胞癌発生を約1/4に減らせ、肝細胞癌死亡を約1/3に減らすことができるとされています。

[小玉 俊典,こだま消化器内科クリニック]


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